『推し活新時代を標榜しCDやレコード、配信に代わると謳う音楽メディア【miim(ミーム)】には分散型の発想が必要だ』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.8.2
■推し活新時代!CDやレコード、配信に代わる新時代の音楽メディア【miim(ミーム)】を徹底解剖
そもそも同じCDを大量に買わせるモデル自体が倫理的に間違っていると思いますが、「CDを買うと握手券が付いてくる」のように体験イベントをセットにすることは体験価値を重視する今に求められるものですし、CDよりデジタル音源のほうが聴きやすいのも確か。
と、タワーレコード株式会社 ディストリビューション&レーベル事業本部 本部長 倉田二郎氏がインタビューで答えているのは納得感がとても高いと感じました。しかし同時に、現状の「miim(ミーム)」では解決できていない課題も多くあると感じました。
音楽NFTというトライがされてきましたが、あまり普及はしていません。しかし「miim(ミーム)」も「音源や特典一つひとつがブロックチェーンで改ざん不能な管理がされています。」としており、つまりNFTなのだろうと思いますが、あまり声高にブロックチェーンやNFTを主張していません。
「miim(ミーム)」の狙いを簡単に整理しつつ、「miim(ミーム)」と音楽NFTが共に超えるべき課題を考えてみたいと思います。
CDと同じビジネスモデルで、CDの課題を解決
「miim(ミーム)」は、デジタルではあるもののCDと同じくパッケージを買うかたちです。しかしフィジカルな在庫を持たないのが大きなメリットです。
製造物としての在庫リスクはありませんが、販売数量を限定することは可能なはずです。限定版パッケージは数量限定で高額、のようなCDと同じ販売施策を採ることも技術的には可能です。
CDにイベント参加券の紙を封入するのと同じく「miim(ミーム)」でも特典を付けられますが、フィジカルなCDの流通と違ってタイムリーなイベントの特典に都度変更することができます。
CDの場合、期間が過ぎたイベントのチケットが封入されている在庫は価値を失ってしまいます。しかしタイムリーに特典を変更できる「miim(ミーム)」ではその課題を解決できます。
また根本的なところですが、CDはスマホで聴けません。デジタル音源であればスマホで聴けます。これも現代ならではのCDの課題解決です。
特典販売所の様相
「miim(ミーム)」が買えるTOWERRECORDS miim STOREでは、販売されているパッケージをどれか選ぶとイベントカレンダーのほうが上に表示され、入場券、特典券、デジタル特典、シリアルコード、グッズ、スピード抽選、抽選券という「おまけ」で絞り込むメニューのほうが強く押し出されます。
対してアーティストや楽曲、アルバムの説明はほぼない、という完全にイベントや特典を買うようなインターフェースになっています。
楽曲を聴きたいだけならSpotifyで聴く、パッケージが欲しい人の目的は特典である、という割り切りのようにも見えます。
楽曲を聴くために買う部分もあるのですから、もう少し楽曲やアルバム、アーティストの説明があった方が親切だし、試聴もあった方が新規の人に買ってもらいやすいだろうと思います。
タワレコのmiim STOREのインターフェースなら、楽曲はいらないんじゃないでしょうか。楽曲数・アーティスト数が増えたとしても、これでは単なるイベントの参加券販売所です。
CDと音楽NFTとの中間点
音楽NFTでも同じ試みがなされてきましたが、多くの人にとって一足飛びすぎなのだろうと思います。
NFTとは何なのかでつまずきます。
NFTを買うための暗号資産でつまずきます。
MetaMaskでつまずきます。
取引所の口座開設と日本円の送金でメンドウになります。
推しの音楽を買いたいだけで、これらのハードルを越えるのは厳しいのが正直なところ。魅力的なイベントの参加券がついていたとしても多くの人は諦めてしまいそうです。
対して、「miim(ミーム)」では裏側はブロックチェーン上でチケットや音源が管理されているものの、日本円で買えますし、特別な知識も手続きも不要です。
多くの人はNFTがほしいわけではなくイベントの参加券が欲しいわけで、参加券を流通させるのに難解な仕組みを採る必要はありません。
CDの抱える課題を解消しつつ、音楽NFTで試されてきたことを取っつきやすく実現した、CDと音楽NFTの中間点のような立ち位置が「miim(ミーム)」だと見えます。
音楽NFTにできて「miim(ミーム)」にできないこと
「miim(ミーム)」の裏側の技術はブロックチェーンですが、純度の高い「いわゆる音楽NFT」とはいくつか差異があります。
(1)二次流通できない
音楽NFTならできることに、二次流通があります。NFTの場合、二次流通時のロイヤリティ設定ができるため、中古CDからはアーティストやレコード会社が収益を得られない課題を解決できます。
しかし、聴き放題なサブスクと楽曲パッケージの二次流通は相性が良くなく、また期間限定の特典が商品価値の中心にある以上、特典の期間を過ぎると価値を失います。そんな理由から割り切ったのかもしれません。
(2)アーカイブに向かない
歴史的アーカイブという機能を「miim(ミーム)」は持ちづらいという欠点があります。
Spotifyもそうですが、配信が止まるとストリーミングでは聴けなくなります。ダウンロード型であってもスマホの買い替えでデータを引き継ぐ際に配信が終わっているとDRM(Digital Rights Management)の認証が通らずデータ移行ができない場合があります。
NFTもメタデータである音源が失われると聴けなくなるのですが、いち民間企業がサービス停止すると聴けなくなる危うさを回避しようとするNFTやブロックチェーンの分散型の思想もあって、永続性を意識して設計を期待します。
しかし、今のところCDのほうがアーカイブに向いている面は否めません。音楽NFTが本当に永続性を持てればいいのですが。
(3)グローバル販売に向かない
楽曲をデジタルデータとして販売するのはグローバル向きなのですが、日本で開催されるリアルイベントがセットになると一気にグローバルに不向きになります。
デジタル特典もありますが、これはCDの先行予約などでもすでに実施されており目新しさはありません。「miim(ミーム)」をあえて選ぶ動機付けはリアルイベントが主でしょう。
音楽NFTの場合、世界共通通貨である暗号資産決済であること、音源や原盤権などを売買するのもグローバル市場で多人数に流通させた方が価値が付きやすいことなど、グローバル向きです。背中合わせで「難解」というのもついてきますが。
分散型の発想が必要な時代
「miim(ミーム)」の裏側が技術的にパブリックチェーン上のNFTになれば、上記の「できないこと」がある程度できるようになります。
NFTでも法定通貨で決済できれば、わかりづらさの弊害はかなり抑えられます。声高にNFTだと言わなくてもよいかもしれません。
しかしそれだけではNFTの価値を発揮できません。無駄にNFT化しただけになります。そして今の「miim(ミーム)」はまさしくコレだろうと思います。ブロックチェーンを使う意味が伝わってきません。
音楽NFTの真に良いところは分散型であることです。
同じ楽曲が複数の配信・販売サイトで流通可能な相互運用性も備え、配信元の独自規格や囲い込みの制約を受けず、配信元のサービスが仮に終了しても楽曲は手元に残る。
このような分散型の発想を「miim(ミーム)」が持つなら、「今更楽曲をダウンロード型で販売するという一度通った道にイベントの参加券をつけただけ」という最も根幹の問題をクリアできるかもしれません。
分散型の発想を持った時に技術的な共通規格として使うのがNFTです。メタデータである音源の共通規格化はあまり進んでいませんが、イベントの参加券の流通に価値の重きを置いている「miim(ミーム)」の場合、極端な話、楽曲を外してもいいはずです。
iTunes Music Storeもオワコン感が強いですし、Sonyの「mora」、ONKYOの「e-onkyo」も正直パッとしません。ハイレゾ高音質もニッチなニーズですし、イベントの参加券もニッチなニーズです。
「miim(ミーム)」が音楽の新しい流通形態としてCDやサブスクに取って代わるのを目指すには、分散型の発想が必要です。
推し活市場に音楽業界の活路を見出すのはもちろんですが、イベントチケット販売所ならPeatixでよいはず。音楽は時代と場所を思い出すための鍵ですから、ファンの愛情表現を受け止めるならイベント開催期間中だけでなく未来10年後、20年後に思い出を呼び起こす装置として永続性をいかに担保するかを設計しておくことが重要です。
永続性を実現するのに確実性が高いのは分散型の設計です。ファンが1人でも残っていれば永続するような、ファンがインスタンスを建てて永続できるような仕組みならより長く続くでしょう。