【研究開発事例】お互いの意見を出し合いながらものづくりができる理想的なパートナー|ソニー・インタラクティブエンタテインメント様
❚ インタビュー概要
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が2019年に発表したロボットトイtoio(トイオ)は、小学生から大学生までの幅広い年齢層に応じたプログラミング教材として、多くの教育現場で活用されるようになりました。
そのアプリケーションとしてモリカトロンが手掛けた「ウロチョロス」と「AIロボ『迷キュー』に挑戦」、そして開発環境の「toio SDK for Unity」は、両社の技術と経験、ものづくりに対する情熱が見事にマッチした成功例となりました。
今回、モリカトロン株式会社代表取締役社長・モリカトロンAIラボ所長の森川幸人、同AIエンジニアの銭起揚、ソニー・インタラクティブエンタテインメントtoio事業推進室の田中章愛氏と赤羽進亮氏に、両社が協業関係に至った経緯やアプリケーションの開発秘話、そして両社がものづくりに馳せる想いをうかがいました。
❚ ロボットのような形のあるものにAIを組み込みたい
ーーまず自己紹介をお願いします。
田中章愛(以下、田中):SIEでキューブ型ロボットトイtoioの商品企画を担当しています。toioには初期のアイデアの段階から関わってきました。2012年頃にプロジェクトを立ち上げて、2016年頃に社内スタートアップとして事業化しました。そして、2019年にSIEの製品としてtoioを発売するに至りました。モリカトロンさんにはtoio発表当初からアプリの開発などでお世話になっています。
赤羽進亮(以下、赤羽):同じくtoioの企画を担当しています。toioのシステムソフトウェアや開発環境の整備も担っています。またtoioは教育現場やワークショップでも使われているので、その企画立案や運営も行っています。モリカトロンさんにはUnityを使った開発環境の整備にご協力いただいています。
ーーゲーム事業を手掛けていたSIEが教育分野に進出するに至った経緯を教えてください。
田中:toioはプログラミング教育の分野でも数多く使われているのですが、もともとプログラミング教材として作ったわけではなく、ゲームみたいに動いて遊べるロボットを作ろうというところから始まりました。実世界で遊べるインタラクティブなエンタテインメントを作りたいという思いがありました。
それが2020年から始まったプログラミング必修化の流れで、ぜひ教育現場で使いたいという話をいただくようになりました。特にロボットを使った小中学校のプログラミングの授業や、大学・高専など高等教育・研究開発の分野でもニーズがあって使っていただいています。
❚ 想像以上の開発のクオリティーでリリースができた
ーーモリカトロンとのコラボレーションに至った経緯については?
森川幸人(以下、森川):確かSIEさんからの依頼ではなくて、弊社からtoioを使わせて欲しいとお願いしたんですよね。2017年にモリカトロンを立ち上げた時に、ゲームAIのなかでもキャラクターAIの開発に一番興味があったんだけど、デジタル世界のキャラクターだけじゃ物足りないからロボットのような形のあるものにAIを組み込みたいという思いがずっとありました。そんな時にちょうどtoioの発表があって、モリカトロンにSCE(現SIE)出身のメンバーがいたこともあって、これはもう飛び込みで聞くしかないと。
田中:森川さんとSIE(当時はSCE)は初代プレイステーションの頃からの本当に長いお付き合いになっていることもあり、社内のメンバーから森川さんをご紹介いただきました。
森川:それまでお互いに面識はなかったんですが、意外と共通の知り合いが多かったんですよね。
田中:スマートフォンを使って複数台を同時に動かせるウロチョロスの開発をお願いしたことをきっかけに意気投合しました。
赤羽:ウロチョロスの開発の経緯をお話しますと、基本的には私たちの方でこういう企画をしたいというご相談から始まって、互いに議論を繰り返しながら進めさせていただきました。迷キューもそうですが、ロボットの可愛い動きがあることでそれを使う子どもたちが盛り上がって関心を持ってくれます。モリカトロンさんは議論の中から我々の意図を汲みながらそうした動きを率先してプログラムで実装しながら作ってくださいました。一方的な受発注の関係というよりは、最初から一緒に議論をしながら開発を進めたことで、最終的には想像以上の開発のクオリティーでリリースできましたね。大変だったと思いますが、ありがたかったです。
田中:その時作っていただいたベースがあまりにも素晴らしかったので、ゲームの部分をライブラリーとして切り出したらいいのではないかという話が社内で盛り上がりました。そこから協働でtoio SDK for Unityの開発環境を作ることになりました。
赤羽:弊社のtoioチームの開発者は組み込み系の開発者が多く、Unityに関する知見が十分とはいえませんでした。とはいえUnityがあればシミュレーターを作って画面上でtoioの動きをシミュレーションした後に実空間で動かすことができます。それを是非やってみたいと考えた結果、ウロチョロスというアプリを作っていただいたモリカトロンさんに一般の開発者でも簡単に利用できるtoio SDK for Unityの整備を弊社の方からご依頼しました。
❚ いつも期待以上のものを作っていただける
ーーそこからどういう経緯でAIロボ「迷キュー」の開発に至ったのですか?
赤羽:ウロチョロスを使ったワークショップを拝見して、もっといろんな人に楽しんでもらいたいと思いました。そこで子どもがAIに簡単に馴染める迷キューをtoio SDK for Unityのサンプルとして作ってもらったのですが、あまりにもクオリティが高かったので、そのままサービスして提供させていただいています。いつもモリカトロンさんが率先して作っていただいたもののクオリティが素晴らしく、何とか他の方にも楽しめる形にできないかというところでまたご依頼して…という流れで一緒に企画開発させていただいています。
田中:いつも期待以上のものを作っていただけるので、そこからまた何かやりたくなるところが本当にいいサイクルですよね。
森川:子どもたちにAIのことをもっと知ってほしいんだけど、これがAIの話だけだと子どもにはピンとこない。それがロボットの中に入って動かすことで、初めて学習の仕方を理解できるようになる。やっぱりロボットは子どもたちに響くんですよ。toioがウロウロしながら経路を見つけ出していく姿を見る方が、本を読むよりもはるかに伝わりやすい。
田中:私たちが普段目にするのは学習済みのAIばかりですが、本来は試行錯誤しながら失敗の中で学んでいくのがAIの醍醐味であり、それを知るいい機会になるかもしれませんね。現実世界でロボットがけなげに失敗しながら動いていると共感もしやすいですし、単なる記号ではなく実体験としてお子さんに伝わっているのかなという気がします。
赤羽:最初は子ども向けだったのですが、今では専門学校のオープンカレッジで学生がAIを学ぶ最初の一歩として迷キューを使ってもらうなど、幅広い層にご活用いただけるようになりました。
銭起揚(以下、銭):迷キューの開発では、AIの学習過程をいかに見せるかが技術的な課題でした。ユーザーが遊びながらAIに学習させるという仕様はUnityでサポートされていないので、ニューラルネットワークの学習ではなくてあえてコードベースの学習でシンプルな問題を解くことによって、学習過程を体験させるという形式をとっています。簡単すぎると説得力がないし、難しすぎると理解できないかもしれない。そのバランスをコードベースで実現するためのトレードオフが最大の課題でした。
赤羽:毎回機械学習での学習結果を物理的に検証する、といったトライアンドエラーの連続でしたね。
ーー試行錯誤しながら高速で学習するプロセスを見られる体験は、子どもたちに強いインパクトがあるんだと感じました。
赤羽:小学校で迷キューを使った授業を実施したのですが、多くの生徒が「迷キューがんばれ」「迷キュー負けるな」とAIに感情移入していたことが印象的でした。授業後のアンケート結果には「迷キューががんばってるんだから、自分たちもがんばって勉強します」といった感想もありました。AIから学習の概念を学んでくれたようで、本当に嬉しかったです。
ーー可愛らしい動きや効果音も感情移入のしやすさにつながっているんでしょうね。
森川:喜びや驚きといった感情をtoioの動作でいかに表現するかは、ウロチョロスの開発時に注力した部分だったよね。
銭:当時はビヘイビアツリーを組み立てて実行していました。
ーーそういう部分にゲーム開発のノウハウが活かされていたんですね。
田中:ゲームとAIのノウハウを両方お持ちで、さらに銭さんは学生時代にロボットを研究されていたということで、色々な奇跡が重なった結果ですね。
赤羽:これ以上ないパートナーですね。
田中:ゲーム開発やロボット開発、AIの開発それぞれに特化した企業はありますが、まとめてできる会社はなかなかいないので本当に助かりました。
❚ お子さんだけでなく、ソフトウェアエンジニアやゲーム開発者にも
ロボットを動かす体験を提供したいという想い
森川:最初にレゴブロックを載せようと考えたのは田中さんですか?
田中:初期メンバーの一人であるアンドレ・アレクシーをはじめ、レゴブロックが大好きなメンバーが多かったこともあり、自分の作品がいきいき動き出してゲームみたいに遊べたら楽しいだろうという想いがみんなにありました。
森川:自由にデコレートできることの意味はすごく大きいです。多くのトイロボットはキャラクターが固定されていて制御できないんだけど、toioはいくらでもデコレートできるので、自分の好きなようなキャラクターを作り変えられる。サイズも絶妙ですもんね。
田中:お子さんが触りやすいように大きすぎず軽いことが重要でした。あと自分でデコレートした際に、デカすぎるといくら装飾してもロボット色が抜けないんです。自分のキャラクターが主役になって欲しいという想いから、あのサイズにたどり着きました。
ーー子どもの手に収まるくらいのサイズだから、自分のものという気持ちになれるのでしょうね。
田中:軽いから壊れにくいという利点もあります。
ーーそういった仕様は作りながら感覚的に決定していったのでしょうか。
田中:そうですね。このサイズに至るまでは本当に長い道のりでした。研究開発に2年から3年を要したんですが、最初はどうしてもラジコンみたいな大きさになってしまいました。乗り物を動かしている感じですね。逆にいまより小さく作ったこともあるんですけど、倒れやすかったり電池が持たなかったり。形が決まるまでは結構試行錯誤がありましたね。
森川:運動性能高いですよね。くるくるガーンって。
田中:カメラのレンズに使われているのと同じタイプのモーターを使っています。このサイズのロボットにとっては大きめのモーターですね。掃除ロボットのように左右に車輪が入っているので、その場で瞬時に回転できるというメリットがあります。この2輪とボタンの3点で自重を支えているのですが、小さくて軽いからこそボタンの部分をキャスターのように引きずっても摩擦が妨げになりません。
お子さんだけでなくソフトウェアエンジニアやゲーム開発者にもロボットを動かす体験を提供したいという想いがあったので、可能な限りハードウェアには手を加えなくてもいいような完成度を追求しました。最初からモリカトロンのみなさんに使ってもらえたのは、まさに理想的な展開でした。
森川:世の中にトイロボットは数あれど、開発環境を提供してもらえる機会はほとんどないので、本当にありがたかったです。ロボットに手を出したいけどハードルが高いと感じているゲーム開発者やAI開発者でも制御しやすいと思います。
田中:動作の再現性が高いところが一つのポイントだと思います。一般的にロボットで同じ動きを繰り返すのは容易ではありません。toioは絶対位置を正確に取れるので、機械学習する上では同じ動きを評価しやすいんです。
銭:カメラで認識しようとすると重くなるし精度も落ちますからね。直接取れるのは結構大きいです。実物の精度が高ければシミュレーターとの誤差も小さいので、リアルに応用するのも簡単です。
田中:プログラミング学習においても考えたとおりに動いてくれることは大切ですからね。
ーー今後のtoioの展望についてお聞かせください。
田中:最近のtoio SDK for Unityを使った取り組みとしては、高専や大学といった高等教育機関の授業で使ってもらうためのコンテンツを充実させようと企画しています。単にUnityを使ってtoioを動かすだけではなく、画像認識をはじめいろいろな技術と組み合わせて機械学習を拡張する用途にも使ってもらいたいと考えています。
❚ モリカトロンは受け身にならずに知恵を絞った提案をしてくれる
ーー最後に、一緒に仕事をしてみてモリカトロンをどう評価しますか。
赤羽:イメージしたことを具現化するのはなかなか難しいのですが、モリカトロンさんは自発的に色々なことを実験されているだけあって、いつも期待以上のものを提示してくださいました。お互いの意見を出し合いながらものづくりができる理想的なパートナーです。
田中:みなさんが楽しく作られているのが伝わってくるのも嬉しいところです。長年のゲーム開発とAI開発の経験、ロボットへの興味を持たれていることもあり、まったく受け身にならずに知恵を絞った提案をいただきました。やっぱり自分たちが楽しめないとお客さんも楽しめないと思いますから。自分たちの興味をどんどん深掘りできるからこそ、使いたいと思えるものを作れるんだと思います。それなりのものはAIが作ってくれるこれからの時代、そういう人間としての価値がより高まってくると思います。
❚ モリカトロンお問い合わせ先
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