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エッセー「隣の会話」

歯医者の定期検診が終わり支払いを済ませて時計を見ると11:30だった。歯科衛生士の女性が「歯周病予防の乳酸菌を塗ってるから、30分間、飲食はしないで下さい」と言ったので、歩いて帰れば丁度30分くらいで天神に着く。それから何処かでランチを食べようかなぁ。空を見上げると、梅雨明けはまだなのに、今日はなんだか太陽がジリジリとたまらない暑さだ。私はサングラスと日傘の完全武装で歩き始めた。10分ほど歩いたところで、地下鉄に乗ればよかったと後悔し始めた。汗が生え際から額をつたい、目の中に入った。汗の塩分で目がしみた。でも、この感触、悪くはない。私は最近汗をかいてなかった。汗を拭きながら歩き進める途中に、面白いお店を見つけた。通りに面したガラスの扉が少し曇ってるので、顔を近づけて中を覗いたら、年代を感じる珈琲カップ、お皿、人形、アクセサリー、家具類などが、置く場所が無いのか、それとも在庫が多すぎてディスプレイを諦めたのか、山積み状態に雑然と置かれている。商売っ気が無いディスプレイ、と言うか、もう倉庫状態。思わず、「何?この店」と私は呟いていた。
中に女性がいる。いかにもこのお店に相応しい、ヒッピーぽい雰囲気。髪は一つに縛って、耳にはアンティークっぽいイヤリング、Tシャツに花柄のロングスカート。足元はエスパドリーユ風なサンダルを履いてる。それほど若くはない女性が、外の私に気がついたのか、中から出てきた。こんにちは♪と挨拶されたので、私も「こんにちは、ここはアンティークなものを扱っているお店ですか?」と尋ねた。女性は笑いながら「一応ね、ただ、見ての通りだから、ここで買って行く人はほとんど居ないのよ。今はほとんど、フリマや骨董市の催事に出店してるのよ。表に出てる商品は一部で、これの倍以上在庫があるのよね」「そうですか、私たまたま通りかかって、面白いお店だなぁと見入ってました」「珈琲カップとか買って行く人はたま〜にいるのよ」そう言うと、店先に並んでたリモージュっぽい優しい色合いの珈琲カップ&ソーサーを指差して「これは、そんなに古い物ではないけど、フランスのリモージュらしい色味だから、結構好きな人多いのよね」と言い「何か欲しいのがあれば声かけてね〜」と言うと、女性は中に入って行った。お店同様個性的で素敵な人!改めてゆっくり見たいなと思わせるような訳の分からなさが漂っている。時間作って又来よう!
私は歩き始めた。途中、珈琲豆を販売してるお店や陶器屋さんや洋服屋さんを横目で見ながら、歩き続けた。時計を見ると、30分過ぎていた。あゝ良かった、水飲める。サブバックからペットボトルの水を出し、一口飲んだ。生き返ったー!
左前方にモスバーガーの文字を見つけた。朝ご飯を食べてなかったから、お腹空いてもう限界だ。よし入ろう!
新とびきりチーズバーガーとドリンクのセットを注文した。「出来たら席までお持ちします」と言われた。それほど広くない店内だが、丁度奥の2人席テーブルが空いていた。程なく若いアルバイト風な男子が「お待たせしました。新とびきりチーズセットで、ドリンクはアイスティーですね」とテーブルに置いてくれた。私はもうお腹ペコペコだからアイスティーをググっと飲んで口の中を潤したら、バーガーにかぶりついた。ハンバーガーを久しぶりに食べたけど、こんなに美味しかったっけ?と嬉しくなった。半分食べたところで、やっと落ち着いた。スマホを取り出し画面をチェックしていたら、横の4人席に若い男性達の気配を感じた。私は背中合わせに反対向きに座っているので、顔は合わせていない。ただ、聞くつもりは無いのに、男子達の会話が自然と耳に入って来る。
「お小遣い制って何よ、俺イヤ〜、結婚したく無いわ」「俺も、そもそも自分で稼いだお金なのに、何で小遣いを貰うになる訳」「ホントやん、俺結婚とかせんでいい」「○○先輩、小遣い15000円らしい」「やばっ」
ふむふむ、大学生?
ごめんねー、聞くつもりは無いんだけど、ちょこちょこ聞こえてるのよ。私は半分残っているバーガーを食べながら、お小遣い制か〜、何か昭和っぽいなぁ、と思った。振り返れば我が家もお小遣い制だったよなぁ。私は子どもが小学生くらいまでは専業主婦だった。男が稼いで、女は家計を任されていた。だから、お小遣いという発想になったのかなぁ。家事も子育ても女がするのが当たり前の時代だったから。しかし、よくよく考えてみたら、小学生じゃあるまいし夫が妻から小遣い貰う?そりゃイヤだよね、と妙に納得していた。当時は今みたいに選択肢が沢山なかった。しかも夫の転勤があれば、当然一緒に行くのが当たり前だったので、妻は転勤先の新しい環境で一から関係を築いていかなければならないし、自分が仕事していても辞めるしかなかった。でも、今は多様化の時代だから、夫と妻が話し合って決めたらいいと思う。話し合って、もの事を決めていくという、ごくごく当たり前な事が、私には出来ていなかった。世間一般がそうだから、と、常識に流されていた。頭の中では、(なんか違う)と思いながらも、自分に正直に生きて来なかった。
私は最近の若者夫婦のお財布事情は知らないけど、夫と妻が、男と女が、1人の人間として、対等なんだよ、と、本当に心底思ってる人が増えれば、そもそもお小遣い制などと言う発想にはならないのかなぁと思った。家庭の事情は千差万別なので、ひとくくりに、これが正しいやり方などあるはずもない。親達の常識に惑わされてはいけない。自分の頭で考え、それぞれの家庭が幸せだと思える方法を見つけていったらいいと思う。私はずっと、モヤモヤした感情を持ちながら、過ごして来た。だからこそ、未来の世の中変えていけるのは"あなたたち"だよ、と若い人達に心からエールを送りたい!期待しているからねー、と心で呟き、店を後にした。
若者が沢山集まってるカフェとか、最近気後れして、遠慮してしまっていた。でも、若者達の生の声を聞く事が出来て、めちゃくちゃ楽しいひと時だった。
さて、次回は何処へ行こうかな!

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