プライドの折り合い
1人電車の旅に出た少年は、今日も彼に捕まってしまった。
「あれは良くなかったよな。お前も心のどこかで感じてたんだろ?お前の悪い癖だぞ。そのプライド。そのプライドのせいで今までどれほどの後悔をしてきたと思ってんだ。反省しないな、お前は。」
彼とは友達よりも、家族よりもずっと前からいる気がする。気がするだけで、ホントはどのぐらい一緒にいるか、正直分からない。でも、彼はいつでも僕と一緒にいて、こうやって芯を喰ってくる。
初めて見た人は、大体、「嫌な奴だな。」の一言が決まり文句だ。でも、僕は彼といる時、どうも心がスッキリする。というか、落ち着く。あんなことを言われてもだ。どうかしてるのは、彼ではなく、僕なんだろうけど。
彼のことについては、詳しくわからない。年齢も、性別も、出身も、形も。ただ、ずいぶんと前から一緒にいる。知らなくても、なんの問題もなかった。近い感覚で言うと、自撮り写真もないSNSアカウントの人とDMでしゃべってる感じかな。ただ、知らなくてもいいという点は、違う、もっと適切な例があるのかもしれない。
彼と僕の関係についてはこの辺にして、今回の説教内容というのが、
「プライド」だ。
僕は昔から、変なプライドを持つことがある。
なんでも自分の力でやりたいプライド、自分の意見を貫き通したいプライド、
・・・
思い出すだけでも、自分の未熟さを痛感して恥ずかしいが、まだ始まったばかりの人生を歩む中で、他人との調和を学び、少しずつ社会と折り合いをつけてきた。しかし、折り合いをつければつけるほど、反発力が強くなり、また新たなプライドを呼び起こす。いい加減終わってほしい、無限プライドループをいつか抜け出してやるという気持ちだけ持ち、流されるまま流れているのが現状だ。
人生とはこうも神様の言う通りなのかと、居もしない存在のせいにし続ける毎日です。
まあ、こんな感じで、気味の悪い感性とプライドで生きている僕が、新たなプライドと折り合いをつけれなかったことを彼は怒っていた。
あの日は、ゼミの先輩を送り出す、追いコンと呼ばれる会があった日。
朝からバイトもあり、睡眠時間があまり確保できなかったのは、見直すべき僕のダメな部分だが、どうにか元気を取り戻すために、行きつけのサウナ付き温泉に行った。サウナは、なんか元気が出るんです。素人思考で言うなら、「血行が良くなるから」でしょう。きっとそう。なので、その日もサウナに入って、調子を整えた僕は、0次会と称し、趣味が合う友達と2時間半、競馬の話をしながら、タバコを吸い、酒を飲んでいた。
17:40
1次会の会場に向かった僕は、さっそく吐いた。
調子に乗る、ここも僕のダメな部分なのだが、彼はここを評価してくれているので、まあ、良しとしよう。
なんだかんだで回復し、1次会が終わると、僕はもう一つの飲み会に参加した。
20:00
バイト先の送別会は、待ってました!とばかりに僕をみんなで迎えてくれた。
主役と錯覚してしまうほど。
僕は、ここでもなるべく先輩のボケや話にツッコんだり、盛り上げたりしていた。自分でも確信するぐらいその場に「ハマってる」と感じた僕は、盛り上げるという役割を全うするため、ゼミの飲み会に戻った。
21:30
戻った僕に待ち受けていたのは、出来上がった空間だった。
まあ、今更戻って来て、盛り上げてやろうなんてかかってた僕がどう考えても、バカ過ぎたのだけれど。
「盛り上げることができない」という視点で俯瞰してみた時、僕に存在価値はなかった。全く。
僕の今の実力でできることなんてなかった。
それが悔しくも、空しく、無気力になっていった。
いつも自分が存在できたのは、他人が作る「盛り上げ役」という、いや、「いじられ役」としての存在価値があったからだと、その時初めて気が付かされた。
ずっと、誰かに生かされていたんだ。
誰かを生かしているわけじゃなかったんだ。
その気づきが、3時間近く、僕の頭を蝕んでいった。
気付けば、僕はスマホの世界に逃げていた。
心地が良かった。自分の存在価値と向き合わなくて済んだから。
25:00
僕は自分の存在と向き合うことから逃げるように、3次会にはいかず、足早に自分の家へと帰った。
自分のプライド、「誰かを生かしてやらなければだめだ」
これが崩れた日だった。
全て自分の実力不足で招いたこと。
そのせいで、せっかくの先輩との時間も、自ら消し去っていった。
まさに、後悔先に立たず。深く実感してしまった。
今日、彼と話すために、僕は電車で小さな旅をした。
彼は最後にこう僕に言った。
「自分の弱さと向き合って、向き合って、苦しくても向き合い続けなくちゃダメなんだよ。そうしなきゃ、いずれ何もできなくなる。道が途絶える。向き合い続けた人間には、その先の道が開ける。辛かったら逃げてもいいけど、向き合うことからは絶対逃げるな。」
これからも彼には頼ってしまうかもだけど、大切なことに気づかされて、存在も分からない彼のことが更に好きになった。
旅を終えた僕に、何が残ったのか。
いつか、彼に頼らなくても生きていけるその日まで、そう遠くない未来を信じながらも、彼との時間の心地よさに浸る。
また一歩、僕の人生が進んだ。
続く…