大学を卒業する1週間前まで就活が終わらなかった話【その2】
前回の続きです。
前回の話はこちら。
2019年2月。大学3年生。
2次選考は、1次選考の1週間後だった。
当日会社に行くと、その隣のマンションの一室に案内された。作業場として借りているところらしい。
1階に良い雰囲気のワインバルがあったので、「もし社員になれたらここでオシャレにワインを飲もう」と決めた。2次選考前とは思えない緊張感である。
作業場に着くと、ES(エントリーシート)を書くことに。制限時間は30分だった。
僕はこの時までESを書いたことが無かったので、初めてiPhoneXを手にした人みたいに「ほほう……これが噂の……」とESを前に静かに興奮をしていた。新手の変態だ。
ESは「志望動機は?」「自己PRは?」というザ定番という質問から、「自分らしさとは?」「10年後の自画像を書いてください」などというベンチャーらしさ全開のものまであった。
30分後、2人の面接官の方がマンションの一室に入ってきた。
僕はそれまで割とリラックスしてたが、2人のうちの1人が前髪を全部上にあげて固めているタイプの強面(以下スモーカーさん)だったので、その瞬間ギュンと緊張してしまった。小さな声で「本日はよろしくお願いします」というのが精いっぱいだった。
ただ、もう1人がすごく柔らかい方(以下たしぎさん)だった。
面接はその人との対話形式だったので、スムーズに進んでいたと思う。
たしぎさんの雰囲気にほぐされたのか僕も緊張が解け、自分らしさを出しながら面接をすることができた。僕の小さいボケにスモーカーさんが全く笑っていなかったのが気になるが。
面接の受け答えは悪くなかったので、なんとなく通るんじゃないか?と思っていた。
「10年後どうなっていたいですか?」という質問に対して「社会人になって成長しながらも、今の僕のまま、変わらないでいたいと思っています。」と答えた。するとそれまで口数の少なかったスモーカーさんがいきなり
「それって矛盾してない?」
と口を開いた。あまりにも真っ直ぐな目だった。
僕はのんきに(ESの小ボケまだ残ってるんだよなぁ、いつ言おう)と考えていたのだが、Mさんの鋭い眼光により全部吹き飛んだ。
「それって矛盾してるよね。自分でわかる?」
僕はすかさず「いや、矛盾はしていないと思います。社会人としてのスキルや経験は積みつつ、今大事にしてることや価値観などを大事にし続けたいという意味です。」
と言えたら良かったのだが、スモーカーさんの覇王色の覇気のせいで身体が硬直してしまい、「はい、確かにそうですね……」と同意をするのが精一杯だった。スモーカーは覇王色持ちって誰か教えてくれたらよかったのに。
スモーカーさんは「さっきから聞いてると志望動機も曖昧だし、本当にうちで働きたいのか分からない」と指摘を始める。
挙句「なんか、君は『達観してる風』だよね」と言われた。
『達観してる』なら良い。褒められてるから。
だけど『達観してる風』ってなんだ?イケメン風みたいなことか?
正直意味は分からなかったが、良い意味じゃないってことは確かだった。
僕は、「こいつ出来そうなやつだな!採用!!」と評価を受けたからこの場所にいると思っていたが、どうやらそうではないらしい。
せいぜい「ちょっと可能性あるかも?」くらいだったのだろう。
そしたら実物は曖昧な志望動機やふざけた子ボケを繰り返すルフィもどきだったので、それは確かに無理だ。海賊王にはなれない。
僕は『達観してる風』というワードにより、「こいつはダメだ」と烙印を押された気がした。
僕の中の自信と自惚れがぶっ壊される音がした。
この時点で2次選考の不合格を察した。
もう何も話す気になれず、ただ相槌を打ちながら話を聞いていた。
それを見たたしぎさんがこんな言葉をくださった。
自分のやりたいことをちゃんと決めた方が良い。それがお二人からのアドバイスであり、初めての2次選考で痛感したことだった。
結果は言うまでもなくお祈りだった。
僕はこの経験から、ベンチャー企業は「やりたいことのあるアツい人たちの集まり」だと知る。
2019年3月。大学3年生。
3月になると本格的に就活が始まった。
僕は大学の友達と合同説明会に行き、志望業界を決めた。
当時の僕は、合唱を10年間続けてた上、バンドのライブやフェスに良く行っていたので、「音楽業界なら受かるのではないか?」と安直に考えていた。
また、合唱を通じて舞台の演出やステージ構成、企画運営の経験があり、その類に興味があったので「イベント会社」も受けようと決めた。
こうして僕の志望業界は「音楽業界」と「イベント業界」になった。
3月は会社説明会に行ったり、ESを提出したりと何かと忙しかった。
説明会は劇場やイベント会社、
ESは大手プロダクションや音楽メディアなど、全部で5社くらいに提出した。
ESは全落ちだった。
上智大の友達とマックでゲラゲラ笑いながら作ったESだったが、クオリティは高く、絶対通ると思っていたのでショックが大きかった。
そんな僕だったが、3月の半ばから、とあるイベントベンチャーの選考が始まる。
その企業の説明会で注目と笑いを集めた僕は、勢いそのまま1次選考も2次選考も通過した。
2次選考では「就活が終わったら何をしたいですか?」という質問に対し、周りが海外旅行や髪を染めるなどど1ミリも面白くない回答をする中「部屋の掃除がしたいですね」と狙いにいって信じられないくらい滑った。
これだけ聞くと本当に通ったのか?と思われそうだが、人を笑わそうとする僕の姿勢が会社の雰囲気に合っていたんだと思う。
実際、お会いする社員の方々は僕と近い雰囲気の方が多かったし、社長も説明会で一度見ただけの僕を覚えてくれていた。
選考は3次面接と最終面接が残っていたが、会社の雰囲気と自分がビシビシ合っていたので、この時点での内定を確信していた。
僕はすっかり就活が終わった気になっていた。
『ちょっと早い気もするけど、就活はこれで終わりでいいかな~。
来年から新宿のこんなオシャレなオフィスで働けるなんて……雑誌に掲載されるタイプの社会人みたいじゃ~ん。社員証にスタバのカードを入れちゃお~。』
と、まだ見ぬ社会人の自分に心を躍らせていた———。
2019年4月。大学4年生。
イベント会社は3次面接で落ちた。
結果が来た時「は?」と声が出た。
あんなに話盛り上がってたのに……?まあまあ笑い取っていたのに……?僕のスタバカードはどこへ……??
だが悲しいことにこれが現実だ。これを読んでいる就活生には、雰囲気や人柄が合っていたとしても普通に落とされることを覚悟しといて欲しい。
たとえ面接官の方が「じゃあまたね!」と笑顔で見送ってくれたとしても、普通に落とされる。
その面接官が言う「またね」は「また(これから就活頑張って)ね」。略して「またね」だ。
その面接官と顔を合わせることは2度と無い。
僕は「あんなに思わせぶりな態度をとっていたのに、他に本命がいるんだ……私には本気じゃなかったのね」と、イケイケ大学生に振り回される都合の良い女の気持ちが分かった気がした。シクシク。
そして、いつのまにか僕は大学4年生になっていた。
とは言っても大学には週に一回行けばよかったので、就活、飲み、遊び、バイトと、普通の生活を送っていた。
4月は落とされたイベント会社の他に、某有名プロダクションなどの選考に参加したが、結果は振るわなかった。
ここから5月くらいまで、1次は通るが2次で落ちるという一喜一憂の日々が続いた。
このへんから僕は、オファーボックスやアイルーツといったオファー型就活アプリを使うようになる。