
復刻版路地裏ニャン方見聞録ムラーノ島・ブラーノ島 ヴェネツィア イタリア編
ガラス工房で暖をとるものは…
ネコの常識非常識編
ムラーノ島はヴェネツィアングラスで知られるヴェニス特産品の生産地である。島には数えきれないほどのガラス工房やみやげ屋が軒を連ねている。島で生きるネコを撮るために朝一番のヴァポレット(水上バス)に乗り込んだ。

雨男ではなかったはず
どんより空の下を20人ほどが乗ったヴァポレットのエンジンは、ポンポンと小気味よい音と振動で朝の眠気をよみがえらせる。船が出発してから小一時間ほどするとヴェニスが水平線の彼方に見えなくなり、前方にムラーノ島が見える頃には雨が降り出してきた。
ヴァポレットがいくつかのバス停を経由しながら島を半周して中心部へ行く間、島の作りと歩く時の目印を見ていると3匹もネコを見つけたのだ。こういったネコがいた場所はしっかりと記憶しておいて後で必ずいくようにしている。なぜならネコの行動半径は決まっていて、同じ場所を1日に何度もナワバリ確認と散歩のために歩くという習性があるからである。こういったネコ目撃情報はなかなか有力なのである。こうした理由から
「これはひょっとしてたくさんネコがいるのでは」と期待に胸を膨らますのだった。
雨が降りしきる冬空の下を歩いてネコを探すのは、その寒さで身を切る思いである。ネコは雨に濡れるのを好まない習性があるのは知っているが、相手はやはりきまぐれな動物の代表格のネコである。そんな常識はネコに限っては通用しない。これまでもびしょ濡れで散歩しているネコを見たことがあるので、希望を捨てずにネコを探しながらムラーノ観光をしてみようと固く心に誓ったのだった。

おばあちゃんの友達
ガラス工房が並ぶ運河沿いを歩いていると、店の入り口にネコが2匹座っていた。人なつこく、腰を下ろしてカメラを構えると、「ウニャ~」といって甘えて寄ってくる。どうやらこの店で面倒を見ているネコのようで、ドアの隅にはご飯置き場にクッションが入った段ボール箱が置いてあった。ネコは大事にされているようである。
雨宿りをしつつみやげ店をはしごしながらブラついていると、店の前で茶トラネコが座っていた。かなりな高齢のようで、痩せていて小さい。「ウニャン」といいながら近寄ってくるので、あまりネコと遊ぶ機会がない僕は喜んでなでていると、おばあちゃんがやってきた。すると茶トラネコは僕の元を離れておばあちゃんの方へ向かい、足下に頭や体を擦り付けて甘えていた。おばあちゃんがネコに優しく大事そうに話しかけている姿が印象的だった。

寒さを凌ぐための手段
その後も小雨の中を歩きながら、時々ガラス工房へ入るようにしていた。理由はガラス工房には釜戸があり、ガラスに細工を作るために熱を加えるためとてもあったかいから。大抵どの工房も「ご自由にご覧ください」となっているので制作の過程を見せてもらい、ヴェネツィアングラスの技術に触れていたのだが、何件も入っているのでいつの間にかただ単に見ているフリをするだけになっていた。
ネコも僕と同じように、工房はあったかい場所というのをわかっているようで、たまたま入った工房にネコがいたりするのだが、僕が「おっ」と思った瞬間にはササーッとどこかへ走り去ることが多かった。
島の中央にヴェネツィアングラス博物館というものがあり、その近くにある橋のたもとにライオンのような長毛をなびかせて歩くネコに出会った。こいつは濡れた自慢の長毛の毛づくろいをするために写真屋さんの前で毛づくろいし始めたので、僕はこのネコの小道を挟んだ対面に座り、カメラを覗いてじ~っとシャッターチャンスを待つことにした。20分ぐらい経つと、通りすがりの人が「プスプス」とか何かしらのちょっかいを出してネコの気を引く様子を見ることができた。
黄金に輝く風景
僕はファインダーの中にムラーノのネコと人とのいい関係を垣間見て、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべ、今にもスキップをしそうなくらいによろこび歩いた。
ヴェニスへ帰るためにヴァポレットに乗りにいくと、なんとイタリア名物のストライキがいつの間にか始まってしまい、運行がストップしていたのだ。ストのおかげで急に時間が空いてしまったので、島へきたときに見かけたネコがいた場所へいってみた。すると案の定最初に見かけた白黒のブチネコが雨を眺めて佇んでいた。
ストライキの解除予定の時刻になったのでバス停へいくと雨が上がったではないか。さすが晴れ男と呼び声高いだけあっていいところで雨がやむものである。とはいえ撮影中は氷雨が降り続いていたのだから何が「いいところ」なのか疑問である。
運行を始めたヴァポレットがヴェニスを目指して海を滑り出す頃になると、目の前では夕焼けのショーが始まった。黄金色に輝くアドリア海に心を奪われ、写真を撮りまくった。しかしその美しさをファインダー越しに見るだけなのはもったいないので、カメラマンでありながら写真を撮るのをやめて魅入った。それはまるで豪華客船に乗ってサンセットクルーズを楽しんでいるような極上の気分なのだった。

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