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友とタクシードライバー

しばらく前、わが家に突然訪れた人がいた。

「○さんでしょうか、私は島の観光タクシードライバーの□というものです」

「はい、どうも」

「福岡の△さんというかたをご存知ですか?」

「はい、知ってますが」

「先日2日ほど△さんをご案内したのですが、その時、○さんがどこに住んでいるかわからないですかと聞かれて、わからなかったのですが、女房に聞いてみたら、あの人じゃないかというので、いろいろ調べてここに住んでおられることがわかりました」

「はあ、そうなんですか」

「それで次の日に、ここまでご案内しましたが、そのまま帰られたので、お節介かとは思ったんですが」と△さんの名刺を出す。

「えー、そうだったのですね、わざわざありがとうございます、奥さまはお元気ですか、ここよくわかりましたね」

中高と一緒だった同級生は、地元の企業の偉いさんになっていると風の噂で聞いていた。
費用もバカにならない島に一人で来て1泊2日、直行便は正午頃に一便なので正味一日しかない。
そんな旅行者はいない。

後でよく考えてみた。
一度は行ってみたいところだし、もしかして私の消息がわかるかも知れないとやって来たが、あまりにみすぼらしい家に住んでいるのを目の当たりにし、会わずに帰ったのではと思うに至った。

結局、電話はしないままだったが、私はそのことよりも、人口1万2千もいる島の狭さを思い知る。
たまたまドライバーの奥さまと一緒に短期間働いたとはいえ、その頃は苗字も違ったし、何度も引っ越ししているのだ。
私は奥さまの顔もあやふやである。

どんなふうに調べたのだろうか、そっちのほうが気になった。
そして頼まれてもいないのにわざわざ知らせにくる優しさというか、思いやりというか、好奇心というか島の人らしいなと思った。

昨日書いた、兼好さんが物陰から月を眺める女人を見ている姿とかぶって思い出された出来事である。

私はしがらみを振り切って島に移ったので、負い目がある。
島を訪問してくれれば誰でも、会うのにやぶさかではないが、じぶんからは敢えて連絡はとらない。
近ごろ、知り合いの訃報を次つぎと聞くようになってきた。
知らずしらずに時は流れている。

いつも読んでいる空を飛ぶ土竜さんの昨日の投稿は「タクシードライバー」だった。
シンクロニシティ?
タクシードライバーだった頃のエッセイを書かれている泉順義さんの紹介もされていたので読んだ。

それで私も紹介しようと思う。

風はまだ唸っているがようやく台風は通り過ぎた。
停電も回復した。
ご心配をおかけしました。
今からの地域の方はご注意ください。

長い文を読んでくださってありがとうございます。

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