前年踏襲から脱却し、子どもたちを学校の外へ出す旅を!第3回いばらき教育旅行フォーラム@大阪
中学生・高校生たちが大人になったとき。
一人ひとりが自分のやりたいことに、自由な形で取り組んで生き生きと暮らしている。そんな未来なら行ってみたいし、そういう未来をつくれたらいいなと思います。
そんな明るい未来をつくる方法は無限にあるはずですが、「学校 × 旅」ではどんなことができるでしょうか。
修学旅行や校外学習などの思い出が、大人になっても強く残っている人は多いはず。
それなら、教育旅行をより有意義な学びのあるものにアップデートしよう。そして、中学生や高校生の選択肢と可能性を広げられる旅をつくろう。
そんな想いではじめた教育旅行フォーラムも今回で3回目。
第1回の東京、第2回の茨城に続き、今回は会場を大阪に移しての実施です。
これまで同様、先進的な取り組みをしている学校の事例を紹介してもらい、教育旅行をアップデートするための意見を伺いました。
第3回ではどんな意見が飛び出したのでしょう。さっそく、ご紹介していきます。
ゲストスピーカー
■田代浩和先生(常翔学園中学校・高等学校 校長)
■薛翔文さん(四條畷園 全学広報)
モデレーター
■尾崎精彦(アーストラベル水戸(株) 代表取締役/一般社団法人森と未来の学校 代表理事)
キャリア教育の一環としての修学旅行
常翔学園・田代 浩和 校長先生による事例紹介
常翔学園では、キャリア教育を重視。探究学習を学校の中心におき、修学旅行も作り直した経緯があります。
学校では6つのコースを設置。生徒さんたちはコースにより、
・科学探究授業を行う「ガリレオプラン」
・キャリア教育が中心の授業
いずれかのキャリア教育を3年間かけて受けるカリキュラムとなっています。
今回は主に、「ガリレオプラン」に含まれる修学旅行のお話をしていただきました。
そもそも田代先生は、従来の修学旅行に問題意識を持っていたといいます。それは、
目的がはっきりしておらず、受験勉強が本格的に始まる前の思い出づくり的なもの止まりだったから。オーストラリアに行くのに、英語を話す機会がないなど、観光旅行のような形だったと振り返ります。目的や内容を決める前に複数の旅行会社から提案されたプランを見比べて、いずれかを選ぶ前年踏襲が基本の形だったそう。こういう学校、今も多いのではないでしょうか。
これを、「ガリレオプランの修学旅行」として検討し直したのは20年近く前。
旅の目的は下記の3つと、明確に定めました。
大学の研究室や就職した会社では、海外の人たちと関わるのが当たり前となる生徒さんたちもいるはず。そういった将来を見据え、高校時代に少しでも同様の経験をする機会をつくってあげたいとの想いで設定されました。
目標に基づいて、旅行はクラスの枠を取り払い、目的別の3チームに分かれて実施しています。どのチームにも共通する内容は、下記の3点です。
各チームの訪問先は、アイルランド・カナダ・シンガポール。チームによって体験内容は異なりますが、
コロナで海外渡航が難しかった時期は国内で実施。現在も、オンラインで台湾やフランスの学校との交流も交えるなど、情勢に合わせて形を変えながらも目的を達成できるような修学旅行を行っています。
「国内外問わず、やっぱりいろんな人と会うこと自体が学びです」とお話を締めくくりました。
子どもたちを学校から解放する地域留学や修学旅行
四條畷学園 全学広報・薛 翔文さん
薛さんは、さすが広報ご担当。四條畷学園のホームページを提示しながら事例のご紹介をいただきました。
四條畷学園では、2022年度よりコースを改変。3コースすべてに共通するコンセプトは「学校から子どもたちを解放しよう」だったそう。その言葉だけ聞くとパンチが効いていますが、もっと学校を外部とつなげて、生徒さんたちが学校内で学外のことを考え、学外で得たことを学校に持ち帰るような学びをしてほしいという想いが込められています。
発展キャリアコースで特徴的なのは、国内の中山間地域への地域留学。海外留学制度のある学校のお話は聞きますが、国内での留学事例は少ないのではないでしょうか。また修学旅行は、生徒さんたちが旅行会社と打合せをし、自分たちの修学旅行をつくる取り組みも進めているとのこと。どんな行程が出来上がるのか気になります。
また、学校旅行だけでなく、普段の授業でも外部の方とつながりをもっている例として、総合キャリアコースの授業・キャリアデザインの紹介をしてくださいました。外部の企業や専門学校の方に14のコースの講師をお願いし、年間14時間の総合探究を行っています。生徒さんたちは、自身の希望する講師の授業を学内外で受けるのだそうです。
加えて、島根県の離島にある隠岐高校と、四條畷学園の生徒さんが合計20名ほどZoomで交流した際のことを例に挙げながら、「校門が駅から1分。間にコンビニが2軒ある本校と、島自体にコンビニがなく、通学手段は親御さんの車で20分という隠岐高校生。生活環境が全然違う人と話すことが、地域と学校の交流になると思います」とお話してくださいました。実際、隠岐島に行ってみたいという生徒さんも数名いたそう。
実際にどこかを訪れることだけでなく、自分たちとは環境の違う人たちとの交流がすべて、広い意味での“旅”になりうるという視点をいただきました。
フリートーク
「前年踏襲」の教育旅行から脱却するには?
尾崎:話の中で「前年踏襲」というワードが出てきました。先生方は忙しいし、そこまで考えることもなく「去年と同じでいいかな」と多くの学校が考えているんだと思うんですけど、田代先生の学校ではめちゃくちゃ変えられていますよね。よく分からないんですけど、あれだけ変えるにはいろんな良いパートナーさんがいなきゃいけなかったり、「保護者の方から言ってることが全然違うじゃないの」みたいな声があったり、裏側で多分相当あったのかなと思うんですが、変えるコツがあれば教えていただけるとありがたいです。
田代:本校が前年踏襲を変えてこられたのは、
・教員に「やろう」という仲間が増えていったこと
・管理職がサポートしてくれたこと
が大きいです。
キャリア教育を導入したのはもう20年近く前ですが、当時は「これで進学実績が伸びるのか」「何のためにやっているの」とかいろいろ言われました。でも、「これは今からの子どもたちに絶対大事な教育なんだ」ということで進めてきました。先生は教えずにファシリテーターをするスタイルも、生徒たちが目を輝かせて取り組んでいったので、だんだん「これをやりたい」っていう先生が増えていきました。生徒からは「あんな授業をもっとしたい」という声があがり、1年生だけでやっていたのが学校全体のプログラムになって、うちの学校の特色と認知されて、市民権を得ました。
そういう歴史があって、うちの学校は他のことを含めて変わりやすい学校になりました。旅行などの行事も授業も何でも同じだと思います。
尾崎:今日は学校だけじゃなくて、いろんな企業や行政の方がいらっしゃってますけど、どこも一緒ですよね。前例を疑って仕事していくっていうのは本当に学びになります。
ちなみに、アイルランドへの修学旅行っていくらぐらいなんですか。
田代:コロナ前の3年前当時で35万円です。今は円安で多分ムリです。今年は、帰国時のPCR検査の有無で行き先を決めました。
尾崎:今はワクチンの接種回数も気にしなければいけないですもんね。分かりました、勉強になっています。
同世代の交流からは、何が生まれる?
尾崎:どちらの学校も同世代の交流をすごく大事にされています。薛さんのお話にあった大阪の都会の子が、すごく田舎の子と喋るような活動では、どんな変化が見られますか。
薛:見られて良かったなっていう変化は、生徒たちが予想以上に楽しそうだったことです。
高校生同士の交流は、会話が思ったようにはずまなかったらどうしようとか心配していたんですよね。本校の子たちは、入学時から「いろいろチャレンジしようぜ」とか「外に向かって出ていこうぜ」というマインドセットが形成されているので、積極的に話しかけに行くし、情報を得ようとしに行きます。それもあって、すごく楽しそうにやっていたんですよね。
「楽しかった」で終わることって、大事な第一歩だと思っています。今回の交流はZoomの1時間で一旦終わっているかもしれないですけど、そのきっかけがなければその地域のことを知ってみようとか、行ってみようという気持ちが起こらないですよね。
もう一つ大事なことは、生徒が楽しそうにしている姿を教員が見ることです。先生にとって、子どもたちが楽しそうにしていることが一番です。
「楽しそうでよかった」と先生たちが感じられることが大事。子どもたちにつまらない、苦しい思いをさせたい先生はいない訳ですから。なんとなく前年踏襲でやっていることで生徒たちがノってこない、つまらなそうにしているということを、いかに変えて、楽しそうな姿を見せられるか。先生たちがそれを見ることで、「こういうのがいい事なんだ」とどんどん変わっていくのかなっていう風に思っています。
尾崎:先生たちは、温かく見守っているんですね。
修学旅行や校外学習、どんなものがあったら面白い?
尾崎:今はできていないけど、こんな修学旅行、こんな校外学習があったら面白いなみたいなヒントがいただけたら嬉しいなと思います。
田代:来年度から実際に行うものですが、私からの校長方針で、校外学習は生徒主体で運営するようお願いしています。1年生、2年生、3年生と段階的に主体的な部分を増やして取り組む形になると思います。
子どもたちは、修学旅行も校外学習も「連れて行ってもらう」という姿勢でいます。それを自分たちで全部やって、自分事にしていくのがすごく大事だと思うんです。だから今年度は、生徒主体の旅を進めていきます。
尾崎:自分で決めたところだから、一生懸命楽しんでくるところもありますよね。ちなみに、折衝する旅行会社さんに求めるものってありますか。
田代:求めるのは、一番は安全、二番目にいかに子どもたちの学びになることをしてくれる会社かということですね。もちろん費用は安いに越したことはないけれども、そのあたりを考えてくれる旅行会社さんがありがたいですね。
尾崎:ありがとうございます。肝に銘じます。薛さんはいかがですか。
薛:僕がこういった場でいつも提案するのは、行政と旅行会社の方が組んで、「観光ジュニア大使」や「〇〇アンバサダー」のようなバッジを子どもたちに出してもらうことです。その地域に主体的に関わる取り組みをされている旅行会社さんがあるんだったら、行政の方も一緒に動かしてコーディネートしてもらえるといいですね。
大学進学時に、地域に関わる活動を懸命にしたことを評価されて総合型選抜試験で進学していく子たちもいます。積極的にその地域に関われる仕掛けがあると、地域に関心がある子たちは積極的に取り組みやすくなると思います。
尾崎:ありがとうございます。やりましょう。
第3回教育旅行フォーラムを終えて…
ICTや探究など、成功している私立学校はいずれも取組が数年早い。1歩も2歩も先をみて進まれていることをお話の中から感じました。
やはり、早いスタート・新しいチャレンジが「勢い」につながるのですね。
また、
・生徒に自己決定(選択)させる時間を作る
・交流の大切さ
→現場の人から・同じ高校生から・異文化から…本物を感じる経験が大切なことを学びました。
教育旅行フォーラム、次回は夏に教育旅行サミットとして実施予定です。
詳細が決まり次第、お知らせいたします。
記事:荒川ゆうこ