めちゃめちゃ怒られた話
近くの施設の社長にめちゃめちゃ怒られた。
多分怒るのが好きな、モラハラ気味の社長。
でも怒られる発端はこちらにあるから仕方ない。神妙に頭を下げる。
怒っている時は何を言っても怒る。こちらの話は一切聞かず、発した言葉のあげ足をとり、またそれで怒る。目をまんまるにひん剥き、唾を飛ばし、テーブルをたたき、怒鳴り散らす。
おお怖。と思って見ているとまた怒る。
ことの発端はこうだ。九州でちいさな宿を購入しリノベオープン準備で外壁塗装の工事をしていた。
敷地四方は駐車場と空き地、隣接する建物はない。とはいえ足場を立てねばならず、まずはご挨拶と道路を挟んだお隣の宿と、隣接の土地の所有者(管理者)を探し出し挨拶を済ませた。その駐車場は怒りの社長の施設のもの、挨拶に行った時社長
は休みで、総務部長の様な人に代わりに挨拶した。その人は社長に伝えておくから工事は始めて構わない、そしてまた社長につなぐと言った。私は連絡を待っていたが一向に連絡は来ず、その翌週夫と訪ねた時も留守だった。社長はお忙しいのだろう。
とりあえず最低限の挨拶は終わったので工事は始まる。
施工会社は九州No.1を掲げていて、営業担当も優しげな感じの人だった。外壁塗装は大金なので悩んだが、気持ちよく開業できるよう九州No.1を信用しお任せすることにした。
私はまだ引越しが終わっておらず、実家と九州を行ったりきたりしていた。ある日、室内の補修をお願いしていた別会社から連絡が入る。どうやらうちの工事の職人が怒る社長の施設のトイレを勝手に使ったと。私は驚いてすぐに営業担当に連絡し、ことの次第を伝え、対応を依頼した。ご近所さんに迷惑がかかるのが一番困る。すぐに対応して欲しいと伝えた。もちろんすぐに事実関係を調査し、改善し、先方に謝罪に行ってくれるものと思っていた。
よそ者でそこで初めてビジネスを始めるものとして、まずは周辺とうまくやっていかなくてはならない。まわりから応援してもらえるような施設でありたい。私はいつも思っている。
実は工事が始まる前、工期が急に2日早まった。わたしはまだ空き地の管理者にご挨拶に行けておらず、まだやめてほしいと伝えたが、挨拶に行っていない土地以外の足場はぐんぐん立っていった。
慌てて挨拶に伺う。そこは地域の立派なお寺だった。
住職「なんか大きなもんたててるなあと思っていたよ」
私「すみませんご挨拶が遅れまして…」
住職「いつからいつまで?」
私「⚫️日くらいまでかかるようです。」
(そばに居た二代目らしき方が)「それは困ります。⚫️日に大きな法要があり車が100台くらい来ますから。」
私(そうだよね、そんなこともあるよね)「ではその当日は工事をお休みにしてもらいます。ご迷惑をお掛けしないように。」
住職「それならいいですよ。なんかあってからでは遅いからね」
ご挨拶しておいてよかったとホッとした。何かあってからでは遅い。
久しぶりに現地に戻ると、工期の工程表からは遅れている様子、工期は明日までだが明日には終わりそうにない。
大丈夫だろうかとかすかな不安がよぎる。
遅れるのは構わない。天気もあるし不測の事態もある。こちらもまだ開業日を決めていない。とはいえ遅れることが分かっているならば、状況は報告してほしい。私は担当者に連絡した。
私 「工期はどうなっていますか、それからトイレの件はどうなりましたか?」
担当から返事が来る。
担当 「少し伸びますが、あと2日ほどでおわる予定です。トイレはその後利用しないようキツく言っています。昼にコンビニで買い物する時に行くようです。」
私 「先方に謝罪に行かなくていいですか(物事は片付いていますよね?)」
担当 「私どもで対処しますから大丈夫です。」
そして翌日、かの怒れる社長から呼び出しが来る。
彼らは謝罪に行っていなかったのだ。
はあー、大きなため息が出る。どういうことかと。あんなに周囲とうまくやらないといけないから気をつけていたのに。そして担当さんにも気をつけて欲しいと何度も言っていたのに。
すぐに対応すると言っていたのに。
私共で対応すると言っていたのに。
かくして私は翌日かの怒れる社長の前にいる。
怒鳴られ、けなされ、人格を否定され、謝り続ける。
「あなたのところのやり方がよく分かった。人のトイレを勝手に使い、知らん顔している。」
その通りだ。返す言葉もない。
「自分のところで用意せず、あっち使ったれってなもんやろが。」
そうではない、まさかそんな事思うわけもない。ただ私は職人さんのトイレには思いが至っていなかった。それについては外壁会社の範疇だと思っていた。
なんなら外壁会社がすでに対応してくれていると思っていたし、謝罪に行く必要はないとも言われた。
私の顔にそれが出ていたのかもしれない。
「あんたらの根性はよう分かった。」
さんざんねちねち怒られたあと、
「あんたらは全然理解してない。許さんからね」
と言って追い出された。
久しぶりに怒られてどっと疲れ、その日は寝込んでしまった。
私はその温泉が好きだ。
昔ながらの風情もトロトロですごく熱いのになぜか入れるお湯質も。おばあちゃんたちがおしゃべりしながらのんびり入っているのも。
豪華ではないけど整えられた宿もよく泊まった。
温泉に浸かりながらなぜこんなことになってしまったのか考える。
対応を人任せにしてしまったこと。私の思いやりが足りなかったこと。
外壁塗装の職人さんだってトイレはいる。どうしているんだろうと、気にすればよかった。
問題が起こった時に、施設のオーナーとしてすぐに謝罪の電話をするべきだった。
最初に挨拶に行った時に社長が不在でも、連絡を待たず何度も顔を合わすまで伺うべきだった。
多分これが一番ポイントだった。ここで顔を合わせて話をし、お互いの人となりが分かっていたらこんなことにならなかった。かもしれない。
私ができたはずのことはたくさんある。
たかがトイレ、されどトイレ。それも一見公共トイレに見える温泉施設の観光客なら誰でも使うオープンなトイレ。
それを見張り、お客でないとわかれば後をつけてクレームをつける社長の執念。
世の中には色々な人がいる。
一緒に謝罪に行った外壁塗装の棟梁が言う。
あの人は偏屈で有名なんだ。だれにでもああだから従業員がみんな辞めてしまったらしい。
私は驚く。分かっているならなんであなたの会社はもっと早く対応しないのか。
その後夫から再度謝罪の電話を入れて貰うと穏やかだったと。一度怒って気が晴れたか、女だから強く出たのかは分からない。
今後ここでビジネスをやっていくにははなはだ不安がつきまとう。
怒れる社長はそばにいる。そのお膝元でビジネスはできるのだろうか。
因果応報、もっと徳を積んで修行せねば。