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ウブド バリ島 インドネシア編
日暮れを告げる生き物は…
逃したココナッツはうまいはず編
バリ島の風景といわれて思い浮かぶのはライステラス、いわゆる棚田である。ウブドの町外れに広大な棚田が広がっているというので、ネコの写真を撮りつつ町を歩きながらいってみることにした。
ウブドの変な人
ダウンタウンの中心にサレンアグン宮殿という、一見して寺院のような建物がある。夜になるとここの広場でバロンダンスなどを見ることができるのだが、昼間この敷地の中にネコの姿を求めて入ってみると、なんだか訳の分からない風景が広がっていた。中にはいろいろな仏像やきらびやかな装飾が施された建物があり、一種神聖な雰囲気さえ漂っている。ネコを探しながらどんどん奥へいくと、ネコ3匹を見つけたものの、2匹はすぐにいなくなってしまった。残ったクロネコ君は愛想がよく、写真を何枚か撮らせてくれた。ネコを撮り終えてもっと奥までいったある一画では、高級そうな部屋に6人のかなり高級そうな服を身にまとって談笑するおっさんたちを発見した。このほか、洗濯物が干してあったり、冷蔵庫があったりと不思議空間になっていた。ここは一体なんなのだろうか。
その後の調べでは、おっさんたちは王族の末裔で、この宮殿に住んでいることがわかった。要するに人の家に勝手に入り込んでネコを撮影していた僕の方が変なおっさんなのだった。
棚田はいったいどこに?
地図によると棚田に続いているライスパディウオークという散歩コースがあるというので、その道を探してみることにした。しかし2時間近く付近を探してみたが、どこにも棚田なんてない。この道に間違いないと確信して進んでも行き止まりにぶつかってしまう。どういうことだかわからないが、道に迷っているのは確実なようである。幅5mほどの小道の両脇にロスメン(民宿)が立ち並ぶ安宿街にいってみると、そこには確かにウブドで生きている人たちの世界が広がっていた。瓶入りガソリンを売っている店、小さなみやげ店、一日中そこにいて何をしているのかわからない人たちや、元気よく遊んでいる子供たちがいる。
天気は朝からの曇り空で、たまに雷が響いている。しかし陰っているせいでとても過ごしやすく、ネコにもちょうどいい温度にちがいない。「棚田が見つからないけどネコがいればいいや」、そう思いながら歩いていると、寺院らしき建物の塀にネコがハコ座りしていた。カメラを向けると「じ~っと」レンズを見つめるかわいいネコだったので、こちらも調子に乗っていろいろな角度から撮影させてもらった。このほかにも、レストランの屋根で眠るネコや、朝から晩まで井戸端会議をしているおっさんたちの前に座っているネコがいた。このネコを撮っていたらおっさんが「ニャ~」といってネコのポーズをしてくれた。あまりにも突然で、しかもおもしろかったので見入ってしまいシャッターチャンスを逃してしまった。すかさず「そのポーズで写真撮ろうか」といったのだが、自分でやっておいて恥ずかしかったようで、もうできないよと断られてしまった。
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旅を感じる瞬間
小道は奥へ進むごとに細くなり、人影がなくなってくる。それでもこの道でいいのだと自分にいい聞かせながら歩き続けた。いつの間にか景色は山のような森へと変わり、道はなくなった。困りながらも歩いていると後方から地元のおっさんがやってきて、僕を追い抜いた。このまま一人になるのはマズイ、おっさんだけが頼りなので、勝手についていくことにした。山道はやがて急勾配になり、ひいこらしているとおっさんが僕に話しかけてきた。一通り世間話を済ませると「ココナッツいるか、うまいぞ」といってきた。内心いいな~なんて思いながらも値段を聞いてみると5000ルピア(約70円)といわれた。さすがに無料ではないらしい。どうしようか考えながら坂を上りきると視界が開けた。そこには見渡す限り一面、まるで地平線の彼方まで田んぼが広がっていた。
おっさんは「あっちのココナッツがうまいぞ」なんていっているが、もう僕の興味は目の前に広がる風景に向いている。写真が撮りたくてたまらなかったので、丁重にお断りした。しかし後で考えると、ココナッツもらっときゃよかったと後悔しているのである。
風景は逃げないけど、おっさんはどこかへいってしまうのだから。
はしゃぐように写真を撮りながら草むらを歩いていると、足のすねがチクチクするので見ると、膝辺りまでちっこいアリが群がって噛み付いているではないか。慌てて足をパチパチ叩きながら足踏みして落としたが、すぐにまた上ってくる。恐怖を覚えながらも僕は初めて見る風景を激写しまくるのだった。
撮影に明け暮れて
ふと気がつくともう夕暮れどきである。思う存分写真を撮って満足したので、元きた道を少し焦りながら戻ることにした。何しろ山道なので外灯がまったくないから、暗くなる前に町へ帰らないといけないのだ。しかし行きにずいぶん時間がかかったように感じたのだが、帰りはあっけなく町へたどりついた。ホッとして空を見上げると、ピンク色に染められた入道雲がたなびいていた。
薄暗くなった路地のあちこちから「ケケケケケケケッ、ポッペ~ポッペ~」と、夜行性のトッケイトカゲの間の抜けた声が響き始めた。
ウブドの人たちにとっていつもと変わらぬこの瞬間が旅人である僕にとってはかけがえのない一瞬なのである。
これだから旅はやめられないのである。
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