復刻版「路地裏ニャン方見聞録」草原を全速力で駆け抜けるのは…… リゾートホテルに泊まったぞ!編 パンコール島 マレーシア
復刻版「路地裏ニャン方見聞録」(元NEKO、現ねこ、ネコパブリッシング刊)とは、7年半に渡る長期連載をしていたフォトエッセイの復刻版である。
元のテキストデータがあるものだけ掲載しています。当時はポジでの撮影だったので、スキャンしていない場合はエッセイだけ。
さらに、決定稿でもデータが抜けていたりするので、ご勘弁を。
草原を全速力で駆け抜けるのは……
リゾートホテルに泊まったぞ! 編
パンコール島 マレーシア
観光地として有名なペナン島とクアラルンプールの中間辺りにあるパンコール島へやってきた。リゾート地ではあるが、街は賑やかとはほど遠く、素朴な面影を残した島といった印象である。小さい島なのでとりあえずいろいろ歩いてみることにしよう。
ざるの中で眠るネコ
今回初めてリゾートホテルというものに宿泊してみた。もちろんオフシーズンでちょっと安かったからだけど、それでもリゾート初体験でウキウキである。どんなリゾートかというと、敷地に巨大なプールがある。しかも滑ると皮がそげ落ちそうなおろし金付きの
ウォータースライダー完備である。そして部屋はシャレーという、コテージである。そして誰でも入ることができるプライベートビーチがあるのだ。さらに宿泊費を安くするために食事はつけていない。残念ながらそれくらいしないと泊まることができないのだ。
ランカウイ島から2日かけてバスと船を乗り継いでやってきたので腹ぺこだ。せっかくリゾートにやってきたのだからまずはホテルの、外に建てられているオープンエアーの食堂で腹ごしらえすることにした。細くて急な螺旋階段を上ったところにテーブルへ着い
て、注文してから目の前に広がる原生林を眺めて、そのまま視線をホテルの敷地へ戻すと、バイキング用のテーブルセットのざるの中に子ネコが眠っているのを見つけた。撮影しなくてはと2階から望遠レンズを使って撮影して、大慌てで急な螺旋階段を駆け下りた。するとネコの近くにホテルのマネージャー兼ジゴロがいて、僕がネコを撮影するのを見ていたようで、僕に「いいぞそのままくるんだ。俺がネコの気を引いているから慌てるな」といった感じでアイコンタクトをとってきた、ようにそのときは感じたのだ。ホテルにいるネコなのでなついているだろうからと安心したのが失敗だった。ざるの中で
眠っていた子ネコはジゴロの気配で目覚めてそのまま走って逃げてしまったのだ。おいおい一体あのアイコンタクトは何を意味していたのだ。ジゴロはすまないすまないといって、フロントスタッフにホテルのネコを連れてきてあげてくれといってくれた。それならまあ水に流してあげよう。
数分後、ネコを連れてくるはずのスタッフは手ぶらで戻ってきて、悲しい目をしながら、「出かけたみたいでいなかったわ。さっきまでいたんだけどごめんね」と伝えるのだった。ともかく僕がネコを撮影する人だとわかってもらえたので、地元ネコ情報をいろいろ教えてもらえるようになったのが不幸中の幸いである。
野生の巨大鳥に遭遇
何はともあれ近所の市場へいってみた。周囲には基本的に何もなく、山と原生林、そして海だけである。ホテルから100mくらいの距離にみやげ店や食堂が並んでいる市場があるだけである。まだ夕方の営業には早いようで人もいないしネコもいないので、そのまま歩いて20分ほどの距離にある住宅街へ向かうことにした。道の脇にある測道を入った先に絵はがきに出てきそうに古い木造の建築が建っている。ちょうどその測道の入り口に小さな寺院があり、屋根に大きな鳥の姿が見えた。姿はオオハシという、ペリカンのように巨大なくちばしが特徴の熱帯に住む鳥そのものである。思いもよらない鳥に出会えたので写真を撮りまくるのだった。
その道の反対ではおっさんたちが広げたシートの上に乗っている小魚の干物を中央に集めて収穫していた。近くにいくと生臭いというか、しょっぱい匂いが立ちこめて思わず吐きそうになったが、ともかく写真を撮らせてもらって退散したのだった。この干物広場の裏側に住宅街がある。魚の干物もあるしネコがいることは保証されたようなものである。テコテコ歩いていくと、家の軒先にパンダネコがだらしなくこちらを向いて寝ているのを見つけた。そのすぐ後ろでは洗濯物の影で眠っているネコもいる。このほか数匹のネコ
に出会ったのだが、パンコールのネコたちはどれも居眠りしていた。
しばらく歩き続けたが日没も近いのでホテルへ戻ることにした。夕方なのに未だ強い日差しを心地よく受けながら歩いていくと、オープンエアーの講堂(というよりも原っぱにステージがあるだけ)があった。その原っぱの奥の方にシッポが長い茶トラのネコが歩いているのを見つけた。視力がいいのはこんなときに役に立つ。どこへいくのか動きを追っていくと、砂地のとこにオシッコをした。再び歩き出したので僕は意を決して原っぱにネコに気づかれないように突入した。うまいこと半分の距離まで近寄ったところでこちらの
気配に気づいたようで、茶トラネコは猛ダッシュで走り始めた。建物や遮蔽物のない草原で初めてネコの全力疾走を見ることになった。3歩ほど刻んで走ってからピョ~ンと大ジャンプ。長いシッポを風になびかせて疾走する様はとても優雅だ。チーターが獲物を追
いかける映像を見たりするが、それと似ている。やはり同じネコ科の動物なんだなと改めて実感した次第である。
ネコ集会見物の代償
夕食の帰り道、薄暗い道を歩いているとネコ数匹が1カ所に集まっていた。2匹が親でもう2匹が子ネコ。少し離れたところにもう2匹いた。おもしろそうだなと蚊に刺されながら観察していると、ボスネコの元に離れた場所にいたネコが近づいた。喧嘩かなと思っ
たら、ネコがよくやる、お互いの鼻と鼻を合わせる挨拶をしていた。どうやらみんな仲良しなようである。そのまましばらく集会を見物していたのだが、足や手が蚊に刺され我慢の限界なのでホテルに帰ることにした。
部屋に帰った僕は、かゆみ止めを塗りまくるのだった。ネコの集会を見る
のも大変なのである。
猫写真家 森永健一 インスタグラム
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