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『マルチプル・マニアックス』を朝から観たら休日一日つぶれた。

 『マルチプル・マニアックス』を朝から観たら休日一日つぶれた。
 昨日はハロウィン。『悪魔のいけにえ』をポップコーンを食べながら楽しく観て、ラストシーンの爽快感を残したまま寝床についた。夢を見た。夢の中心には入ってこれず、夢の周縁で空をチェーンソーで切り続けるレザーフェイスはかわいらしい。常に夢を見ながらその周縁においてレザーフェイスを捉え続ける、そういう睡眠で最高だった。
 朝起きて日差しを浴びた。気持ちよかった。周縁のレザーフェースは家に帰っていた。ここまでは最高の休日の始まりだった。
 朝食はバターを塗ったトースト、シリアル、コーヒー。そして僕はこれらのお供に『マルチプル・マニアックス』を選んでしまった。なんで選んでしまったのだろうか。この世の中で、朝起きて夜寝る生活を繰り返している人類のうちで、どこに朝からこの映画を観ようと思う人がいるのであろうか。内容を知らなかったわけではない。もちろんこの映画が最低なことはわかっていた。だが朝にみてしまった。観てしまったのだ。過去は変えられない。今を生きているとはわかっていても、過去、今日の朝のディヴァインの走る姿が、現在を生きる自分の横で並走しているように感じられるほどに、過去であるとともに現在となってしまった。観てしまった理由ははっきりと覚えている。BLACKHOLEのジョンウォーターズ特集でジョンウォーターズに興味を持ち、『セシルB』を見て最高な気分になり、いつか体調の良い時に『マルチプル・マニアックス』を観ようと決めていたのだ。そして昨日ハロウィンで体調の良かった僕はついに『マルチプル・マニアックス』を観ようとしたがその直後、ハロウィンっぽいホラーにしようと思い『悪魔のいけにえ』を観た。この選択は間違っていなかった。周縁にレザーフェースを据えた心地よい夢を観れたのだから。
 そして朝起きて、休日だから朝から映画見ちゃおうというときに、昨日観るのをやめた『マルチプル・マニアックス』を観てしまったのである。
 冒頭、地上最低の見世物。性器をカメラで撮る。コーヒーをすする。男二人のディープキス。トーストをかじる。ヘロイン中毒の男。シリアルを食べる。ゲロを食べる。シリアルを食べる。ゲロを食べる。ゲロを食べる。ゲロを食べる。
 こんな最低な調子がずっと続いた。ロザリオプレイ。カニバリズム。ロブスター。怪獣となったディヴァイン。何をしてもこの映画が頭にちらつく。
 そんな一日だった。さっきも言った通り、常に現在と並行してラストシーンの街を走るディヴァインの姿がある。少し気を抜けば、ロブスターのシーンが思い出されて、ふと笑ってしまう。思い返してみれば楽しい一日だった。ディヴァインの謎の万能感、それが常に僕に纏わりついていてすごく気持ち悪い高揚感があった。あの体格と勢いですべての障害や矛盾を突き破る姿はすごく気持ちがいい。本当にあのラストシーンは楽しそうだ。そればかりに、ディヴァイン視点で最後民衆に囲まれるシーンはすごく悲しい。僕らの持つディヴァイン的な何かが、社会によって抑圧させられているようなもどかしさがある。
 映画はたびたび僕らに魔法をかけ、過剰なまでに興奮、高揚感、爽快感を与えるメディアであることを再確認させてくれた。この映画は僕の視界に大きな衝撃を与え、ディヴァイン的な何かを一つのレイヤーとして視界に加えさせた。過剰な最低さが引き起こす最高。何かを過剰にやったことでやっと表出する、極同士の接続、根源的な自己矛盾みたいなものにどうしても惹かれてしまう。この映画には過剰な最低さがあって、過剰な最高さがある。この映画に休日をつぶされたのは何も悪いことではなく、いい休日だったと言えるだろう。
「今やあなたは怪物よ、そして怪物だけがこの充足感を味わえるの」


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