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英雄クヴァラツケリアがもたらしたジョージアの光と闇

22/23シーズンの欧州サッカーを語るうえで外せない選手であろうSSC.ナポリ所属のクヴァラツケリア。今季大ブレイクした小国ジョージア出身の22歳の若きスターは祖国において英雄として崇められる存在に上り詰めた。
今回は、計り知れない影響力を持ったクヴァラがジョージアにもたらした光と、その一方で垣間見えてしまった闇について語っていく。

1.クヴァラがもたらした恩恵

・サッカー熱の再燃

ジョージア南西部の都市バトゥミ、市民は国が巨額のお金を費やし建造された2万人収容のサッカースタジアムであるアジャラベト・アリーナの完成に懐疑的だった。「こんなに大きなスタジアムを建てたところで客は埋まるのか」「巨額のお金を費やすほどの需要があるのか」など批判的な声が各方面から上がっていた。

アジャラベト・アリーナ

この新スタジアムを本拠地にしたディナモ・バトゥミは、試合をしても観客が半分入るか入らないかだった。完成後のスタジアムの需要は市民が思っていた通りの結果となっていたのだ。しかし、2022年4月、ある男がチームに加入したことで状況が一変することになる。
そう、クビチャ・クヴァラツケリアだ。

ディナモ・バトゥミのファンは「彼が来てからスタジアムの雰囲気が一気に変化した」、「試合の度に街が活性化した」、「チャンピオンズリーグの注目試合を観に来たのかと錯覚した」と語る。

クヴァラはジョージア最大のクラブであるディナモ・トビリシで16歳の時から名声を挙げていた。そのわずか2年後には、代表デビューを果たすまでに成長した。ロシアリーグに移籍してロコモティフ・モスクワ、そしてルビン・カザンに加入した。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受けて契約が解除された後、再び母国ジョージアで天才がプレーする姿を見る機会ができたのだ。

クヴァラのプレーは人々を魅了し、バトゥミで過ごした3ヶ月間、観客が半分入るか入らないかだったアリーナは満員御礼。地元の人だけでなく、黒海のリゾートビーチや観光でバトゥミに来た旅行客もまた彼を見ようとスタジアムに足を運んだ。

試合中は彼がボールを持つ度に歓声が上がり、応援に来ていたアウェーサポーターでさえも彼のプレーに声を上げていたそうだ。

ジョージア国民はクヴァラのプレーを一目見ようとバトゥミ戦はアウェーでも毎回スタジアムが満員に。普段なら数百人の観客しか集まらない田舎のスタジアムもチケットが完売するほどだった。

誰もを魅了させるクヴィチャ・クヴァラツケリアのプレースタイルはイタリアサッカー界に留まらずヨーロッパサッカー界に旋風を巻き起こし、ナポリを33季ぶりのスクデット獲得に導いた。

ジョージアにおいてサッカーは国技とされているが、国民に浸透しているかと聞かれれば微妙だ。ブラジルなどサッカー大国では「サッカーは生きがい」、「サッカーは人生」などサッカーはかけがえのない存在であると主張する人が多いだろう。もちろん、そのような考えを持つジョージア国民はいると思うが、多くの人はサッカーは娯楽でスポーツの一種に過ぎないと考えているだろう。

しかし、"クヴァラツケリア"の存在は国民のサッカーへの価値観を一変させ、ジョージアに熱狂をもたらし、サッカー熱を再燃させたのだ。

・活性化したアカデミー

クヴァラツケリアの影響力はこれだけではない。クヴァラは子どもたちにとって憧れの存在になり、サッカー選手という夢を抱くようになったのだ。バトゥミのアカデミーは通常の10倍応募が殺到し、現在は約800人のアカデミー生がいる。

このように、小国ジョージアに誕生した新生スターはジョージアにおいて社会現象を巻き起こしたのだった

・海外旅行の人気スポットはナポリに

イタリア南部の都市ナポリは、クヴァラツケリアがイタリアに移住してからジョージアからの旅行者が増加し、今や人気の観光スポットになっている。旅行を兼ねてクヴァラを応援しようと毎試合多くのジョージア国民がスタジアムに駆けつける。

ジョージア空港統一局長によると、ジョージアからナポリの直行便を追加しようと旅行会社と協議しているようだ。

クヴァラの活躍はジョージアで社会現象を起こし、ナポリの街にも経済的効果をもたらしている。

2.垣間見えたジョージアの闇

・極右の標的に

祖国で英雄とされるクヴァラツケリアだが、彼のロシアでのキャリアはジョージア国内で政治論争の渦中に巻き込むことになる。
多くのジョージア人はロシアを"敵"であることを覚えておいていただきたい。

ロシアによるウクライナへの進行を受けFIFAが「ロシアリーグに所属する外国籍選手・監督は期限内に契約の合意がなければ、一時契約解除になり、他国クラブへ移籍できる」という移籍に関するルールを一時的に改訂した。

しかし、当時のクヴァラツはロシア出国に関する記者のインタビューで出国に関して、慎重な意見を答えた。このことにジョージアの極右派の政治家やメディア関係者、活動家からロシアのウクライナ侵攻に対して肯定的で批判していないと彼を批判した。

このような煽りを与党関係者は野党に対する燃料として利用した。「彼ら野党は、イタリアだけでなく全世界において我が国を代表するクヴァラツケリアに威厳を持って対峙している」と、去年の議会で与党のコバヒゼ委員長は冒頭でこのような挨拶を述べた。委員長は続けて「クヴァラツケリアを攻撃の対象にする者は、クヴァラツケリアより優れた人間になることは決してないだろう」と主張した。

ロシア・ウクライナ戦争は隣国のジョージア人に衝撃を与え、小国ゆえの脆弱性を認識させられた。国内の経済は苦戦しおり、政治的な内紛は悪化するばかり。国民はナポリで活躍するクヴァラツケリアの試合を見ながら90分間テレビに釘付けになるその時間はこれらすべてを忘れることが出来た。

・クヴァラツケリアの政治的利用

クヴァラツケリアがこれだけ活躍し、政治家など権力者が彼の名前を口に出すのだから、クヴァラを用いて政党の選挙活動や政党への勧誘をする事態も発生してしまっている。

元ミラン所属、カハ・カラーゼ氏

元プロサッカー選手でミランでも活躍したトビリシ市長のカハ・カラゼは市政会議で、「より多くの若きクヴァラツケリアを育て、我が国のためにより多くの成功者を生むため、公園やレクリエーション施設の増設、スポーツ施設の建設する用意がある」と述べた。彼の個人的な話やクヴァラに関するコメントは、多くの国民に若い選手が政治活動のために育てられるのではなかと懸念されている。

3.最後に

ここまで、クヴァラツケリアが祖国ジョージアにもたらした恩恵と垣間見えた闇を紹介した。スポーツ界を超えて政治の世界にも影響を与えるクヴァラ。彼の勇士はロシア・ウクライナ情勢で揺らぐ国民に希望を与えている。その一方で、権力者たちの格好の的になっていることもこのnoteを通じて知ってもらいたい。

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