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高速で干し柿を作る方法
2015年11月8日
秋も深まるにつれて、色づいた葉が散りはじめました。
そんななか特別存在感を示すのが柿です。
ほかのどの木よりもひと足早くすべての葉を落とし、はだかになった枝先に熟れた実をいっぱいに残している姿をあちこちで見かけます。
このあたりの家ではたいてい庭先や隣接する畑などに柿の木が植わっていて、季節が来ればきちんと実を結ぶのにもかかわらずそれを収穫して干すことは少ないようです。
(きっと昔はやっていたんだと思いますが。)
それでもたまに、よく日の当たる軒下いっぱいにずらりと柿を吊るしている家を見かけることもあってそれは圧巻です。
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このあたりに植わっている柿の実のうち、実際に干して食べられているものは5割にも満たないんじゃないかと思います。
残りは冬の前に地面に落ちてグシャッと潰れる運命なのです。
土の上に落ちてくれれば気にもならないのですが、それがアスファルトの上だった場合いたたまれない気持ちになります。
柿の木の持ち主さんたちは、木の横に札を立てて「ご自由にどうぞ」と一筆書いてくれたらなぁといつも思います。
きちんと収穫された柿の木を見るのが好きです。
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今年は渋柿がひと袋分手に入ったので、例によってインターネットに教えてもらいながら干してみました。
本当言うと干し柿は得意ではありませんでしたが、最近になってようやくおいしいかもと思えるようになりました。
白く粉を吹いた干し柿は見ためにも美味しい。
さて、柿の皮をむいていきます。
はじめにヘタの周りの皮をクルリとむいて、あとは下に向かって縦にむいていきました。
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次に紐で結んでいきます。
Tの字に残した枝に紐を結び、干したときに柿同士が触れないように間を開けるようにします。柿の触れ合いはカビ発生の原因になるのだそうです。
なんて偉そうに書きましたが、今回の柿たちにはTの枝なんて付いていませんでした。
長めに枝が残っているものには無理やり紐を結び付けましたが、短すぎるものはどうしたって無理です。
長めに残った枝もTではなくてIの形なので、紐を揺らすといくつか結んだ実が落ちてしまいました。
仕方ないので、針箱から布団針を取り出しヘタの少し下あたりにタコ糸を通していくことに。
皮をむいた柿はぬめぬめして持ちづらく、苦戦しました。
次にヒモで結んだ柿を、沸騰した湯に数秒間漬けます。
こうすることでカビの発生が抑えられるそうです。
冬なのにカビが発生するのですねえ。
あ、お餅にも生えますね。
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これを雨のかからない、日当たりの良い、サルに狙われない(重要)場所に吊るします。
しばらくすると外側が硬くなってくるので、そうしたら指で揉んであげます。
すると中までしっかりと渋が抜けるのだそうです。
揉み心地は、凍らせたチューペットを揉んで溶かしている感じです。
吊るしてから数日後。
柿が数個無くなっていました。
とっさに「サルか!」と思いましたが、足元を見ると柿が転がっていました。
どうやら紐から外れてしまった様子。
布団針を出すのが面倒だったので落ちた柿を持ち帰り、ストーブの上に吊るしてあるザルに載せておきました。
これが思わぬ結果に!
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なんとザルに乗せてからわずか2日ほどでこの姿。
おや、こんなところに(買ってきた)干し柿が置いてある?と勘違いするほど、それっぽいものになったのです。
同じ時期の、外に吊るした柿はこんな感じです。
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干し柿というものはてっきり乾燥だけでなく寒さも必要なんだと思っていたので驚きでした。
これにすっかり気を良くして、さっそく外に吊るしてある柿を持ってきて紐を外し、よく揉んでからザルに並べました。
仕上がりの比較のため、半分はまだ外に吊るしたままです。
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干し柿第一号を食べてみます。
どこから見ても、立派な干し柿。
惜しむらくは白くないこと。
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乾燥が進んで若干硬い箇所もありましたが、ほのかに甘く、ねっとりしているけれどしつこくなくて満足の出来!
ストーブの上で乾燥させれば「早い・カビない・サルいない」と干し柿作りがぐっと簡単になる気がします。
こういうものが甘い食べものの代表であった頃なら、百も二百も作って冬じゅう食べただろうなあと思います。
ところで干し柿というと、マスターキートンの月餅の話を思い出します。
物語の舞台はイギリスのある中華料理店です
店主である中国人の父親とその娘、いつまで経っても半人前扱いされる見習いの英国人青年が切り盛りする繁盛店には、キートンもしばしば通っていました。
娘と秘密の恋仲であった英国人青年は、二人の仲と自分の中華料理に対する情熱を娘の父親である店主に認めてもらいたくて、キートンに相談します。
英国人の舌に偏見を持つ頑固な父親は、青年の作る料理を決して口にしようとはせず、彼が自分の店で働く理由も真剣なものではないと決め付けていました。
そんな父親を唸らせるには、通り一遍の料理を披露するだけでは足りないと判断したキートンは、店主の思い出の味である月餅を再現することでそれを実現しようと提案します。
その月餅は、レシピが口伝ゆえに失われ、店主でさえその味を完全に再現することができずにいる、まさに思い出の味だったのです。
持ち前の調査能力で月餅の秘密を解き明かしたキートン、月餅の隠し味は「干し柿」でした。
思い出の月餅には、実は日本の「干し柿」が練り込まれていて、砂糖では表現できない上品な甘みを持っていたのです。
そしてその情報から月餅を見事に再現した英国人青年。
彼の一人前の料理人をめざす修行の日々が、ようやく始まったのでした。
(マスターキートン 11巻「特別なメニュー」より)