民営化問題
またしても興味深いネット記事の紹介です。サッチャー政権下で民営化されたイギリス国鉄が再び国有化されるようです。日本でも水道事業の民営化が世間を賑わせていましたね。この記事でも触れられていますが、イギリス国鉄のケースは日本の国鉄の民営化とは異なっています。今日はその辺りを簡潔にまとめたいと思います。
民営化と上下分離方式
まず民営化を異論するにあたって重要なのは、巷でよく聞く"広義の民営化"と、法制度上の"狭義の民営化"を区別することです。前者は、PPP/PFI(官民連携)や指定管理者制度なども含めて公共サービスの提供に民間セクターが関わること全般を指していることが多いです。一方の後者は、国有企業を商法上の会社組織として改組することを指します。日本の国鉄の民営化はこれに該当します。なお、このエントリーでは"広義の民営化"のみを"民営化"と呼ぶこととします。
また、上下分離とは、線路等の設備の維持管理事業への事業権を持つ企業と、旅客あるいは貨物の輸送事業への事業権を持つ企業を分断し、それぞれが独立した経営を行うことを言います。イギリス国鉄のケースは、「上下分離と民営化を同時に行った」と言えるでしょう。
国鉄民営化
日本でも、国鉄以外に多くの国有企業が民営化されてきました。私は小泉政権下での「郵政民営化」がとても印象に残ってます。
日本電信電話公社 → NTTグループ
日本専売公社 → 日本たばこ産業株式会社(JT)
日本国有鉄道(国鉄)→ JRグループ
日本郵政公社 → 日本郵便
他多数
国が違えば法制度も違うので、イギリスと日本の国鉄の民営化を比較することはできませんが、前述の通り、イギリスは上下分離方式を採用している一方、日本では商法会社化、文字通りの民営化が行われました。冒頭で紹介した記事の内容を見ると、イギリス国鉄のケースでは、鉄道事業の上(列車)と下(線路)の独立した運用が非効率性を生んでいたようです。日本でも、新たに整備された新幹線と並行する在来線(青い森鉄道、えちごトキめき鉄道、IRいしかわ鉄道、肥薩おれんじ鉄道など)が上下分離方式によって運行されていますが、これによる非効率性は生じていないのか、気になるところです。
最近では、災害復旧のために民間鉄道会社(上田電鉄)の鉄橋の所有権を地方公共団体(上田市)に移すという取組みが行われています。これによって国費による再建が可能になり、鉄道会社の経営を圧迫することなく復旧することができるとのことです。鉄道事業は営利事業であると同時に地域に欠かせないサービスですので、上田市の判断は素晴らしいと思います。
公共サービスを民間企業が提供すること
最近では、水道事業や空港事業において、PPP/PFI手法による民間企業の参入が進められています。このような取組みは民営化とは異なり、契約に基づいて公共事業の一部を民間企業に委託するというものです。したがって、事業の最終責任は公共側が負うこととなります。つまり、公共事業の"実施"と"管理"が分離されることになります。このことは、公共セクターの役割が"実施"から"管理"へと変異していることを意味します。
日本は人口減少社会に突入しています。公共事業の実施にも人的リソースが必要ですが、過疎地の地方公共団体では職員を確保することさえ難しくなっているようです。今後、昨年の水道事業"民営化"問題のように、公益事業の"民営化"に関する問題が頻出してくることが予想されます。公共セクターがどうしても担わなければならない部分と民間セクターのリソースを活用した方が効率的な部分を見極めたうえで議論を尽くしていくことが望まれます。