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デザイン思考と戦略思考の違いについて

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結局、デザイン思考(デザインシンキング)はどのような点でユニークなのだろうか

 世間では「デザイン思考(デザインシンキング)」が流行っている。関連本も多く出版されているし、デザイン思考を学ぶ講座も人気があるようだ。このトレンドは僕自身の周囲でも例外でなく、デザインファームで働きはじめた知人もいるし、米国のデザインスクールに留学した後輩なんかもいる。

 一方、多少の関連本を手にとってみたり、自称「デザインシンカー」という友人に話を聞いたりしたのだけれど、戦略コンサルティングファーム出身(かつデザインシンキングは素人)の僕が最も気になっていた「デザイン思考と戦略思考はどう違うのか(より具体的に言えば、デザインファームのアプローチと、戦略コンサルティングファームのアプローチは、何がどう異なるのか)」という問いに対する答えを、明確な形で示してくれる回答は残念ながら皆無だった。

 けれども最近、デザインシンキングについて少し腰を据えて学ぶ機会があり、そのおかげで上記の大きな問い(とそれに関連するいくつかの小さな問い)に対する暫定的・初期的な答え(仮説)が僕の中で見えてきたので、ここに簡単なメモを残したいと思う。(とは言え、「暫定的」かつ「初期的」な答えに過ぎないので、異論があったら是非お教えください。)

*ここでは、やや同語反復的であるが、戦略コンサルティングファームの思考方法・問題解決アプローチのことを「戦略思考」と呼んでいる

**また、ここで言うデザインシンキングは、Human Centered Designを実現する上で用いる方法論を指す

戦略思考が「組織として合意形成(意思決定)ができる一貫性のある、競争戦略・計画の策定」を目指すのに対し、デザイン思考は「ユーザー起点での革新的なソリューションの提供」を目指す

 (僕自身の不勉強もあり)明確に書かれているものを見たことがないのだが、この2つの問題解決に向けた思考方法/アプローチは、そもそもその使用目的が全く異なっている(故にそのスタイルが違ってきている)というのが、僕の見解だ。

 歴史的に、戦略コンサルティングファームは「いかに合理的な戦略計画を立案するか」「組織の計画を末端まで浸透させる上で、いかに経営管理を行うか」といった計画・経営管理系のイシューに対する価値提供から始まり(McK)、「いかに競合との競争に勝つか」という(割とマクロな)競争戦略上のイシューに対する価値提供(BCG)に広がっていった。当時は比較的右肩上がりな時代であったこともあり、戦略ファームのアウトプットには新規性・斬新さを必死になって追求する必要もなく、むしろ、クライアントが納得できる、一貫性や合理性が求められてきた(もちろん、BCGのPPMなど、分析手法としては斬新だったのだけれども)。

 これが、戦略ファームがその思考のスタイル/成果として、合理性、論理性、客観性(ファクト・数字の重視)を重んじる「戦略思考」を発展させてきた背景だと僕は考えている。

 一方のデザインファームは出自、提供価値ともに、戦略ファームとは大きく異なる。濱口秀司さんの2015年1月のインタビュー記事に詳しいが、デザインファームは「商業的に成功するモノのデザインはどうあるべきか」という問いに始まり、「ユーザーの好反応を引き出すデザインを、どう実現するか」という課題を解いていく中で、現在の組織スタイル・提供価値を築いてきたと言う。おそらく最初は、クライアント企業のカウンターパートも、R&D部門や新商品開発部門が多かったのではないだろうか(これは、カウンターパートが経営管理/経営企画系の部門であることが多い戦略ファームとは対照的だ)。

 こうした出自、カウンターパートの性質、元来クライアントから期待されている提供価値の違い故に、デザインファームでは(合理性よりも)新規性・斬新さ、(確実性・計画性よりも)失敗からの学習(素早いプロトタイプ作成の繰り返し)などを重んじるようになったのではないか。

 以上のように、2つの「思考方法」は、そもそもの使用目的が全く異なっていたことに留意すべきだと思う。そして、その使用目的の違い故に方法論が異なってきていると認識すべきではないか(濱口さんも書いている”デザインファームの戦略領域への進出”の評価については後述する)。

デザインシンキングは「思考の方法(頭の使い方)」ではなく、問題解決におけるアプローチ・プロセス管理の方法を指す

 ここまで、敢えて戦略思考という表現を採用してきたが、戦略思考の下敷きとなっているのはあくまで(巷で呼ばれる)ロジカルシンキングである。ここでは、ロジカルシンキングを基本とし、3C分析やら4P分析やらバリューチェーン分析やらを行い、アウトプットを組み上げることを、戦略思考と呼んでいる。

 ロジカルシンキングは、「シンキング」と言うだけあり、Why So?/So What?とMECEなり、演繹法/帰納法なり、とにかく方法論に落ちた頭の使い方のパターンである。

 一方で、デザインシンキングには、持つべきマインドセット・姿勢や、従うべき問題解決のステップはあるが、ロジカルシンキングのような「採用すべき頭の使い方」は存在しないように思われる。

 むしろ、正しくデザイン「シンキング」を実践する上では、ロジカルシンキングを下敷きとすることが不可欠なのではないか、というのがデザイン「シンキング」を少しかじってみた僕の率直な感想だ。

 例えば、デザイン「シンキング」の過程で、ユーザーの観察からインサイトを引き出す際の頭の使い方は、定量分析の結果現れたたくさんの数字から示唆を抽出するときの「SoWhat」的な頭の使い方と一緒であるし、ユーザーエクスペリエンスを設計する際にもMECEの概念は欠かせない。

 僕がデザイン「シンキング」について真剣に考えるより昔、某最大手デザインファームで働く友人(戦略ファーム出身)に「デザインファームで働く人たちは、ロジカルシンキングは使えるのか」という質問をしたことがある。その際の友人の答えは「エンジニア、プログラマー、心理学PhDなど、バックグラウンドは様々であるけれど、メンバーはみんながみんな、かなり強力なロジカルシンカー。戦略ファームの人間よりもむしろロジカルなくらいだ」というものだったが、それも今では納得である。バックグラウンドが多様であるからこそ、むしろ共通言語としてのロジカルシンキングは(明示的かどうかは別として)、不可欠なスキルセットなのではないだろうか。(僕は、デザインファームではロジカルシンキングの研修があるかどうか、とても知りたい。)

(ここから先は有料ですが、本記事の続編「デザイン思考を学ぶだけではイノベーティブにはなれない」も是非ご覧ください)

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