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『AIによるデジタル・レプリカ-「再現」と「代替」の視点から考える』~【web3&AI-テックビジネスのアイディアのタネ】2024.11.27

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■“実在する人間”の考えをクローンした自律AIを1000体以上生成。高い精度で世論調査や社会の反応予測など活用へ

一昨日『AIとの2時間の会話で「デジタル・レプリカ」スタンフォード研究で中間管理職が不要に⁉』というタイトルでご紹介した、AIを使った人間のデジタルレプリカ(デジタルの分身)に関するニュースが、また改めて紹介されていました。

2時間で1000人ぶんのデジタル・レプリカ、クローンが作れたことに驚きつつ注目するのは同様ですが、記事のタイトル「高い精度で世論調査や社会の反応予測など活用へ」や、文末にある以下の文章、

活用方法としては、政策に対する社会の反応や世論調査、製品のマーケティング調査に使ったりなど、世間の指標として使える可能性があります。

つまり、大勢のデジタル・レプリカを用意することで、世論調査や社会の反応予測など、群集としてのシミュレーションに活用できるのではないか、と結論付けている点には、私は賛同できません。

ふたつのデジタルレプリカの使い方

スタンフォード・Googleの研究

研究チームは1000人以上の実在する人々の思考パターンと行動を分析し、それをAIでシミュレートする試みを行いました。各参加者に2時間のインタビューを実施し、個人の行動や思考をシミュレートできるAIを作成。その精度は85%に達したとされています。これは個々人のAIクローンを作ることを目指した「再現」アプローチと言えます。

博報堂のHONEST

一方、上記の記事でご紹介した、博報堂は7000人分の「ペルソナ」をAIでデジタルレプリカ化した「HONEST」では、個々の個性を持ったペルソナにAIチャットでインタビューをすることで、製品についての感想を得るような使い方を想定しています。

これは特定の目的(マーケティングリサーチ)のためのインタビュー相手を人間からAIクローンに置き換える「代替」アプローチと位置付けられます。

「再現」アプローチの課題

スタンフォード・Googleの今回の研究でも、個々人を「再現」することは行われていますが、AIクローンをたくさん集めた結果の群衆の再現は目的としていません。

もし、無数のAIクローンのよる群衆社会のシミュレーションを目指す「再現」アプローチを取るなら、以下のような課題があります。

  1. 精度の問題:85%という高い再現性を誇りますが、残り15%の誤差が社会全体のシミュレーションでは重大な影響を及ぼす可能性があります。

  2. 関係性の課題:個人間の関係性、社会の中での個人の振る舞い、群集心理など、点(個人)が線や面(社会)になった時は、個々は別の思考や行動を取る可能性が高く、群集としての挙動を予測することは極めて困難です。また、今回の実験では関係性に関するデータは取得・再現されていません。

  3. リソースの非効率:大きな社会を再現するにあたり、個々の影響因子をすべて完全に再現しようとすることは、計算リソースとエネルギーの観点から非効率的です。

「代替」アプローチの利点

一方、個々人を人間に置き換えてマーケティングリサーチのためのインタビューをするような「代替」アプローチには、人間へのアンケートと比べて以下のような利点があります。

1.バイアスの制御
・アンケート拒否がない(回答者バイアスの排除)
・疲労による回答品質の低下がない
・インタビュアーへの忖度がない

2.実用的な効果
・状況に関係なく、一貫した回答が得られる
・詳細な質問や長時間の調査が可能
・コストパフォーマンスが高い

博報堂がこのシステムを「HONEST(正直な)」と名付けたのは、まさにこれらの特徴を端的に表現したものと言えます。人間の調査では避けられない社会的望ましさバイアスや忖度を排除できる点は、マーケティングリサーチにおいて大きな価値があります。

「再現」と「代替」の適切な使い分け

この二つの事例から、AIの活用において「再現」と「代替」という二つのアプローチがあることが分かります。

再現アプローチ

  • 目的:現実をできるだけ忠実に模倣する

  • 課題:複雑性が高く、誤差が蓄積する

  • 例:社会シミュレーション、気象予報など

代替アプローチ

  • 目的:特定の機能に焦点を当てた置き換え

  • 利点:目的を絞ることで高い実用性を実現

  • 例:マーケティングリサーチ、カスタマーサービスなど

この枠組みは、他のAI応用分野でも適用可能です。たとえば、チャットボットの開発では、人間の会話の完全な再現を目指すのではなく、特定の用途に特化した代替として設計する方が効果的かもしれません。

AIに仕事を奪われるのは「代替」

よく「AIに仕事が奪われる」と心配されますが、これは「代替」を指しています。いま業務を担当している「その人を再現」するAIを作るより、資料を作る、データを処理するなどの業務自体をこなせれば、「その人を代替」する方が簡単に実現できるため、AIに仕事を奪われることが現実味を帯びて感じるわけです。

逆に、「再現」のアプローチは、現在でも実用化はまだ難しく、だからこそ今回のスタンフォード・Googleの研究は注目されたとも言えます。

群集シミュレーションは群集モデルで

ましてや、今回の研究目的である個人のデジタル・レプリカの再現の域を超えて、群集シミュレーターとして活用できるのではないかと結論付けるのは飛躍しすぎだと感じますし、群集をシミュレーションするなら個々を再現する方法ではなく、群集レプリカから推論する方が適切だろうと思います。

天気予報、気象予測でも、かつてあった「地球シミュレーター」という気象因子をできるだけ細かくたくさん正確に「再現」し、スーパーコンピューターの力業で計算するという方法ではなく、気象の結果記録だけをデータとして与えて推測させる「AI気象モデル」という手法が採られています。

こちらの方が予測精度が高く、瞬時に結論が得られ、天気予報の計算に必要な電力量は、10万~数百万分の1へと激減したとしています。

個々のデジタル・レプリカを大量に作り、群集を作り、そのうえで「政策に対する社会の反応や世論調査、製品のマーケティング調査に使ったりなど、世間の指標として使」うのは、おそらく精度が低く、計算時間がかかり、莫大な電力を消費するという結果になるだろうと思います。

まとめ

AIによるデジタルレプリカの開発において、完全な「再現」を目指すことは魅力的ですが、現実的には多くの課題があります。一方、特定の目的に特化した「代替」として活用する場合、むしろAIの特性を活かした効果的な解決策となる可能性があります。

現時点のAIの技術レベルでは「再現」は理想であり、「代替」は現実的な解決策だとも言えます。

そう考えると、「再現」と「代替」はAIの活用方法を検討する際には明確に区別して考えたうえで、AIは「代替」で活用することを検討した方が、実用的な使い方が早くローコストで実現できるのではないかと思います。


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