9歳の私と39歳の父
私にとって最初の恋の記憶は9歳の時。小学2年の時から同じクラスだった男の子。水泳が得意で、いつも日焼けしてて、目が二重で、とにかくモテてた。同じクラスのみんなが彼を好きだったし、私も連鎖するように好きになった。たまたま帰る方向が一緒だったこともあり、放課後はいつも彼と一緒にいた。神様は信じてなかったし、サンタクロースはいないって知ってたけど、帰り道が同じという事実に対して、彼と一緒に帰るたびにありがとうを空を見上げる日々だった。
私の初恋は、きっとこの時だ。お母さんや弟と同じような熱量で好きだと思った人は初めてだった。
父に向けるべき好きを彼に向けたんじゃない。父への嫌いの感情を忘れられるのは、もしかしたら、彼と話す時間だけだったのかもしれない。
『引っ越しをする、来月に』
私の大好きなオムライスを作ってくれた金曜日の夜、父はテレビを見ながら言った。母の作るオムライスは何よりも美味しかったし、一緒に飲んだすりおろしたりんごのジュースは3杯もおかわりしたけど、いつも使っているスプーンが冷たく感じた。
来月が来年になれば。来年が3年後になれば。3年後が10年後になれば。神様やサンタクロースに願うことはできたけど、それはきっと叶わない願いで、どうしようもない現実だった。
私の初恋が終わったのは、この時だ。お母さんや弟と同じような熱量で好きだと思った人に出会ったのは初めてだったのに。父への嫌いの感情がますます大きくなったのは、この時だった。
幸いにも、来月が3ヶ月後になったのは、信じてなかった神様かいないとわかっているサンタクロースが何かしらしてくれたのかと思った。何かを信じる、何かを願う、目に見えないものに感謝をしたい気持ちでいっぱいだった。