htm 光
午後3時にあった、近所のたつおじさんの機械仕掛けの咳払いに嫌気がさして、走ってこの部屋に辿り着いてからもう何時間が経ったのだろう。東京の街を歩いた人間が、高周波の耳鳴りで眠っている間にさびしさをパック詰めして、動物に変わっていった。星の数と全く同じ数のパックは今日の夜、みなとみらいの端っこに全てが集まった。
窓の外の黒い鳥の鳴き声がみなとみらいに降り注ぎ、パックの山を突き破り、さびしさが海に流れて、火星人が望遠鏡で太平洋が紫色に染まるのを朝刊の見出しにしている時、ぼくはうんこをした。
トイレの壁に貼っていた彼女の写真は、このマンションの15Fのバスルームに閉じ込められたまま、みなとみらいには飛んで行ってない。換気扇をしていないから、野獣の匂いがするトイレに悶えていたら、肛門の裏側から便器に吸い込まれた。
「肛門のすぐそこには、うんこになれなかったキラキラの星粒みたいなのが眠ってるんだよ。」
そう言ったのはツヨシだったかな。ぼくは肛門には光が当たらないからキラキラできないじゃないかと、とんでもなく怒ってしまって、あれ以降あってない。すべてのかわいいものとかキラキラしてるものは、その物じゃなくて、太陽が可愛くてキラキラしてるだけだと言い張ってしまった。その定食屋でNECの本社ビルを映すテレビに、爪楊枝を投げた。
ここは、鉄の雨が降り、潜れば全質量が詰まった液体に、圧迫されて死んでしまいそうな、鉄の海。僕の体を通って、うんこになったハンバーガーの油でできている。太陽はなくて、肛門の光が代わりに海に降り注ぎ、ただ一つだけ生命が生まれた。
ぼくはそいつをビルと名付け、餌のサラリーマンの脳みそを通勤ラッシュで用意するようになった。休日の早朝の武蔵小杉。ゴルフバッグを重たそうに抱える女。