【画家・絵本作家の声】江口みつおきさん~原画展によせて
こんにちは、森のおうちの米山です。
安曇野でも急速に草花が咲き始め、心浮き立つようになりました。
2024年最初の企画展期間も、あとわずかとなってきました。
当館は開館30周年を迎えます。その記念すべき年の始めの企画展として1月26日(金)~4月8日(月)の期間は、「豊福まきこ『おくりもの』絵本原画展」、
「江口みつおき 詩画集『風の伝言』原画展」、「バーナデット・ワッツ所蔵絵本原画展」の3タイトルを同時展示として開催してきました。
今回は、館内に掲示していました、画家・江口みつおきさんが展示に寄せてくださった思いを、こちらのnoteでもご紹介いたします。
江口みつおき さん について
江口みつおきさんが、初めて当館に来て下さったのは、もう十数年前のことだったと思います。
近隣市町村ご出身の小児科医のお医者様として、当館を訪ねて下さいました。
絵画や絵本の制作は、お忙しく医療に従事するかたわら、家に帰ってからや休日にされてきました。その実力は下記のプロフィールに記す通りです。
2009年には、始めての絵本『チーコのくれた宝物』を制作、2016年以来、当館でも、これまでに数回の絵本原画展を開催しています。
今回の展示では、2022年に「絵画と言葉で紡ぐ大人の絵本」として発刊した詩画集『風の伝言』に掲載の絵画作品を中心に、これまで出版した絵本表紙原画も加えて展示しています。
『風の伝言』の原画は大きいサイズのものが多く、抜粋での展示ですが、掲載の作品の多くが、様々な病院や文化施設の所蔵になっているため、一同に見ることが難しいため、この機会にぜひ多くの方に原画の迫力を感じていただきたいです。
江口みつおきさん展示によせての寄稿
◆絵画について◆
高校時代はアカシア会という美術部で自己主張が強い絵を描いていた。
反抗期に内在する葛藤が絵に出たのかもしれない。
医師の道に進むと日々の仕事に追われ、絵を描く時間と心のゆとりがなく、絵を描かなくなった。
獨協医科大学を定年近くになると40年間の空白を超えて絵を描くゆとりができた。
地元の絵画クラブに入れていただいて、絵心が再燃した。
高校時代と大きく画風が変わったのは医療の中で長く生きてきたことが影響したのかもしれない。医療の場では患者さんの気持ちに共感することが大切である。いつの間にか絵の中での自己主張はほどほどにして、絵を見る人の心に響く絵を目指したような気がする。
一水会では、さきや先生に絵の奥に内在する見えないものを描きなさいと指導された。風景画ではそこに宿る空気や気温、時間の流れを、鑑賞者が実際にそこにいるような気持ち思い起こさせ、小屋を描けばその主がどんな生き方をしていたか、想像を膨らませるを描きたいと思っている。
絵の前で足を止めてじっくりと見ていただけるような絵を描きたいと心掛けている。
一水会の小川先生、さきやあきら先生、アメリカの画家Andrew Wyeth,, Edward Hopper,などの絵が好きである。
彫刻では碌山のあの人の心や性格までを彫り出すような彫刻が好きである。
◆絵本について◆
絵本もやはり60歳を過ぎてから、小学校からの友人に誘われて書き始めた。
銀の鈴社のお世話になり、4冊を出版した。
「チーコのくれた宝もの」では物語をデズニーのhappy end 的な結末にしないことにより相手を思うやさしさや思いを書きたかった。
年少の幼児が好む短時間的な喜びを求める作品は苦手である。
唯一この年齢対象に「おそとであそんだ日」を書いたが、発想は小学校時代の息子が宿題?で作った手書きの絵本が元となっている。
私には乳幼児育児に対する母親の資質が不足だったかもしれない。
今は老人保健施設で働いているが、認知症で名前も年齢もみんな忘れて赤ちゃんのようになった方々と、小児科医としての経験を生かして楽しく仕事をしている。
私も将来こんな風になるかと、淡々と将来を見据えての仕事でもある。
宮沢賢治の骨太な作品、空想するが足は現実に着地している作品がいい。
他に好きな作家はガブリエル バンサン、「私の気持ちを聞いて、家出」は素晴らしい。
新美南吉の「ゴンキツネ」「手袋を買いに」などが心に残るが、これは黒井健のあの情緒的な絵でなければ絵本として成立しない。
いろいろの絵本に出てくるミヒャエル ゾーバの絵は神秘的で美しい。
◆『風の伝言』について◆
60歳ごろから一水会展、清興展、日展などに出品した大型作品もかなり貯まった。
作品をひとりでしばらく見ていると描いた時の想いや気温、空気の流れを彷彿される。あの描いた時がなつかしくなる。
この絵をたて糸にして言葉の横糸を紡いでみたくなった。
「風の伝言」のスタートである。
若い頃、深夜に私を虜にしたあのラジオ番組「Jet Stream」を想い出した「遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休めるとき、はるか雲海の上を音もなく流れる気流はたゆみない宇宙の営みを告げています・・・・・」音楽それぞれに詩を載せたのがJet Stram のラジオ放送なら、絵画それぞれぞれに言葉を編み込んだもの「風の伝言」というももう一つ発想要因である。
単発的な絵に添えた詩言葉なので通勤の電車の中、診療のちょっとした空き時間に推敲が出来た。
題名はいろいろ考えたが、遠く、近くからそして過去から伝わったものだから「風の伝言」とした。
展覧会にお越しいただいた方々には絵と詩のハーモニーで作品を鑑賞いただければ私の至福の喜びです。
ありがとうございました。
江口みつおき
江口みつおきさん最終来館日について
江口さんは、この展示期間の間、毎週末に栃木から当館に通ってくださいました。
そして、その度に同級生からお医者さんの仲間、患者さん家族と、多くの方にお越し頂き、その人脈の広さを感じています。
展示の最終、4月7日(日)と8日(月・展示最終日)も在館してくださる予定です。
ぜひ、会話を交わすことで、江口さんの魅力を感じにお出かけ下さい。
学芸員*米山 裕美
原画展情報
2024年1月26日(金)~4月8日(月)
この期間は、3企画を同時にご覧いただけます。
◆「江口 みつおき 詩画集『風の伝言』原画展」
絵画と言葉で紡ぐ大人の絵本
【展示作品】
『風の伝言』(銀の鈴社)※抜粋
『チーコのくれた宝物』、『おそとであそんだ日』、『ふしぎな国のおともだち』、『変身ミーちゃんとおともだち』(すべて、銀の鈴社)※各表紙
』
医師として診療の傍ら、油彩画や絵本を制作してきた、江口みつおきの詩画集『風の伝言』に掲載の絵画作品を中心に、絵本表紙原画も展示。
◆「豊福 まきこ『おくりもの』絵本原画展」
【展示作品】
『おくりもの』豊福 まきこ/作・絵(BL出版)全点
「ぼくのハリにも なにか できることが あるのかな…?」小さなハリネズミくんの心温まる絵本『おくりもの』(豊福まきこ/作・絵)の絵本原画を全点、読める形で展示。
医師として診療の傍ら、油彩画や絵本を制作してきた、江口みつおきの詩画集『風の伝言』に掲載の絵画作品を中心に、絵本表紙原画も展示。
◆「バーナデット・ワッツ所蔵絵本原画展」
【展示作品】
『マッチ売りの少女』アンデルセン/作 バーナデット・ワッツ/絵
『くつやのマルチン』トルストイ民話 バーナデット・ワッツ/絵
『こまったクリスマス』ラッセル・ジョンソン/文 バーナデット・ワッツ/絵
『リサの小さなともだち』ジョック・カール/作 バーナデット・ワッツ/絵(西村書店)
他(すべて、西村書店)※すべて抜粋
絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(最終入館は閉館30分前まで、変更日・館HP参照)
休館日●木曜 (祝日振り替え有り)
入館料●大人900円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9 TEL0263-83-5670 FAX0263-83-5885
http://morinoouchi.com/