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設計実務における木材よもやま話

投稿者:メグロ建築研究所 平井充
木を見て森を見ずと細部に神が宿るという言葉がある。どちらも建築を考えるときに大事な言葉だ。建築は立体なので人間の思考で全体と細部を同時にイメージすることはなかなかしんどい。小さなものなら可能だが、規模が大きくなるとこれが難しくなる。そうなると全体と細部を頻繁に繰り返し行き来しながら思考することになる。これをサボるとどこかぼやけたものになってしまう。それでも毎回完璧にそれが出来ているかと言われれば、自信を持って頷くことはできない。建売住宅やメーカー住宅のように同じデザインを繰り返しやっていれば完成度も上がっていくだろう。明治時代までの木造民家も、知恵と技術の蓄積の上に限られた型で完成度を上げてきた代表的なものである。しかし、僕らは頼まれる条件によって建築のデザインが大きく変わるし、常に新しいことにもチャレンジしたい。とはいえ建築というのは、毎回全てが新しいものになるわけではない。柱や梁、床と壁、扉や窓、設備機器などのヴァリエーションは限られている。そうなると現代の建築には、変わる部分と変わらない部分があって、変わらない部分に蓄積されるものが多いということができる。

寶泉寺客殿庫裏 (撮影:鳥村鋼一)

さて、僕自身の仕事における変わらない部分の蓄積の話をしてみたい。その部分は、木材をよく使う開口部廻りだ。開口部は、二つの場所を仕切った上で再び繋ぐデリケートな場所であるから空間に与える影響は少なくない。僕らは建具枠をこれまでの経験上、見付けを30mmまたは25mm、チリ7.5mmとして巾木のチリ6mmとしている。建具枠のチリが大きいと野暮ったくなるのでギリギリまで抑えたいが、巾木があるので1.5mmの差で枠をスッと縦に通したいからだ。建具枠の見付けについては、空間が大きい場合や壁仕上げ次第で華奢に見えすぎないように30mmにしたりする。見付け寸法は、全体との呼応関係でもっと大きくする場合もあるが、チリを小さく納めていればゴツくはならない。こういった繊細なディテールは、素材が木であるからこそ可能なものだ。また、樹種によっても印象が大きく変わる。壁の仕上げとの関わりで、シナベニヤとスプルス、白壁ならスプルスかピーラー、RC打ち放し仕上げなら木目の強いタモか赤みのあるピーラーなどを組み合わせる。ただし、ピーラー材はヤニが出てくる厄介者なので、後のフォローも考慮しておかなければならない。

棚畑ハウス(撮影:鳥村鋼一)

また、現場が始まると、改めて全体と細部の関係性に気づくことも多い。そこで木材は、柔らかい材料ゆえに、その場で切ったり貼ったりできるため自由度が圧倒的に高い。コンクリートも打設するまでは、木製型枠なので自由度があるが一度打設してしまうともう動かせない。さらに鉄骨は、施工図チェックが最後の決断となる。そのような意味で、木材のもつ自由度と繊細さはとても魅力的だ。木材のもつ柔らかさとは、単に材質がそうであるだけでなくプロセスの柔軟さも生み出す。木材は、建築に対する設計者としての向き合い方を変える面白い素材だ。


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