【画家・絵本作家の声】まるやまあやこさんインタビュー~森からはじまる『たんぽぽのふね』絵本原画展によせて
こんにちは、森のおうちの米山です。
前回もお伝えした通り、2023年の当館の年間企画展テーマは「森よ!」
2023年1月27日(金)~4月10日(月) はVol.1として、
「森からささやく“愛しさの絵本”原画展」
「森からはじまる『たんぽぽのふね』絵本原画展」
の二本立てで御覧頂いています。
今回は、絵本『たんぽぽのふね』についてと、絵本作家・まるやまあやこさんのインタビューをご紹介します。
なぜ、今、『たんぽぽのふね』絵本原画展?
『たんぽぽのふね』は、絵本作家・まるやまあやこさんが大学の卒業制作として創作した作品です。
2016年に第13回新風舎えほん大賞の大賞を受賞し、出版されたのですが、残念ながら出版社の倒産により絶版となっていました。
それなのに、なぜ今回『たんぽぽのふね』の絵本原画展なのかというと……
3月に『たんぽぽのふね』の新装版が刊行されたのです!
森のおうちは、16年前にも『たんぽぽのふね』絵本原画展を開催しています。
そして、当時の出版社がなくなった時、あやこさんのお父様が残っていた絵本をすべて買い取ってくださったものを仕入れさせていただき、これまで細々と絵本『たんぽぽのふね』の販売をさせていただいてきました。
よくみんなで「復刊すればいいねぇ」と何度も言い続けてきたのです。
この新装版の刊行を私たち森のおうちのスタッフはどんなに喜んだことでしょう。
<『たんぽぽのふね』当館館長からの紹介文>
さらに、嬉しかったのが、新装版の帯に当館館長の推薦の言葉を載せさせていただけたことです。
世界文化社の編集者さんより、お話をいただき、お送りした紹介文がこちらです。
この紹介文の一部分が帯となりました。
まるやまあやこさんインタビュー
<当時のこと、これまでの変化>
米山:
初めて展示させていただいてから、16年。
当時のことや、これまでの変化、新装版の発刊にあたってのお気持ちをお聞かせください。
まるやま:
「たんぽぽのふね」は、私の絵本作家としてのスタートであり、原点です。大学4年間の中で、自分だけの表現や技法を見つけたいと頑張ってきた集大成(卒業制作)として、誰のためでもなく自分のために、当時の私が好きなものを詰め込んで作ったのが「たんぽぽのふね」でした。
「たんぽぽのふね」は、まず、たんぽぽの綿毛で作った立体作品があり、そこからイメージを膨らませて絵を描き、絵が出来上がってから文章を考えました。
自分で製本した「たんぽぽのふね」のページをはじめてめくったとき、とてもワクワクしたのを今でも憶えています。
それは、子どものころから絵を描くことが好きで、なんとなく、「将来は絵を描く仕事に就けたらいいな」としか思っていなかった私がようやく、「絵本を作る人になりたい」と目標を見つけられた瞬間でもありました。
とても幸運なことに、この作品で絵本作家としてデビューすることができ、森のおうちとのご縁をいただくことができました。
大学卒業後、絵本のことを学びたくてトムズボックスのワークショプやあとさき塾に通いました。
当時の私は、「絵本は絵がいちばん大切」と思っていて、文章の大切さをよく分かっていなかったのですが、講師の先生に「絵本のことを勉強したかったら、いろんな絵本を声に出してたくさん読んでみるといい」と教わり、図書館で絵本を借りるようになりました。
すると、今度は絵本の「お話」のおもしろさにどんどん惹かれていきました。
お話作りをするうちに「子ども」のことが知りたくなってはじめたのが、保育園での保育補助のアルバイトです。
毎日子どもたちに振り回されながらも、私自身の子どものころの気持ちを思い出させてもらうことができ、絵本の中で子どもの心情を細かく描くようになっていきました。
絵本というものが、私の中で「自分を表現する場所」から、「子どもといっしょにお話を楽しむためのもの」に少しずつ変わって、絵本を通して誰かと思いを共有できたり、温かい気持ちになれたりするという大きな魅力に気づくことができました。
<新装版の発刊にあたって思うこと>
米山:
今、新装版がでることについて、どのように思いましたか?
まるやま:
とてもビックリしています。『たんぽぽのふね』が皆様のお力を借り、新しい旅に出るような気持ちです。本当にありがとうございます。
<技法・画材について>
米山:
原画を見ると、特によく分かっていただけるのですが、絵が描かれている地がザラッとしています。
これにより、タッチが独特のふんわりとした空気感になっているかと思いますが、どのように描いているのでしょうか。
まるやま:
空研ぎ紙やすりの80番手(または100番手)を木製のパネルにボンドで貼り、下地のジェッソを塗ってから、アクリル絵の具で描いています。研磨材の粒子のザラザラとした質感や、なかなか思ったように描けないけれど、偶然素敵なグラデーションやにじみが生まれたりするところがとても好きです。
<デビューからこれまでをふりかえって>
米山:
デビューからすでに多くの作品を創り出していらっしゃいましたが、改めて、『たんぽぽのふね』を刊行するにあたって、この作品について感じたことや、思ったことはありますか?
始めの質問とかぶる部分があるかと思いますが、『たんぽぽのふね』が作家活動の中でどんな存在として、あやこさんの心の中にあるかをお聞かせいただきたいです。
まるやま:
デビューから16年。とても幸運なことに、今までたくさんの作品に携わらせていただきながら、「絵本のお話」と「子ども」の世界を旅してきたように思います。私にとって、かけがえのない宝物のような16年でした。
5年前、私は再び故郷の安曇野で暮らしはじめました。
一度離れて外の世界を見たことで、子どものころには分からなかった、安曇野の風景の美しさや大切さに気づくことができたと思います。
久しぶりに「たんぽぽのふね」のページを開いたとき、大学生のころの、自分の表現を見つけようと一生懸命だったころの部屋に帰ってきたような懐かしさと、未熟な表現の中にも、はっとさせられる力強さを感じました。
昔の作品に力をもらい、今も少しずつですが紙やすりとアクリル絵の具で絵を描いています。
この春、「たんぽぽのふね」新装版が発刊されることになりました。
「もう一度、原点に戻ってがんばってごらん」と誰かに背中を押してもらえたような、とても不思議な気持ちです。
「たんぽぽのふね」といっしょに新しい旅に出かけたら今度はどんな素敵なことが起こるんだろう! ちょっぴり怖いけれど、今はとてもワクワクしています。
<作品をご覧になった方へのメッセージ>
まるやま:
作品を御覧いただき誠にありがとうございます。
私はたんぽぽの綿毛が大好きです。
丸いふわふわの綿毛を見ていると、とても優しい気持ちになれるような気がするからです。
大好きな安曇野の風景と優しい気持ちが皆様の心の中にも広がっていきますように。
ありがとうございました。
米山:
あやこさん、お話しを聞かせて下さり、ありがとうございました。
原画で作品を
ご紹介したように、『たんぽぽのふね』の原画は、紙やすりに描かれていて独特の雰囲気があります。少し、日本画も思わせる優しさと澄んだ空気感も、原画でご覧頂いた方がより感じていただけるかと思います。
展示室では、絵本創作の元となった立体作品も展示しています。
この機会に原画展に足をお運びください。
<コラボレーション作品も>
まるやまあやこさんのご主人様は、 アクセサリー作りをされている方です。
今回の展示がはじまってから、当館ショップでも自然から着想された手作りアクセサリーを、あやこさんの作品(販売用)と一緒においています。
お互いの作品からインスパイアされたコラボスペースとして素敵な一角になっています。
こちらもご注目ください。
「森からはじまる『たんぽぽのふね』絵本原画展」情報
「森よ!」Vol.1●2023年1月27日(金)~4月10日(月)
「森からはじまる『たんぽぽのふね』絵本原画展」
<展示作品>
『たんぽぽのふね』まるやまあやこ/作・絵(世界文化社)3月刊行予定
原画全点&立体作品
【同時展示】
「森からささやく“愛しさの絵本”原画展」
<展示作品>
『ほしをさがしに』
『ねえねえ あのね』
『ありがとう なかよし』
(すべて、 しもかわらゆみ/作・絵 講談社刊)
上記、各原画全点&資料
絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00※12月~2月16:30閉館(最終入館は閉館30分前まで)
休館日●木曜日※2月のみ水・木曜日(祝日振り替え、変更日あり・当館HPカレンダー参照)
入館料●大人800円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL0263-83-5670
FAX0263-83-5885
http://morinoouchi.com/