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【京都時間.jp】第13回 光明院:歴史と自然が織りなす静寂の庭

1391年、室町時代初期の日本。この年に、東福寺の一角に、光明院が金山明昶によって創建されました。この地は、その後数百年にわたり、自然と歴史が見事に融合した空間として成長し、訪れる者に静けさと思索の場を提供してきました。


光明院への入口を抜けると、目に飛び込んでくるのが雲嶺庭です。ここは、摩利支尊天が守護する勝負の神域であり、訪れる者に力強い存在感を感じさせます。そして、その先に広がるのが、重森三玲が昭和14年に手掛けた「波心庭」。この枯山水の庭園は、白砂と石の組み合わせによって大海を表現しており、繊細かつ力強い自然のイメージを体現しています。


波心庭の美しさは、ただ静観するだけではなく、その中に込められた意味に思いを馳せることで、より一層深まります。サツキやツツジの大刈込みが生み出すダイナミックな形態は、天と地、自然の力を表現しているかのよう。そして、その庭の一角に佇むのが、蘿月庵(らげつあん)です。ここから眺める東の空に昇る月は、訪れる者に平穏と静寂をもたらし、心を穏やかにします。


この庭園は、重森三玲の哲学の具現とも言える作品です。彼は、1930年代に日本全国の庭園を調査し、枯山水様式に深い感銘を受けました。旧来の価値観や形式に縛られることなく、独自の審美眼で日本庭園に新たな息吹をもたらした彼の作品は、時間や季節の変化と共にその美を変え、訪れる者にいつも新鮮な驚きを与えます。


この庭園に足を踏み入れた瞬間、日常の喧騒から解放され、心が自然と調和する感覚に包まれます。摩利支尊天の守護の下、波心庭の静謐な美しさの中で、心を落ち着け、深い思索にふけることができるのです。煩悩を手放せば、庭園に映る月のように、心の平穏が訪れるでしょう。


この庭園は、季節を変えて訪れるたびに異なる顔を見せます。春の新緑、夏の緑陰、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の自然が庭園に新たな命を吹き込み、訪れる者の心に静けさと感動をもたらします。


東福寺光明院は、ただの観光地ではなく、自然と歴史、そして心の静寂が見事に融合した特別な場所です。ここを訪れたならば、日本の美の真髄と、心の静けさを存分に味わっていただきたいと思います。そして、この庭園の持つ深い美しさと静寂が、皆様の心に長く残ることを願っています。


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