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いばらき農業・漁業の強みを見つける取材旅|鎌倉学園・探究学習レポート

「いろいろな課題があるのは知っているけど、ふわっとしてるんですよね俺らからすると」
「小学生の頃から農業に関心があったんです。でも実際のことはよく分からないから、見てみたいと思いました」

そんな率直な思いを聞かせてくれたのは、鎌倉学園高等学校の生徒さん達です。県内の魅力を探す目的で12月14日15日の2日間茨城県内を巡り、事前にアポイントをとった方への取材をグループごとに行いました。冒頭の話を聞かせてくれたのは、茨城の第一次産業について調べることにした3名のグループです。

夏にも茨城でフィールドワークをしている彼ら。そのときは茨城がどんな土地なのかを知るべく、探究テーマを茨城にした26名全員でバスに乗って科学や農業・漁業などの現場へ。茨城の魅力に広く触れてもらう旅でした。
それをもとに、各自が個人の探究テーマを設定。宇宙や音楽など、それぞれの興味・関心に沿う訪問先を調べ、取材を行うのがこの2度目の訪問目的です。

複数のグループの中で今回は、茨城の強みの一つである第一次産業を探究テーマにした3名の取材旅行のうち、3つの訪問先に同行。農業・漁業に携わる事業所をめぐり、彼らは何を見つけたのでしょうか。取材旅に同行する気持ちで読み進めてくださったらうれしいです!

持続可能で高付加価値な農業の創造|JA茨城県中央会の挑戦

水戸駅に降りた彼らがはじめに向かったのは、JA茨城県中央会(正式名称:茨城県農業協同組合中央会)です。JAでは、農家さんと企業や地域社会とをつなぎ、持続可能な農業へと発展させるためのさまざまな支援を行っています。農業が栄えている茨城県で、農業をあらゆる方法で支えている中心的な組織です。私たち・森と未来の学校では、これまでにも茨城で農業に触れたいと県外から来た学生さんをJA茨城県中央会の方とお繋ぎしてきました。

彼らのグループは「茨城の第一次産業の工夫点や、他地域との違いを探求したい」という希望を持っていたので、茨城全体の農業について聞くならぜひこの方のお話を!と、橋本から広報担当の萩谷茂さんをご紹介させていただきました。

萩谷さんが待っていてくださったのは、建物1階に新設されたクオリテLab。JAグループ茨城が掲げる目標『持続可能で高付加価値な茨城農業を創る』を具現化した、こだわりがたくさん詰まった素敵な空間です。

生徒さんの「農業の中でもテーマを絞ろうと思ったんですけれど、茨城って有名な作物が多いですよね」という声を皮切りに、

・生産高全国一位のものだけでも14品目もある
・保存食だった水戸納豆は有名だけれど、実は消費量1位はお隣の福島県
・茨城の気候や土地に合う作物はサツマイモ
・北海道とは違い、茨城は狭い土地で複数品目を、外国人労働力も活かして作るスタイルが多い
・農業技術が高い茨城は、ノウハウがなければできない有機農業が全国的に見てもさかん
・野菜も、作り方やブランディングで価値を高めることが大切
・農業は第一次産業。利益も大事だが、まずみんなが食べられる状況を作らなければならない
・常陸大宮市で子どもたちに安心給食を提供したいと、工夫して有機米生産を開始

などなど、書ききれないくらい多岐にわたって茨城農業の実態や課題を話してくださいました。筆者個人的には、JAで広報のお仕事をしながら兼業でご自身も田畑を持つ萩谷さんが、実体験に基づいて自然の中で過ごす良さを教えてくださったのがとても印象に残りました。

「トラクターを走らせたりしながら地面に近いところで考えると、オフィスで考えるのとは別のアイデアがものすごく湧いてくるんだよ。時間軸もだいぶ先まで見られるようになる」(萩谷さん)

萩谷さん自身が撮影・編集したYouTube動画などで実際の様子も示しながら具体的なエピソードを織り交ぜてたっぷり1時間農業を学んだので、「農業とか茨城に対して考え方がかなり変わりました」と生徒さんたち。

萩谷さんにお礼を告げて別れた後も、「これから『いただきます』の意味が変わるよね」「実際に育てている人や場所がイメージできるから、一口ずつちゃんと食べようって思う」などと生徒さんたちの農業トークは続きました。

萩谷さん(写真左)と生徒たち

県内唯一の定置網漁とは|茨城の自然と共にある会瀬漁港

翌日、早朝に3名が向かったのは日立市にある会瀬漁港です。太平洋に面する茨城県には漁港が数多く点在していますが、定置網漁を行っているのは茨城県内で会瀬漁港だけ。今回の探究旅では「茨城県の一次産業の工夫を知りたい」という3人に、それならぜひ、ここでしか見られないものを見てほしい! と提案した訪問先でした。

対応してくれたのは、河田純さんと、佐久間伸也さん。定置網漁とはどんな風に行うものなのか、基本的なことから丁寧に教えていただきました。

「この日立沖あたりは親潮と黒潮がぶつかる潮目の場所で、漁業をするなら最高。定置網漁は、網を決まった場所に仕掛けておいて、網の中にかかった魚を上げるから、行ってみないとその日どんな魚がどれだけ取れるか分からない。狙って取る漁とは違うから、来た魚がすべて。ねらった魚を取りに行くのと比べると、定置は草食的な漁業。狙う魚がないから、いろんな魚が見られるのが楽しいよ」

「水温が2、3度上がると入る魚は全然違う。昨日まではいた魚が全然入っていないこともあるよ。昔はマグロもかかっていたけど、最近は水温が安定しないから入っている魚もだいぶ変わったよ」

「仕事は朝4時に集まって、午後2時くらいまで。海が良ければ魚を取りに行って、戻ってきたら魚を丘に上げる。水揚げしたら仕分けして市場に出して、そのあとは陸で網の修繕作業だね。雨の日は、網が濡れて修繕はできないから、草がついている網を消防のホースを使って洗ったり、部品を作ったりしてるね」
と、気軽な飾らない雰囲気で、3人の質問に答えてくれました。

魚は素手で触るととやけど状態になるから、水につけた状態で扱うこと。
魚の重みで船が沈んで、海水面に手が届くほど大漁だった日の経験。
日々網にかかる魚の種類の変化を、目の当たりにしてきたこと。
海や魚が大好きで、地元を離れて今の仕事に就いたこと。
漁師の仕事は楽しいけれど、海上は危険を伴うので子どもには継がせたくない思い……

神奈川での高校生活からは距離のある、職業として向き合っている人からしか聞けない話ばかりです。

神奈川の海は汚れていて…と話す高校生たちに「汚いとこばかり見るんじゃなくて、やっぱり綺麗なところを探さないと」と伝えます。「見てると、海の表情は毎日違うから。濁っている日もあれば、海底の岩が見えるほど透明度が高くて綺麗だなって日もある。グラデーションがすごくて、沖縄より綺麗なんじゃないかって時もあるよ」

お話がひと段落したところでちょうど雨が弱まり、外に出て船にも乗せていただきました。漁に出られなかった日だからこそ時間をとって話していただけたことも多くありましたが、やはり機会があれば、次こそは会瀬漁港でのプロの仕事を高校生たちにも見てほしいものです。

45年以上の有機栽培、その理由とは|樫村ふぁーむの伝統と革新

漁港を後にした生徒さんたちは、常磐線でさらに北へ。日立市内にある十王駅でおりました。目的地は、樫村ふぁーむ。農業を始めたのは1975年から、農薬や化学肥料を使わずに野菜を栽培している農家さんです。到着した高校生3名を迎えてくれたのは、2代目の樫村智生さん。雨が降ったり止んだりする中でしたが、東京ドーム3個分を超えるという広い農園をぐるりと回りながら、樫村ふぁーむの有機栽培や農薬不使用へのこだわりや、栽培している野菜について、たっぷりと教えていただきました。

樫村ふぁーむで有機農業を行っているのは、樫村さんのおじいさんの想いを継承してのこと。戦争の影響で長く腎臓機能障害を患っていたおじいさまが、安全な野菜を届けて食べた人に健康でいてほしいと、試行錯誤してきたので、樫村さんにとってもそれが当たり前のこととして引き継がれているのです。

「今、JAの方でも有機農業を推進する方向で動き出していて……」と、前日萩谷さんからも教えてもらったばかりの、茨城県の農業事情から樫村さんの話はスタート。一次産業に関する方を複数訪れると、こんな風に話が少しずつ繋がって、全体像が見えてきます。

少し前までは、野菜を販売するなら一括してJAに出荷するのが主でした。しかし現在は、農家さんが野菜を販売する方法は多様化しています。樫村ふぁーむでも、会員になっている方のもとへ直接お届けしたり、スーパーや飲食店などに卸したりと、お客さんとの繋がりを大切にしているそうです。

「JAや市場に出荷すれば一括して買い取ってくれます。仕事なので、お金ももちろん大事だけれど、それだと自分たちが作ったものがどういう評価をされているのか分からないというのが当たり前なんです。今のやり方だとお客様からの声をいただけるので、仕事をしてていて嬉しいですね」

テンポよく、そして分かりやすく、樫村さんのお話は耳に心に入ってきます。

畑を回りながらも
「これは白菜です。でも白菜としてとるんじゃなくて、菜の花として収穫します。菜の花は、そういう品種があるわけじゃなくてアブラナ科の植物の花の総称なんです」
「いい野菜をつくるには、山の管理も大事。山から出るミネラル分は川、海と移動するんだから。森林伐採が問題っていうけれど、山の野菜と同じで適度に手を入れて間引かないといけない」
「有機農業をするのに使うたい肥も、使い方によっては畜産汚染で虫や病気が発生します。中熟~完熟まで待って使うのが基本です」

案内の途中では畑に植えてある野菜を紹介しながら、収穫体験をさせていただく場面も。「植えてある状態を見て、ある程度いい野菜は分かります」と、教えてもらったおいしい野菜の見分け方を参考に、にんじんと大根を1本ずつ抜いてみました。抜いた大根は、私たちが普段スーパーなどで目にする長さの半分ほどのミニ大根。これを栽培しているのにも、お客さんの生活の変化や、「旬のお野菜ボックス」として送付するときのことなど、さまざまな理由からこの種を選んで植えているそう。

じっくり時間をかけて育てる有機栽培だと甘味ものりやすいとのこと。カットして味見させていただいた採りたて野菜の甘味と味の濃さは、樫村さんの説明や、実際に見た農園の景色ととともに高校生たちの記憶に残ったことでしょう。五感で農業に触れた、密な時間でした。

樫村さん(写真中央)と生徒、先生たち

茨城で高校生とともに見つけた一次産業の奥深さ

高校生たちの茨城県での一次産業体験は、同行させてもらったわたしの目からも新鮮な学びにあふれていました。それぞれの仕事内容への熱の高さをひしひしと感じられたのは、それぞれの職場に足を運び、対話したからこそのもの。自分の仕事を起点に、その周囲のものごとを飾らない言葉で、惜しまず教えてくださる大人ってカッコいいなと思いながら、私も岐路につきました。
3名の高校生には、どの部分が強く残ったのでしょう。年度末、彼らの探究の成果がどんな風にまとめられるのかを今から楽しみにしています。


私たち森と未来の学校は、茨城県での教育旅行を通して「子どもたちの学び・体験のアップデート」、「茨城県の社会問題を解決」することを目指しています。
探究の種がたくさんある茨城での「旅」は、日帰りも可能。首都圏のお子さんたちが、これからの変化が多い時代を生き抜く力をつけるのにぴったりな場所です。
茨城を舞台に探究型教育旅行をしようと考えている際は、お気軽にお問い合わせください。

記事:荒川ゆうこ




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