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0122「冬」



キャッチボールがしたい、と恋人に話すと
買ったよ、とこちらを見ずにひとこと。
なにを?という顔で、首をかしげて眼を見ると
わたしの目の前にスマートフォンをかざして、
メル
カリとさらにひとこと。
それが先週の話で、届いたグローブ
には油性ペンで「たくと」
「たくと」はかび臭い。古き良きクソみたいな
におい。
お互いの鼻に「たくと」をあてがって、クソみたいにげらげら笑い合った。
わたしのグローブには「しょうま」これも油性ペンこれもメルカリ。
「しょうま」がわたしの家に届いたのは、いつだったっけかな、そう、
まだわたしが京都にいて、
国だか行政だか、
古き良きクソみたいな場所から送られてきた朱色の封筒を、

けられずに、ネタとして職場に持っていったころだったはず。
督促やろこれはまだ大丈夫やわ。
焼却炉みたいにデカイ図体 コックさんに
眼差しで殴り殺されてひとこと、
でも封筒を開
いたら差し押さえで、
これはたぶんあかんわ、思いのほかやさしくて、それはコックさんの話。
そのころのわたしにはキャッチボールをしたい別の人がいて
その人もメルカリだったから「  」とどこかしら、書
かれていたはずなのだけど、
その話はしたのだっけなしたのだろうな。
油性ペンなら消えない。趨勢ならどうかな。
話の尾ひれもパッチパチに輝いて
くっついて消えるだろうなボールはグローブに吸い込まれていくから
その現象を真
実にするために眼で追っていく。夜だった。
そのころからの「しょうま」だったから、かび?って顔して、においだってしない。
土曜日
天気がよかったらしようよ。
言われて、天気予報を見るのが仕方のない
降水確率が絶望的で。もうこれはあれやろ。
恋人はわたしの目の前にスマートフォンをかざして、
ぼくのは雪だよ。
ほんとうだ。
それがおとといの話。
やわい風で容易になびく雪

前景に
後景
に、
吸い込まれていく。
その現象を真実にするために眼で追っていく。

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