【安曇野から発信する潤一博士の目】53~松本盆地 その2~盆地の中身は?何を語ってくれるか?
松本盆地の表面は広々とした平らであり(約480ヘクタール)、盆地内には松本空港や大きな町(松本市など)があり、水田やブドウ、リンゴなどの果樹、レタスなどの野菜畑も広がっています。生産と生活の場であり、ほぼ46万人が住んでいます。
盆地の生いたち(歴史)を知る手がかりは、堆積物と地形、火山灰層です。河岸段丘の崖には、砂利層が露出しています。鉢伏山麓にはより古い砂利層が分布しています。これらの堆積物は火山灰層(赤土)におおわれたり、火山灰層を挟んだりしています。また、深井戸のボーリング・コアも大切な手がかりになります。
盆地内の火山灰には、中南部では主に御岳火山に、北部では主に立山火山に由来します。火山灰層については、次回(54回)に紹介しますが、火山灰層は砂利層などの年代を決める“ものさし”の役割を果たしています。御岳火山由来の火山灰は「梨ノ木ローム層」「小坂田ローム層」「波田ローム層」と区分されています。立山火山に由来するものは「大町ローム層」といわれます(写真②)。
火山灰層をものさしとして、松本盆地の堆積物は古い順に、「梨ノ木礫層」「片丘礫層」「赤木山礫層」「波田礫層」「森口礫層」に区分されています(写真①)。
梨ノ木礫層は、松本盆地最初の堆積物でその最下部に御岳火山初期の軽石(ほぼ73万年前)を含みます。したがって、松本盆地の形成がほぼ73万年前に始まったことが分かります。なおこの軽石は最近話題になっている房総半島の“チバニアン”最下部に含まれ、チバニアンという地質時代の始まりを決定づけた軽石で、チバニアンの確立に御岳火山由来の軽石研究が役立った例として意義深いものがあります。この軽石の研究は、信州大学教育学部の竹下欣宏准教授によるものです。
片丘礫層・赤木山礫層は、鉢伏山麓では大規模な土石流堆積物の特徴を示し(写真➂④⑤)、松本盆地形成期中の最大の激動期=松本断層(後述)など活断層の活動と鉢伏山地の上昇の産物です。
波田礫層は、円礫層(写真⑥)で、松本盆地を埋める堆積物の中で最も厚い(100m)。波田礫層は、波田段丘面をつくる。森口礫層は、波田段丘面を削り込んで浸食段丘を形成しています。
(地質学者・理学博士 酒井 潤一)