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第16話「追い詰められて」

先日、僕のメンティから、
あるプロジェクトに忙殺され追い詰められて、
誰も助けてくれなくて
とても苦しかったとの話を聞いた。

取引先の非常に厳しい要求、様々な申請書の提出、
普段は数人でやることを一人で任されて
というか押し付けられて潰れそうになったと言う。

周りの同僚が見兼ねて、
手伝うと上司に申し出てくれたのだが、
上司からは一切手伝うなと止められて、
毎日朝早くから終電帰りの
あまりのハードな状況を
目の当たりにしていた現場に
派遣されてきた人たちから、
兎に角休んだ方が良いと言われたのだけど
どうにか耐え切ったとのこと。

要は、仕事があまりにもキツく
酷いということなのだ。

唯一、救われたのは、
その業界のレジェンドと呼ばれる人が、
何とオープンニングの日に現れた。

現場の人達から
とても頑張っている
という話を聞いて
助けに来てくれたと聞いた時には
泣きそうになったとのこと。

見てる人は見てるのだ。 

僕は、その話を聞いてよかったなと思った。

長時間労働がいいわけではないが、
真剣に仕事を向き合う、
追い詰められるぐらい仕事をするとなると
一切無駄な時間を過ごさず、
非常に密度の濃い時間と仕事ができ、
彼女の限界が明らかに広がったと言うか、
最悪のベースの基準が変わったのだと思う。

だから、今後、少々のことではへこたれず、
その経験と比較して、
楽に思えるようになるのだろう。

レジリエンスと言う言葉が最近よく使われるが、
レジリエンスは
この様な厳しい経験なしに身に付かない
のではないかと思う。

日本人は、働かないと言うのは、
世界の常識になりつつあるから、
仕事の内容で勝負する様になると、
日本人はもはや敵わない。

では、どうするか?

自分の限界を超える仕事に
若いうちに何度かチャレンジするのだ。

逆に楽な仕事についているなら、
自分は何と損をしているのか?
このまま時間を無駄にして
成長せずに過ごして良いのか
と考えるべきだと僕は思う。

ある時、
僕が入社面接をした30過ぎの後輩から
連絡があって、物産を辞めると言う。

「何故?」と聞くと
給料が高すぎるからだと言う。

大した仕事をしてないのに、
給料が高すぎることは、
小さい子供の頃からなんでも買ってもらえて
甘やかされて育ってしまった我儘な大人の様に、
いずれ使い物にならなくなってしまう。

入社以来甘やかされてきて、
このまま行ったら40歳過ぎには
社会では役立たずになってしまうと言う。

なるほど。

「辞めて何をやるのか」と聞くと、
辞めることを決めたけど、
何をやるかはまだ決めていないと言う。

「どこか会社を紹介しようか」と言うと、
自分で探すし大企業は興味ないとのことだ。

自分の脚で歩くのだろう。

毎日、腕立てでも、腹筋でも、走ることでも
少しでもやっている人と何もやらない人では、
10年後に明らかに体力に差が出るように、
精神や仕事についても、
真摯に向き合ってきた人と
何となく楽な仕事ばかりを選んできた人とは、
10年後、20年後、いや5年後でも
明らかに差が出るものである。

僕が入社した時の部署は、
一番近い先輩が40代後半の課長
という歳が離れていた。

他の新人は2〜3年上の先輩が
厳しく鍛えているだけでなく、
毎日飲みに連れて行ってくれて、
説教や経験談を聞かされているのを見て
羨ましいと思ったものだ。

でも、彼らから見れば、
僕はうるさいマンツーマンリーダーがいなくて
自由でいいなと言われたのだが。

だから、僕は自学自習するしかなかったのだ。

そんな僕が、ある時、
馬鹿みたいに働く部署に移った。

毎晩、夜12時近くまで働き、
それから、六本木とかに飲みに行き
家に3時から4時に着き、
朝9時に出社する。

その時、多くを学んだのだが、特に
『お前は人より仕事が早いけど、やっつけ仕事だ。
そんな仕事しかできないなら、辞めちまえ』
と散々怒られたことは心に刺さった。

また、これは普通はやらないだろうとか
不可能だろうと思える難しいことでも、
兎に角やるんだ
と言う無茶苦茶な部署でもあった。

ある時、ロシアから夜10時過ぎに、
ある機械の見積りを出して欲しい
とのテレックスが入った。

携帯電話もインターネットもメールもない時代だ。

上司に明日の朝一番で、
「メーカーに連絡します」と言うと、
何を悠長なことを言っている、
すぐにメーカーに連絡をしろと怒られた。

勿論、会社に電話をしても誰も出ないので、
その旨を伝えると更に怒られた。
お前は、担当の会社の部長や
役員の自宅の電話番号を知らないのかと。

彼は、おもむろに手帳を開き電話をかけ、
飲んで酔っ払って
床につこうとしている部長を説得して
強引に見積りを取ると共に
他社に見積りを出さない様に依頼した。

ほら、値段をとったから、すぐに書類を作れ
と言われて、夜中の1時過ぎまでかかって
テレックスを送った。

翌朝会社に着くと、
モスクワから、その案件の受注内示を取り付けた
との連絡が入っていた。

上司は、ほら仕事とはこう言うものなのだ
と言う思いを込めて僕に
よく頑張ったなと背中を叩いた。

人一倍妥協せずに努力し追求する姿勢に
モスクワ店の人もメーカーの部長も上司も
どこかしっかりとした信頼に結ばれていることに
プロなんだな、この人たちはと感じた。

本当に忙しくて、
でも本気で案件を取るために仕事をしていると、
寝なくてもとても充実していて疲れを知らない。

単に仕事をするだけでなく、
仕事を終えて毎晩飲んで帰るのだが、
そうしないと日々の仕事の緊迫感から
解けないものだ。

もちろん、入札の時など、
室員全員で徹夜で入札書類を作り、
落札した後は、
昼からみんなで焼き肉で祝杯をあげて、
カラオケに行って、翌日はみんなで休む
などメリハリがあって楽しかった。

教育を受けず、
いい加減な仕事しかしてこなかった僕が
生まれ変わるきっかけになった経験であり、
以後どんなことでも不可能なことはない
と思うようになった。

ただ、プロ意識がない人、
即ち自分の仕事という
オーナーシップの気概を持たない人と
仕事をやると、相手の仕事のいい加減さ、
スピード感に失望することがある。

まだプロでなくてもいい、
しかし、一流を目指して努力する姿勢があれば、
応援しいろいろなことを伝え、
更にそっと見えないところで
支援をしたくなるものだ。 

さて、僕はプロフェッショナルなのだろうか?

甚だ疑問は残るが、
プロフェッショナルを目指して人一倍努力をしよう
と言う気持ちはまだ残っている。

結局、足掻き続けるのかも知れない。


森の黒ひげ塾
塾長 早川 典重

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