【画家・絵本作家の声】みやこしあきこさんインタビュー~宮沢賢治『ポラーノの広場』を描いて
これまでも、夜の情景や舞台の暗がりなどを素敵な絵本に仕立ててきた絵本作家・みやこしあきこさん。
2020年刊行の『ポラーノの広場』(宮沢賢治/作、ミキハウス刊)では、木炭や鉛筆で夕暮れの幻想的な風景を魅力的に表現しています。
2022年1月28日(金)から当館でスタートした「宮沢賢治絵本原画展」で原画を全点、展示中の『ポラーノの広場』について質問してみました。
<これまでの宮沢賢治童話へのイメージや思いはありますか>
教科書に載っているような作品しか読んだことがありませんでしたが、真面目で硬派で、正座をして読まなければいけないようなイメージでした。
<『ポラーノの広場』を描くと決まった時の意気込みを教えて下さい>
「ポラーノの広場」は読んだことのない作品でした。依頼が来て初めて読んだとき、昔話にある、夜だけ野原に現れる広場という幻想的なイメージにとても惹かれました。広場を追い求める前半のシーンは夢の中にいるような不思議な気持ちになりました。それと同時にサスペンス調の後半部分も面白く(個人的にサスペンスが好きなので)、これはこども向けの童話ではなく、大人も楽しめるものだと思いました。その2つが描くモチベーションになったところです。
「ポラーノの広場」は賢治作品の中でも長編の部類に入るもので、最初はその点数に圧倒されてしまいました。それとやはり賢治作品を描くのは気軽には始められない敷居の高い感じもあり、資料を見なければイメージするのが難解なシーンも多く、最初はどこから始めたらよいか途方にくれてしまいました。
<創作過程のエピソードを教えて下さい>
最初に読んだ時にはお話は面白かったものの、絵的なイメージを持つのが難しく何度も読み返しました。イメージを広げるために、編集者さんから大量の資料が送られてきて、それと照らし合わせながらもう一度読んで、やっと少しこの世界が見えてきました。賢治はロマンチストでファンタジーを描いているようで、実は事実に基づいて描かれている部分が多いのに驚きました。このレオーノが住んでいる古い競馬場も本当にあった場所なんです。そして月がどの方角から上ってきてモリーオ市がどっちに見えて、と全て地図上で位置が合うのです。そうやって見ていくと、間違ったことは描けないというのも難しいポイントでした。
<注目の点はどんな所ですか>
私がこの作品で最初から描きたかったのが、幻想的な「青」の世界でした。今までの作品と違い全面に色を塗りたかったので、色んな画材や色んな種類の青い絵の具を試しました。今回は水彩と木炭と鉛筆で描いています。
<作品への思いを教えて下さい>
労働や生き方に対する、全く古びない、今に通じる思想があるのはもちろんですが、それ以上に「ポラーノの広場」は賢治独特の心奪われるようなファンタジーの世界が存分に味わえる作品だと思います。こんな美しい夏の夜の草原に立ったら、本当に素敵な広場がどこかにあるのではないか。そんな気持ちになって頂けたら嬉しいです。
<ポラーノの広場』を描き終わって、賢治作品に対しての印象がなど変わったことはありましたか>
賢治さんは言葉で物語る人ですが、空間的に、絵的に世界を見られる方でもあるんだというところに驚きました。風景の描写は特に、それを目の前にしながら描いていると思えるほど具体的でした。それがファンタジーでもリアリティを生むんだと思います。
みやこしあきこさん、お忙しい中、インタビューにお答え下さいましてありがとうございました。
「宮沢賢治絵本原画展」
2022年1月28日(金)~2022年4月12日(火)
【展示作品】
『ポラーノの広場』宮沢賢治/作 みやこしあきこ/絵 (ミキハウス)
『注文の多い料理店』宮沢賢治/作 高野玲子/画 (TBSブリタニカ)
『土神ときつね』宮沢賢治/作 高野玲子/絵 (くもん出版)
※同時展示「あべ弘士の動物カレンダー展」
絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(12月~2月16:30閉館、最終入館は閉館30分前まで、最終日15:30閉館)
休館日●木曜(祝日振り替え、変更日あり・当館HPカレンダー参照)
入館料●大人800円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL 0263-83-5670 FAX 0263-83-5885
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学芸員 米山裕美