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一枚の絵からお出かけして、学問にも触れて楽しむ~推定樹齢500年の大柊【学芸員日誌】

この夏、当館企画展「いせひでこ絵本原画展~聞こえた『さよなら』の声」で展示された一枚のタブロー……、
いせひでこが描いた小説『始まりの木』(夏川草介/著、小学館刊)の表紙絵が実際にある大柊をモデルに描いていることは、当館のnote「【安曇野から発信する潤一博士の目】2 ~大ヒイラギ」でご紹介しました。

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いせひでこは必ず現地を訪れてスケッチを重ねて作品を描く画家です。
いせ先生が、描いた木を見てみたい。
小説の中に出てくるモデルになった木を見てみたい。
推定樹齢500年の大柊を見てみたい。

と、私・米山も家族で飯田市に向かいました。


【こんなところに市の指定天然記念物】

中央自動車道の建設にともなって移植されたとのことで、こんなところに!?という場所でした。
どうにか無事にたどり着き、手をあわせました。

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潤一先生から「前よりだいぶ葉が減っている気がする」との事前情報の通り、木の幹や枝が露わになっている部分が多く老木といった様子でした。

第一印象は、「これ、本当に柊の木かしら?」。
柊の木は庭先にも森の中にも生える身近な存在で、とにかく葉のトゲトゲが痛いイメージなのですが、この大柊の葉にはトゲがないのです。
人も歳をとると丸くなると言いますが、「木も同じかしら」と不思議に観察しました。

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しかし、その枝をいっぱいに広げて、周りに生える小さな若い木々を守るように立つ貫禄にため息が出ます。

【人と木の関係の深さに思いを馳せる】

案内板によれば、この大柊は室町時代に所有者家の氏神の神木として植えられたと言い伝えられているようです。

人が神木として大切にしている木は今でも各地の神社で見ることができます。
でも、この木は、神木として植えられて手を合わせられ、500年を経って、すごいスピードで自動車が通り抜けるこの高速自動車道の脇の目立たない場所で、何を思うのか。

小説『始まりの木』は、民俗学者とその下で学ぶ女学生が旅をして、日本各地の木と人の心にまつわる不思議な出来事に出会う物語が5編入っています。

“これからは、民俗学の出番です”という考え、自然に対して畏れを抱く気持ちを大切にしたこの小説の内容を、改めて大柊の前で思い出していました。

そんな感覚は私もとても共感できて、民俗学にますます興味がわきます。


【民俗学に関係する絵本原画展のこと】

森のおうちでは2017年に「遠野のおはなし絵本原画展」と題して原画展をしました。

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当時、汐文社から出ている「えほん遠野物語」シリーズ(柳田国男/原作、京極夏彦/文)の第一期が出版されたところで、その中の『まよいが』(近藤薫美子/絵)と『ざしきわらし』(町田尚子/絵)の原画全点、他を展示しました。
(「えほん遠野物語」シリーズは、現在、第三期まで計13冊が発刊されていて注目です。森のおうち内・絵本ショップ「星めぐり」へお問合せ下さい。)

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展示した原画たちはすばらしい世界観で見応えたっぷり。予想以上に男性の方々の反応が良くて驚いたことを覚えています。

その時は、柳田国男の「遠野物語」の現代語訳されているものを読みました。
全部を読むのは初めてだったのですが、読み始めると何か元々人間が持っている昔の記憶のようなものを刺激されるのでしょうか、止まらなくなりました。

そして、その期間には、地元・安曇野に伝わるお話にもやはり興味が湧いて、ご一緒にお仕事をする機会もある安曇野市豊科郷土博物館の学芸員さんに聞いて少し資料を読ませて頂きました。

自然の中にいる神々を崇拝して生活をしてきた私たちの先祖の暮らしと、その心を想像する時間になりました。


【一枚の絵から話は広がって】

夏に展示した1枚の絵から、ここまで話が広がってきました。

たった1枚の絵から楽しみは数倍、数十倍にも膨らみます。
そんな出会いが皆様にも訪れますように。

そして、そんな出会いのために、画家が実際に触れていた本物を、自身の目で見ることをおすすめします。
ぜひ美術館に足を運んでみて下さい。

田中清代A4

現在は、子どもにしか見えない不思議なもの“くろいの”と女の子の素敵な一時を描いた絵本『くろいの』の原画を含む、「田中清代絵本原画展」を開催中です。

ここにも、科学や理屈で説明のできない“不思議なもの”が魅力的に描かれています。

きっといい出会いがありますよ。


学芸員 米山 裕美

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絵本美術館&コテージ 森のおうち
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