「型月吸血鬼論 feat.妖怪学」の執筆に向けて
いつもお疲れさまです。
型伝研さんの『Binder.』第2号が、おかげさまで多くの方々に届けられているようです。イチ寄稿者として、大変嬉しく思います。
続く第3号でも寄稿させていただきたいと思い、どんな論稿にしようかとアレコレ考えていました。そこで、私は思いつきました。
吸血鬼や。型月作品で吸血鬼論をやるんや!
TYPE-MOON(型月)を語る上で、吸血鬼は大事な要素の一つでしょう。『月姫』のメインヒロインたるアルクェイド=ブリュンスタッドは吸血鬼の長たる真祖という存在ですし、真祖に噛まれて吸血鬼と化した死徒は『月姫』だけでなく「Fateシリーズ」にも登場します。メタ的な視点だと、奈須きのこは菊地秀行や笠井潔といった作家たちの伝奇小説にモロ影響を受けています。菊地秀行といえば『吸血鬼ハンターD』、笠井潔といえば『ヴァンパイヤー戦争』が挙げられます。奈須が吸血鬼モノに多大な影響を受けていることは確かでしょう。
故に、型月評論をする上で吸血鬼という観点はとても調べ甲斐があると考えたのです。
とはいえ、現実にある吸血鬼伝承の歴史と照らし合わせたり、既存の吸血鬼モノの物語作品と比較したり、というだけでは物足りない。せっかく評論をするのであれば、学問的なエッセンスも取り入れたい。そんな欲張った気持ちを持った私は、とある学問分野に目をつけました。
それが妖怪学なのです。
古くは井上円了や柳田國男が研究を始めたのが妖怪学です。「鬼太郎」や「妖怪ウォッチ」などで日本国民の認知度が高まっている妖怪ですが、その歴史はとても長く、『古事記』や『日本書紀』において鬼や大蛇といった妖怪の存在が記載されていたといいます。
日本では、吸血鬼に該当する妖怪は語られていないそうですが、鬼という観点から吸血鬼と結びつけることができるのではないかと考えました。
現代の妖怪学研究者である小松和彦氏の言葉を借りるならば、『「鬼」とは、日本人が抱く「人間」の否定形、つまり反社会的・反道徳的「人間」として造形された概念・イメージ』を指します。
(小松和彦『妖怪文化入門』KADOKAWA、2012より引用)
人間の「反社会的・反道徳的」なイメージ=闇の部分を体現した存在という認識は、鬼だけでなく吸血鬼にも当てはめられるのではないでしょうか。
ここに、「型月吸血鬼論 feat.妖怪学」の立ち上げを宣言します。
(ネーミングセンスについては大目に見てください……)
現在、絶賛調査中で、まだまだ調べないといけないことは多いのですが、なんとか形にして公の場で公開できればと思っています。
【型月吸血鬼論の主なポイント】
①吸血鬼のイメージの変遷について
元々、東欧に伝わっていた吸血鬼というのは、墓場から蘇って人々を襲うという「生ける死体」=ゾンビみたいなイメージだったといいます。
そこから『吸血鬼ドラキュラ』などの文学ないし映画作品によって「貴族、紳士」というビジュアルイメージが定着していったと考えられるとのこと。
井上嘉孝氏によれば、現代において吸血鬼は「恐れられるよりも共感されるもの」として認知されているそうで、退治すべき存在から愛される存在へと変化しているというのです。
『月姫』のアルクェイドをみれば、彼女がどちらの存在として受け入れられているかは一目瞭然でしょう。
②「境界の破壊者」としての吸血鬼
河内恵子氏の『吸血鬼ドラキュラ』論にて、「二項対立の世界を崩し、相反する価値観の間のboundaries(境界)を乱した」存在がドラキュラなのだと語られています。故に、吸血鬼とは「境界の破壊者」なのだというのです。
二項対立を崩して「境界」を無くす、という概念は『空の境界』にも通ずるものではないでしょうか。そこから奈須の美学へと発展させて考えられそうです。
③『月姫R』の精読
型月作品の吸血鬼を語る上で、やはり『月姫』は外せないでしょう。そこで、ゲーム本編と先人たちの妖怪/吸血鬼研究を照らし合わせようと考えています。
なお、より多くの人が触れやすい媒体である点と直近の奈須の創作観が反映されている点を考慮して、リメイク版『月姫』を精読します。
リメイク版では、ヴローヴとノエルという新キャラが登場していますが、この二人は分析しがいがありそうです。もちろん、アルクェイドやロアについても分析します。
上記の内容に加えて、妖怪学的な視点も盛り込み、さらには型月作品とは別のクリエイターによる吸血鬼モノとの比較もできればと考えていますが、果たして〆切までに間に合うのか……。
西尾維新の〈物語〉シリーズは多分に吸血鬼の要素を含んだ作品ですし、かつて講談社の『ファウスト』で奈須と共に紙面を飾っていたことを踏まえれば、比較対象としてうってつけではないかと思うのですが、そこまでいくといよいよ収集がつかなくなりそうですね……。
型月吸血鬼論は、まだまだ妄想の域を超えていない状態。ここから調査を重ねていって、一本の論稿としてまとめあげたいです。