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燃えるゴミ前夜にフリルレタスが落ちていた

缶とペットボトルと瓶の回収日が木曜日だ。

前日の夜、つまり水曜日。宅飲みで開きに開いた缶とペットボトルと瓶を袋にまとめていたのだけど、どうしても外まで袋を運ぶ気にはなれず、絶対に起きれないのに「まぁ明日の朝早起きすれば良いや」と諦めて寝てしまった。

次の日、窓の外から聞こえた缶が転がるような音で目が覚めて、やっぱり無理だったかーと寝返りを打っている合間に、ごみ収集車のエンジンは遠ざかっていった。だから今でも大量の缶とペットボトルと瓶が、袋に包まれて玄関横に落ちている。

水曜日と土曜日が燃えるゴミの日で、前回の反省を生かして今日は夜の内にゴミを出した。まだ反省が生きているというか、失敗をした後だから室内用のモコモコの靴下をしっかりと脱いで、夏から出しっぱなしのビーチサンダルにを履き、築年数が50を超えた古い鉄骨の階段を降りて、寒空の下で身を寄せ合うゴミ袋達に加えるように、自分の燃えるゴミを置くことができた。

これが暫くすると段々と面倒臭くなり、「明日は朝に起きて捨てれそうな気がする」と過信して、同じ失敗を繰り返すことになる。ちょっと前の失敗が薄れて、傲慢な自分に酔いしれ、再び愚行を犯す。こうして年を取っていく。

そんな自分でも、昨日の今日だから、夜の内にゴミを出せた。こんなことを書くと「夜の内に出すのは非常識ですよ。朝になってから、8時までに出すようにしてくださいね」とイマジナリーおばさんが口を開くけど、用もない週末の早起きなんて絶対に出来やしないので勘弁して欲しい。

アンモラルな自分に対してはイマジナリーおばさんが注意をしてくれる。その度に大概が無視をして終わる。念のため調べてみたら区のゴミ捨て要項には「朝8時までに出してくださいね」としか書いていなかったので、多分このままでも大丈夫なんだろう。

燃えるゴミを回収場所に置く途中で、冷蔵庫に卵が無かったことを思い出した。昨日行ったまいばすでは、卵の棚はがらんとスペースができていた。なんでも鳥インフルエンザが流行っているらしく、供給が遅れているらしい。卵、一週間くらい口にしていない。今日は売っているかもしれないと、まいばすに向かう。

家からまいばすまでの道中、歩道に袋が落ちているのが目に入った。ポテトチップスの空袋によく似ていたので、誰かが落としたのかと思った。

スナック菓子かと思われたそれは、フリルレタスだった。

フリルレタスという商品を恥ずかしながら初めて認知した。サニーレタスは知ってたけど、他にもレタスには種類があったのか。ちょっとお洒落なパッケージに身を包んだレタスが道端に落ちている様が不格好で面白かった。写真を撮り、家に持ち帰って捨てようかと思ったが、そこまでする義理はない。

まいばすにはやっぱり卵は売っていなかった。仕方がないので牛乳だけ買って帰ることにした。ふと気になって野菜売り場に足を向けると、そこには道に落ちていたのと同じパッケージのフリルレタスが陳列されていた。税抜き299円。思ったよりも高い。

牛乳の会計を済ませ、再び同じ道を通る。フリルレタスは先ほどと同じように歩道に転がっていた。そのまま通り過ぎようとしたが、まいばすの商品なら販売元に返すのが筋のように思え、店に持っていくことにした。万が一、購入者が探しに戻ってくる可能性もある。脳内のイマジナリーおばさんに「貴方が拾わないとずっとこのままかもしれないわよ?」と詰られたことも関係している。

袋の端を摘まむと、僅かに破れていた。なんでだろう。誰かが落としたフリルレタスを、別の誰かが踏んで破けたのか。購入者が帰宅途中に試しに一枚食べた結果、想像と違ったのでその場に捨てたのか。烏とか鼠がかじっていったのか。

牛乳を買ったばかりのまいばすに戻り、レジで暇そうにしていた2人の店員さんに「これ、外に落ちてました」と声を掛けた。彼らは凄く驚いた様子で「えぇ!?ありがとうございます!!」と礼を口にした。

帰りながら、299円のフリルレタスをわざわざ買う人間がフリルレタスを落とすなよ、と誰かに毒付きたい気分になった。けど、フリルレタスを買うような高い意識を持った人間がフリルレタスを落とすだろうか?分からん。自分が思っているより丁寧な食材ではないのかもしれない。

結局あれはどうやってあそこに辿り着いたのかなーとか、なんでちょっとだけ破けてたんだろうなーとか、そんな風に色々考えて、一年半前に無くした財布、結局戻ってこなかったなぁとそんなことを思い出した。

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