半導体おじさんの独り言 ~第4話:本当にあったすごい話、Longhornプロジェクト~
Morgenrotで最年長のYです。私は、ほんの偶然でAMDという米国の半導体会社に入社して以来、気が付いたらかれこれ40年も半導体市場に関わることになってしまいました。今回は私がAMDで実際に体験した半導体開発のすごい話をご紹介します。
半導体チップというのは小指の爪ほどの小さいシリコン片に信じられないほどの数のトランジスター素子を組み合わせて論理回路を形成する構造になっています。現在の最新のAIチップには何と数十億個のトランジスタが組み込まれています。
時はさかのぼること1990年の初めころ、当時私が勤務していたAMD社は、パソコンのCPUで有名なIntelから設計ライセンスを受けていました。現在ではこの2社は仇敵の間柄ですが、その当時は競合他社に対抗するべく同じアーキテクチャーを共有するパートナーとして協業していたのです。ところが、Intelは自社がパソコンCPU市場で万全なポジションを築いてしまうや否や、AMDを競合とみなすようになり一方的に設計ライセンスを打ち切りました。AMDは契約違反だとIntelを訴えましたが、市場はIntelの32ビットの次世代製品80386にどんどん移って行きました。こういう話はこの業界では「よくある話」ですが、AMDとしては商売を継続するにはIntelからの設計情報なしに互換品を設計しなければならなくなったわけです。
そこでAMDは合法的な「リバースエンジニアリング」の手法を採用しました。「リバースエンジニアリング」とは公開されているもの以外の一切の技術情報を使用せずに、同等の動作をするものを造る事です。AMDが使える情報は公開された製品のスペックシートと使用マニュアル、それに加え80386というCPU製品そのものです。そこでAMDは一般市場で売られていた80386を買ってきて、その構造を解析するという前代未聞の「Longhornプロジェクト」を極秘に立ち上げました。CPUは半導体チップとしては最も複雑な構造を持っていて、トランジスターの組み合わせで構成される回路図がシリコンチップの何層にもわたって造り込まれています。AMDのエンジニアは何千枚にもなるチップ拡大写真を目視で丹念に解析しながら、論理回路を読み取ったのです。
この時期ちょうどAMDのテキサス開発センターを訪れていた私は、体育館ほどの床一面に敷き詰められたチップ拡大写真(勿論アナログ写真です)をAMDのエンジニアが黙々とチェックしている姿を見ました。その光景はあまりにも異様だったので今でもはっきり憶えています。実は昔の資料を整理していて、古いAMD社史の中にその模様を収めた写真を発見したのでご紹介します。
プロジェクトは成功し、完全互換品Am386として売り出されました。その後AMDは快進撃を続け、現在では大企業になっています。当時のAm386のトランジスタ数は30万個くらいで、人力による開発が何とか可能でしたが、何十億個のトランジスタを集積する現在のチップは最新のCAD/CAEソフトとAIの力を借りずには設計できません。
さて、モルゲンロットの技術は、この何十億ものトランジスタが集積されたAIチップで構成されたデータセンターの効率的な運用管理で、消費電力と運用コストを下げるきらりと光る技術を市場に広めようと個性豊かな営業、マーケティング、技術開発の人たちがわちゃわちゃと毎日やっています。そんなチームに興味がある方はぜひ我々のサイトを覗いてみてください。
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