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やきゅう
応援好きが高じ、野球を応援することにした。
野球応援団である。
そうと決まれば球場だ。
プロの野球の試合だ。
赤と青のチームが戦っている。
「がんばれ!野球!!」
私は声を限りに叫ぶ。
「野球!!野球ぅ!!」
誰かがバットでホームランを打つ。
うおおおおおおおお!!
球場の向こう側がわく。
だが私の周りはしょんぼりしている。
「やきゅう!!!!」
私は周囲にいる彼らの代わりに叫んだ。
なんだか近くの人に睨まれているが気にしない。
「やきゅう!!がんばれ!!」
ひそひそと叫ぶ私を見ながら話す周囲。
「やきゅう」
言ったのは私ではない。
近くの女の子が言っていた。
「やきゅう!!」
今度はその隣にいた男の子だ。母親らしき人が止めている。
「フレーフレー、やーきゅーう!!!」
その言葉を受け、私はすかさず野球を応援する。
「いいぞ!野球!!」
「おう!!やれー」
方々から酔っ払いたちの声援が加わる。
「へいへーい!!野球へいへーい!」
ノリのいい若者たちも、それぞれのやり方で応援に加わり始めた。
負けてられない。
「いげー、やきゅーー!!」
赤のチームの応援団らしき人がやってきた。
「ちょっとこまるんですよ」
「なにが?」
「変な応援混ぜないでください」
「野球の試合で野球を応援するのが?」
「まあね、でも……わかるでしょう?」
分かる。だが、向こうだって分かるはずだ。
集まってきた仲間と話し合う応援団。
三塁側を指差す。
「なら、向こう側でやってください」
私は頷く。
「ねえちゃん、行くのか?」
さっきの酔っ払いたちが声をかけてきた。
「ああ。青のチームの方にね」
「わかった。俺たちも行こう」
「面白そっすね。俺たちも行きますよ」
ノリのいい兄ちゃんたちもついてきた。
「好きにしな」
さっき応援してくれた女の子と男の子、二人の頭に手を乗せる。
「ここは任せた」
彼らがそれをどう受け止めたのかは分からない。返事は返ってこなかった。2人の母親が非常に迷惑そうな顔をしている。
私は男たちを従え移動する。
「ちょっと、後輩に声かけますわ」
「そう言えば、取引先が向こうにいたんだな」
酔っ払いと兄ちゃんたちが仲間を呼ぶ気配を見せている。
もちろん青のチームでも似たようなことがあった。
そのたびに我々は言われるままに移動した。
移動応援団である。
そしてそのたびに、ひとり、ふたりと仲間が増えていった。
その流れの中で、再び赤のチームの近くに身を置くことになった。
「やきゅう!!そこだ!!」
「いいぞー、野球!!」
声援は我々のものではない。
そう。野球応援団が赤のチームに根付いていたのだ。
「いい球だ!!でも打て!!打った!!でも取れ!!いや、取るな、抜けろ!!取った!!やったぁ!!」
なんて試合のいいところだけ応援しようとしている器用な人も見受けられる。
その数は球場全体で30パーセントにも満たないだろう。
でも彼らは散らばって応援の声を上げてくれている。
そうするとどの場所へ行っても野球を応援する声が聞こえてくる。
こうなれば我々本体は、酔っ払い組と兄ちゃん組をわけ、よりサラウンドに野球を広めていく。
やーきゅーう!!
やーきゅーう!!
野球コールが鳴りやまない。
7回になるころには、選手たちのプレー一つ一つ、敵味方関係なく会場全体から声援が上がる。
次第に審判たち、さらにボールやフェンスなんかも謂れのない声援を受け始めた。
混然一体、という感じだ。
私もみんなと一緒に応援に興じる。
これが野球の、醍醐味である。