new shit!

水の入ったビニールを切断し、その場でまた溶接し、小分けのビニールを作るマシーンをinstagramの広告でみた。ぼくは、すぐに買った。
1ヶ月ほど前から、天井から未知の液体が枕に降り注ぐので、目の真上にビニール袋をさげて、ぼくの顔にかかるのを防ぐ。1個上の階の人は、動く歩道を開発した奥村さんというおじさんで、22:45から24:33まで毎日決まって部屋中を歩き続ける変わった人だ。初めて家をくる人に何度説明しても、怖がり続けるが、ぼくは意外と心地よかった。奥村さんの歩くBPMが、ぼくの鼓動とぴったり合うからだろうか。
そして、ぼくが寝る時、頭上では、奥村さんの部屋から漏れる謎の液体がビニール袋に溜まっている。
ぼくはこの新しいマシーンで、唯一の親友のまさるにこの液体をお裾分けしようと思った。

新品のマシーンは、小児科の待合室のソファの香りを帯び、工場で付着した甲虫の唾液でやけにざらついていた。手のひら大のマシーンを手に取ったとき、ぼくは神になった。全裸になった。
頭上にあり、ぼくの夢を写していた液体の溜まりすぎたビニールに、マシーンを噛ませる。そして、「1582年本能寺の変」とマーカーでなぞったのと同じ容量で、マシーンを表面に滑らすと、熱でやけたビニールの匂いと共に、謎の液体で満たされた小さいパックが出来上がった。
隣り合っていちゃついてた水の粒の間に、僕らじゃ叶わないほどの熱さが生じて、その熱さで、ふたりは永遠に離れ離れだ。ぼくの夢を写してた液体は、これからまさるの夢を写すパックになるだろう。
このマシーンは、太陽の光とおんなじでぼくらが溺れるしかないほどの大きな力、熱をもって、僕らに別れを告げる、人間の自信を喪失させ、街ゆく人を減らし、街を未来の赤ちゃんのために綺麗にしようという組織の陰謀でできたのではないかと思うほど、自分の非力さを実感する。

駅から商店街を少し歩いた先の喫茶店でまさると待ち合わせた。時間に少々遅れて到着すると、すでにまさるは窓際の席に座って、くだらない小説を読んでいる。まさるは今日も全身黒で、デロデロのフーディーとピチピチの革のパンツ、ワーキングブーツで固めている。何かでっかい武器みたいで一緒に歩くと心強いから今も親友だ。
「おばさんは世界で一番怖い目をしているのに、おばあさんは世界で一番優しい目をしているのはなぜだと思う？おれはこの答えがわからないが、これさえわかれば、人類は核を持たなくなると思うんだ。」
窓の外を通るあかのゴルフカブリオレが動き始めると同時にまさるは言った。砂糖を8個入れたコーヒーを飲んでいる。甘さこそ光なんだ。
走り去ったはずのゴルフがミニカーになってテーブルの端でメニューを押さえていることに神経を奪われて一度忘れかけたが、しっかりと謎の液体パックをまさるに渡す。
{これはDHHTC-6Vだ。｝
まさるは心の中の夕方の場所で喋ってる。
｛あいつは気づいてないかもだが、おそらくこれはDHHTC-6Vで、上の階の住民があいつを洗脳するために垂らしているんだ。最近プッシャー業界で少し話題になっていて聞いたことがある。｝{DHHTC-6Vは、人の夢を内側からではなく外側から歪曲させる。頭蓋骨と脳みその隙間数ミリの空洞を、ひたすら散歩のリズムで揺れ続け、どんどん脳の形を変質させ、奇怪で小さな脳と、大きな空洞を頭蓋骨の中に生む。｝
「それはクラブで踊ってる時のような、リズムの反復と、心地いい空洞とは違うんだ。ほんとにまっしろの四角い部屋。ひたすらの空洞を小さい脳で機械として生きるようになる。その空洞の周波数によって人を洗脳できる。」
うっかりまさるは心の夕方から、あいつとの喫茶店に声を弾かれてしまった。
ほこりのリビングになってる店の端のスピーカーから音楽。箱の中で跳ねかえり続けるウッドベースの音がこの部屋の狭さを教え、苦しみに射精するのをハイハットに厳しく止められた。テナーサックスが青空をトランペットが太陽を描いた挙句お台場にあったショッピングモールの天井みたいなのができて、ピアノがぼくの脳を両手で弄る。液体を中心に二人は、この射精寸前で萎えさせ音楽に脳をやられていた。この曲はハンクモブレーの「no room for squares」だと赤のゴルフのミニカーがぼくらに笑いかけた。
「どうしたまさる。何を言ってる?空洞?洗脳？」
ぼくはまさるがなにをいっているかが理解できなかった。まさるはいつも白目を剥き、両肩を震わせながら、口をぱくぱくさせ何かを唱えている(でっかい武器がパワーをチャージしているようでぼくが特段に好きな仕草だ)が、今日は急にこっちに戻って喋りかけてきた。液体に喜んでいるのか。
空洞。そうか、あの空洞駅のことを言っているのか。世界中に広がる放射状に伸びる線路の中心の駅が空洞駅だ。ぼくらはずっと移動させられ続けてその景色に茂るハンバーガーを食べている。心地がいいのだ。そして空洞駅ですべてのぼくと衝突してまたどこかに弾かれる。それにまさるも気づいたのかなぁ。おはよう。
まさるはいま夢の中。ぼくも夢の中。マシーンの太陽的光線の熱で引き裂かれた液体の粒の恋人たちが互いを夢見ている。まさるとぼくのあいだに液体の粒の恋人たちの実存の動く歩道がかかり、ぼくらは夢を共にし、ハンバーガーとハートを食べたり。