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『独自トークン報酬の「売れない」問題と解決案』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.9.19

■エイプコイン(APE)、160億円相当のロックアップトークンを放出へ

暗号資産(仮想通貨)エイプコイン(APE)が3月17日に公開されてから6か月後、利害関係者に割り当てられた2,500万APEのリリース予定日が迫っている。
2,500万APEは執筆時点に約160億円の資産価値があり、エイプコインの現在の循環供給量3億1,400万強APEの約8%に相当する。

世界最大のNFTアートプロジェクト「BAYC」のブランド力の価値化のために発行されたAPEコインが、半年間のロックアップ期間を経て売却可能になる日を間もなく迎えます。

これはとても難しい問題です。

多くのweb3プロジェクトは独自トークンによる資金調達を行っています。
初期の大口投資家や運営のコアメンバーに「将来値上がりするかもしれない独自トークン」を配布、プロジェクトが成功した暁には値上がりしたトークンを市場で売却することで大金持ちになれる、という夢を見ています。

しかし実際には売ることが非常に難しいのが現状。
いくら値上がりしても売れなければ意味がなく、「結果売れない」や「売ったせいで大暴落」がAPEコインのような模範プロジェクトで起きれば、今後の多くのweb3プロジェクトへの期待値や投資マネーが萎んでしまいかねません。


■独自トークンによる報酬の課題

そもそも独自トークンだから起きる問題

プロジェクトの成功によって価値がゼロから何万倍まで上がる変動性を持たせるためには「独自トークン」は適していて、例えば独自トークンの代わりに「法定通貨」を使ってもプロジェクトの成否で価値が上昇しません。

プロジェクトの価値上昇を表現するという意味では独自トークンは適しているのですが、使途がほぼなく「売って現金化する」以外のユーティリティがありません。そのためロックアップ解除後に売り圧が発生します。

「売るしかない」ということが問題の根幹です。

法定通貨のように独自トークン自体が巡る仕組み、市場で使うほど市場が活性化する仕組みが必要です。


長期運営するつもり、の信用が売りづらくさせる

運営は長期でプロジェクトを運営し続ける信用が必要なのですが、今のところ市場は「どうせ売るでしょ」と考えています。

そのため最初の割り当て(アロケーション)で運営や投資家の割合が多いと危険だと見なされがちです。

どんなプロジェクトも栄枯盛衰、売れる時に売らないといけないわけですが、web3の歴史が浅いせいでまだプロジェクトにも運営にも信用がありません。

そのため運営はできるだけ長期にホールドする暗黙の義務を課されている状態です。

初期メンバーに報いるためにはやはり独自トークンを売らずに収益化する仕組みが必要です。


市場で売らず直取引で売るのはどうか

IEOした取引所で大口の売りを仕掛けるから暴落するわけです。
プロジェクトの未来に賭けている人が直接相対取引に応じてくれれば市場価格に影響を及ぼすことはありません。

しかしクローズドに取引相手とやりとりをすることはなんだかweb3らしくありません。全員がいつでもできることでもなく不公平感があります。

しかしプロジェクトの未来に賭ける人に引き継ぐという発想自体はアリな気はします。


株式だったらどうか

独自トークンではなく株式をアロケーションしたらどうでしょうか。

売りにくさは変わらない面があります。コアメンバーが株式を全部売却したらプロジェクトを放棄したと受け止められるでしょう。

しかし売らずに使うことも株式なら可能なことがいくつかあります

収益に応じた配当金をもらう、株式を担保に現金を借りる、議決権を行使するなど、必ずしも一気に売却しなくてもいい理由がいくつか作れます。

しかし株式だからこその問題がたくさんあります。

・そもそも株式会社でなければならずDAOや任意団体、純粋なプロジェクト単位では無理です。
・株主総会や取締役会の開催、役員変更時の登記など会社法が定めるルールに則る必要があり、独自トークンほど頻繁に所有割合が変わることが想定されていません。
・非公開株・未上場株の売買をオープンに行う方法がほぼありません。
・株式の価格は1株あたり利益や1株あたり総資産などで決定されるメカニズムがあり頭打ちになりやすい特徴があります。
・出資法の制限で集金告知がしづらくなります。
・議決権が無駄に発生するためコアメンバー以外へのアロケーションを増やすことが難しくなります。
・上場企業やその関連企業の場合、大規模な売買などに報告義務があります。その他適時開示義務が発生する場合があります。
・インサイダー規制の対象になります。

このあたりの問題を解消するために期待されているのがDAOなわけで、株式会社の制度と独自トークンの組み合わせは少し食い合わせが悪い部分があります。

しかし配当金や担保化などはヒントになりそうです。


NFTだったらどうか→ERC-3525の活用

NFTはETH建てで取引されたりします。チェーンネイティブトークンによって価値づけされる、といっても良いでしょう。

プロジェクトが成功した暁にはNFTの価格がETH建てで上がる。という構造です。

しかしBAYCもNFTを売らずにホルダーに価値還元をするための仕組みとしてAPEコインが作られたわけで、NFTだけで解決はできません。

NFTをステーキングすると配当金がもらえる、という仕組みはNFTXをはじめとしていくつかありますが、これ自体はNFTが証券=セキュリティトークンに当たると米国SECが判断する可能性が非常に高く、米国以外の国でもほぼ違法でしょう。

ただやりようはあるかもしれません。

ERC-1155ERC-3525のような数量を規定できるNFT規格を使って、プロジェクトのトレジャリーウォレット内のトークン量=収益額に応じてNFT側の「数量」を増やしたり減らしたりすることをスマートコントラクトで自動化。

そしてNFT内の数量の値を分割して別のNFTがmintできるようにすることで、部分的にNFTを売却できるようにする。利確はあくまでのNFTの売却で行い、報酬はETHで受け取るかたちです。

配当がもらえるNFTの最低値を決めておいて、複数のNFTをマージさせて最低値を超えさせる必要がある、という仕組みにしておけば、最小単位以下に分割して「数量を減らす」を防ぐ技を使えなくする必要はありそう。

であればNFTのマージに対応しているERC-3525の方が適していそうです。

分割されたNFTを買おうとする人はプロジェクトの未来に賭けている人、プロジェクトの収益から配当金にあたるトレジャリーからの案分を定期的にもらいたい人なので、NFTホルダーの人数自体が増えることはプロジェクトの応援者が増えることとイコールでもあります。

本当はNFTが持つ値に応じて直接トレジャリー内のETHなどネイティブトークンが配当されればシンプルなんですが、それはおそらく違法っぽいので回避策を考えてみました。


■DAO、NFT、独自トークン、web3の可能性を萎ませないために技術発明が必要

まずはAPEコインのロックアップ期間明けの値動きや投資家、運営の売却方法などを観察してみます。

独自トークンを軸としたweb3プロジェクト、ガバナンストークンで議決権と報酬を規定するDAOは、株式会社を超える新しい資本主義の在り方の発明だと言われていますが、まだ上手なExitの方法・報酬分配の方法が確立できていません。

初期メンバーに報いたい、ファンが推しを応援して売れたら報酬を皆で分け合いたい、目利き力で見つけたプロジェクトが大成功してトークンが何万倍にもなった、しかし独自トークンを売ることができない。これが続くとweb3は従来型の株主資本主義に飲まれていくと思います。

ERC-3525による解決策は今回浅学ながら思いつきで書いてみましたが、皆が感じる大きな課題は技術で解決されると信じています。ERC-3525をさらにプロジェクト報酬分配に特化させたものに進化させた規格が登場するかもしれませんし、プラットフォームレイヤーで解決するものが登場するかもしれません。

少なくとも今の株式による利益案分には課題が多いので、それをweb3、ブロックチェーンテクノロジーで解決することができることを期待しています。

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