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【安曇野から発信する潤一博士の目】38~木曽川泥流、濃尾平野に達する~

 木曽川泥流(上流部は岩屑なだれ堆積物、下流部は泥流堆積物)は、5万年前に、御岳火山の摩利支天山ー剣ヶ峰間の山体が崩落して、巨大な岩屑なだれとして発生した(千葉 恵美、1996,MS)。

 木曽川泥流は、御岳火山東麓の西野川から王滝川、木曽川と流れ、濃尾平野にまで達した(総延長100㎞、写真⑦)。この堆積物は、西野川、王滝川では岩屑なだれ堆積物の岩相(写真①、②)を示すが、木曽川ぞいでは、次第に泥流堆積物の岩相に移化する。王滝川と木曽川の合流点より、やや下流部では、なぎ倒された生の樹幹が残されている。炭化していない(写真③)。
 木曽川泥流の流下時には、上記水素では高部礫層が堆積中で、その上に木曽川泥流が堆積し、広く河岸段丘面(高部面)を形成した(写真⑤、⑥)。高部段丘は、西野川、王滝川、木曽川ぞいに広く分布し、木曽谷では、貴重な平地を形成している。同段丘面には、JR中央線、国道19号線が走っている所が多く、“交通段丘”などと愛称されている。
 木曽川泥流の流下速度は、それを決定できるデータが無く、不明ではあるが、本ブログ㊲の“伝上流型土石流”の時速70㎞を参照すれば、濃尾平野までの100㎞を3~4時間で流下したのではないかと推測される。現代において、同規模の岩屑なだれが発生すれば、その犠牲者は、数万人に達する恐れがある。なお、千葉(1996,MS)は、この岩屑なだれの原因は、地震の可能性が大きいと指摘している。

写真①、御岳火山東麓の柳又。西野川左岸の大崖、厚さ数十㎝の岩屑なだれ堆積物。
写真②、岩屑なだれ堆積物の岩相、①よりやや下流部。
写真③、王滝川・木曽川合流点より、やや下流の木曽川右岸。岩屑なだれに引きちぎられた樹幹。炭化していない。
写真④、樹幹を保存している場所。③が見られる。
写真⑤、木曽郡大桑村野尻、木曽川右岸の高部段丘。段丘構成物の最上部数mが木曽川泥流。
写真⑥、岐阜県坂下町の河岸段丘分布図。凡例2の茶色が高部段丘。その最上部を構成するのが木曽川泥流(厚さ2~3㎝)。
写真⑦、木曽川泥流分布図(千葉恵美、1999,MS)。濃尾平野まで、ほぼ100㎞。


(地質学者・理学博士 酒井 潤一)


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