昔は大いに栄えた花巻市大迫町の銘菓「峰の山河」・創業は明治中期の高鑛菓子舗
仕事で、花巻市大迫町で待ち合わせ、3人で路地を歩いた。
狭い道の真ん中に点々とマンホールがあり、これを撮る。カメラを持つ手が鈍い。
雪から顔を出しているマンホール。町を象徴する葡萄などの絵柄が目をひく。撮り終わって編集者とデザイナーと次の予定を確認して解散。私は、ちょっと寄り道。
灰色の空の下、歩くほどに縮こまる身体。向かったのは高鑛(たかこう)菓子舗。
この店構えが、いい。
3年ほど前、取材で訪れた時、奥さんから昔の話を聞いた。大迫は、昔、盛岡と遠野を結ぶ宿場町で周辺に金山もあり、栄えたそうだ。
江戸中期、釜石付近に外国船が漂着した。船にフィリピンの「葉たばこ」の種子があり、大迫で栽培されることになった。当時、日本では大迫だけで栽培された希少な葉。
江戸時代半ばには、刻みたばことして江戸などに出荷。火持ちが良く、口荒れしにくいので江戸の花魁(おいらん)たちに喜ばれた。
宿場町、金山と葉タバコで財を成した商家では競うように高価な雛人形を飾った。子供達は、「お雛さん、おみせってくなんせ」と言い家々を回った。今も続く、雛祭。
高鑛菓子舗は、繁栄を極めていた大迫で、明治中期に近江商人だった初代が銘菓「元祖えんしゅう焼き」を謹製。その後、平成に入り15年にさらに充実し「峰の山河」とした。今も一枚一枚、丁寧に焼き上げる。
「今日は冷えますね」と奥さん。
「いやあ、寒かったです。」
「コーヒーでもどうぞ。」甘えさせていただき、店の奥に腰を下ろした。
買ったばかりの「峰の山河」を食べたくなった。ここで一枚食べて行きたいとと言うと奥さんが小皿を出してくれた。
ごまの香り。品の良い銘菓だ。柔らかい餡は、甘さ控えめで、どこか懐かしい味だ。
今日も話を聞いた。
昔、街に暮らす人々は金山で働く人達を大いにもてなした。ご馳走を振る舞い、帰りに新しい草鞋(わらじ)を用意した。見送ると使い古した草鞋を水で洗った。そこに金が落ちていた、などという昔の話をおじいさん達から聞いたという。
奥さんの記憶には芸者衆の姿もあり、また、近隣の町や村から人々が買い物に来たそうだ。当時の栄華は、町屋の蔵や間口の広さ、奥行きを見れば想像できる。
ぎゅうひも一つ食べた。餡子好きにはたまらない。
御礼を言って店を後にした。
すっかり温まった帰り道。この街は、盛岡から30キロほどと意外に近い。いつか話をメモする人を連れ立ってゆっくり聞きに来てみたい。