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マニ教の神話

「神話と秘儀」に書いた文章を少し編集して転載します。


マニとマニ教


バビロニア生まれの預言者マニが興したマニ教は、ミスラ教をベースに、仏教やキリスト教を取り入れた宗教で、グノーシス的傾向を持ち、ヘレニズム・ローマ期の東西交流の最後の総合を示しています。

その神話は「原人間の殺害」をはじめ様々な要素を結びつけられていて、強烈なインパクトを持つものに仕上げられています。


3世紀にバビロニアでキリスト教系グノーシス主義の信者の家に生まれたマニは、ゾロアスター、仏陀、イエスに続く3番目で最後の預言者を名乗って、普遍的宗教の確立を目指しました。

マニ教はゾロアスター教によって迫害されましたが、中央アジアを中心に広がり、ウイグルでは国教となりました。

そして、西方ではカトリックと競合する勢力となり、東方では中国でも受け入れられて「明教」と呼ばれました。

マニ教の主神は実質的にミトラ神であり、広義のミトラ教の一つですが、同時に、グノーシス主義の一つでもあります。

マニ教の神話は次のような物語です。


神話


原初の時、光であり善である「偉大な父(ズルワン)」の世界と、闇であり悪であり物質である「闇の王(アフリマン)」の世界が接して存在しました。

ある時、闇が内紛のすえに境界まで来て光の世界を知ると、光を手に入れたいと思ったので、闇は団結して光の世界に攻撃をしかけました。

それで、「偉大なる父」は「闇の王」を撃退するために「生命の母」を生み出し、「生命の母」が第1の使者である「原人間(アフラマズダ)」を生みました。

「原人間」はその「5人の息子(あるいは乙女)」を鎧として境界線で「闇」と戦いました。

そして、まるで毒を盛るようにして、自分達を食べ物として「闇の王」とその5人の息子に与えることにしました。

こうして、闇は攻撃をやめましたが、光が闇に食べられたことで、光と闇の混在が生まれました。

次に、「偉大な父」は第2の使者として、まず「光の友」を、次に「偉大なる建設者(喜悦)」を、次に「生ける霊(ミトラ)」を、次のその「5人の息子」を生み出しました。

「生ける霊」は「原人間」を闇の世界から光の世界に引き上げまさせました。

ですが、まだ1/3の光のかけらが闇の中に残っていたので、これを救出するために、「生ける霊」は「5人の息子」である天使達に闇の悪魔の体から天地を創造させました。

闇に最も損なわれていない部分からは、太陽と月という光を乗せて運ぶ2隻の「渡し船」と恒星天を作りました。

そして、「偉大な父」は、「第3の使者(ミトラ)」を生み出し、「第3の使者」は12宮の霊である「12の処女」を生み、次に、光を闇から分離して上方の光の世界に運ぶために、宇宙を機械状に組織して回転させました。

太陽は光を放って回転しながら物質から光を抽出します。まず、月が光を1ヶ月集めて太陽に運び、次に太陽は恒星天に運びます。

恒星天も回転して、光を神の世界に運んで解放します。

さらに、悪魔に飲み込まれた光を解放するために「第3の使者」は美しい乙女と青年の姿で悪魔の前に現われました。

悪魔は欲情して光を精子などの形で放出しました。

こうして光を船に乗せて救出しましたが、闇が多く含まれていた部分は地に落ちて植物になりました。

そして、すでに身ごもっていた女悪魔は胎児を生んでこれが動物になって、動物が植物を食べました。

ですが、悪魔達は光を渡さないための最良の策を考えました。

まず、男女の悪魔はこの動物を食べて、2人で交わりました。そして、その子を闇の王が食べることで、アダムとイヴを生みました。

人間の姿は神の姿を真似て作って、人間の中にありったけの光を注ぎました。

人間は人間の姿に魅かれて子供を生み続けることで、光は地上に捕まったままになるのです。

ですが、5人の天使達が光の救出を懇願したので、「生ける霊」達は人間を導くために「輝くイエス(神の子)」を送りました。

イエスはアダムに知恵の樹の実を食べさせました。

人間はイエスよって覚醒され、「知性の化身(ヌース)」が光の霊魂を救いにきます。

そして、彼らは自分自身の本性を認識して救われます。

終末には「光の狩人(ミトラ)」あるいは「大いなる思考」と呼ばれる使者が現われて、世界は火による浄化の末、残っていた光は集められて天に昇ります。

一方、物質と悪魔達は球体の中に閉じ込められて、捨てられます。

マニ教によれば、人間の霊魂は悪神を撃退するために犠牲になった原人間と天使の体の一部である光のかけらです。

そして、肉体を持つ人間は、光を奪われずにおこうとした悪魔のおぞましい行為の結果生まれたのです。

ですが、神はすべての光を救い出そうとします。

マニ教の物語は、霊魂の神性とその死をはっきりと示しています。

マニ教では、星の世界は善神が作ったものですが、惑星と地上世界、人間は悪神に由来すると考える点で、グノーシス的傾向があります。



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