【安曇野から発信する潤一博士の目】40~海抜2180m,御岳山 田の原湿原~
御岳火山東斜面で、王滝村からの林道終点に、田の原湿原があります。海抜2180m~2190mに、湿原が広がっています。湿原には、木道が設けられ、散策しながら、植物や雄大な風景をたのしめます。湿原には、樹高数mの樹木が侵入し始めており、湿原としては、最終段階に入っているようです。樹木は、針葉樹が多く、亜高山性のオオシラビソ、シラベ、コメツガ、トウヒなどと、高山性のハイマツなどです。落葉広葉樹のナナカマド、ダケカンバなども見られます。
駐車場から、この湿原を通り、王滝頂上に至る登山道が延びており、御岳火山南斜面には、1984年9月14日に発生した長野県西部地震のよる、大きな崩壊地形も遠望できます。
かつて、「木曽ヒノキの成立過程」に関する調査で、この湿原にトレンチを掘り、湿原の歴史を調べたことがありました。トレンチは深さ1mまで堀り、深さ80㎝まで泥炭が堆積していました。その下位には火山灰層が広がっていました。深さ36㎝で採取した木片の年代測定の結果は、850±110 14C年でした。この値から、湿原の形成は、ほぼ2000年前頃に始まったものと推測されます。
厚さ80㎝の泥炭及び泥炭堆積物に含まれる花粉化石は写真⑧のとおりでした。この花粉ダイアグラムには、田の原には生育していない植物の花粉化石がたくさん含まれていました。例えば、コウヤマキ、ヒノキ、ブナ、コナラ、ツツジ科などです。その理由は、田の原は、地形的に草安部に位置するため、北方(南俣川や油木国有林)や南方(鈴ヶ沢)などから、風が吹き上がり、低い所の植物の花粉を運んできたためと推測されます。一方、湿原の植生だったと思われるイネ科やカヤツリグサなどの草木の花粉もたくさん含まれています。それらの草木花粉は、湿原に樹木が侵入するにつれて、減少していく様子も見てとれます。
(地質学者・理学博士 酒井 潤一)