保育所をさがして

生後四ヶ月の娘を朝の五時からあずけれるような
保育所をさんざん探してさんざん電話をかけたあと
少し詩を読んだ
被爆者のケロイドを体に負うことが
物事を理解することではない
とりだされた真実
加害者でもなく被害者でもないものによりそう沈黙
語り出す後世に残された解釈
「世界は軸を失ったメリーゴーランドのように回りながらかたむいている」
九一一という数字に関わったたくさんのこころがその煙をなすすべもなくみつめている
そこに家族の姿を探す必要のない者にも
そこに家族の姿を探す必要のある者にも

なんだろういま
ワールドトレードセンターに飛行機が
多くの人々はそれを映像で知る
あるいは音であるいは文字で


真で
月日がたちやがて薄れる記憶たちと同様に
なにも知らないままの闇はおちてくる平等に
星たちの数は昨日とさほどかわらない
古くなった観覧車が解体されていくように
わたしたちは原型を失いながら進んでいく
窓の外には何の保証も無く
窓の内側でわたしたちは無邪気にただ笑う
あそこから
あそこまでの空間をよこぎるものを見る
髪をゆすいで毛布で眠る

電話だ
インドネシアでおおきな地震があって津波で何万人もなくなったみたいだけど
森さんお父さんと連絡とれた?
大丈夫?
橋を渡る時必ず覗き込む水面の反射
沈んでいる自転車
群れたボラの子供にまじるアルビノ
どっからどこまでを今と呼ぶのかわからない
腕の中で乳飲み子が
泣き声をあげている

いくつもの
レイヤーが重なっていくそれぞれの
距離が
操作され表示されて
わたしたちのピントはあわせられていく
感覚的な現象そのものにすら同じように
記憶に残りそうもない風景で立ち止まる
振り返る
水たまりや家と家の隙間で
とじられていくまぶたの音
わたしたちはどこにだっている
ぴかぴかのシャトルに乗り込む飛行士のようなすがたで
銃を抱いた泥だらけのはだしの子のやぶけたポッケの中や
くろい枝の節々やそのきっ先で光る緑のはっぱのうらにだって

電話だ
今?へいきへいき
まじで?
生きてるよ~
うん
まじでー?生きてるよ~

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