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偽ディオニシオスと天使の位階
「神秘主義思想史」に書いた文書を転載します。
教父哲学を締めくくる重要な人物であるディオニシオス・アレオパギテス(偽ディオニシオス)は、プロクロスの影響を受けながら新プラトン主義をキリスト教化して、また、独自の天使論を生み出したことで後世に影響を与えました。
彼は5-6Cのシリアの教父だと推測されていますが、高名なパウロの弟子であるディオニシオス・アレオパギテスを名乗って著作して、中世を通じてこれが信じられたので、彼の著作はとても重視されました。
そして、逆に新プラトン主義の方が彼の影響を受けたのだと考えられました。
偽ディオニシオスが初めて階層という意味の「ヒエラルキア」という言葉を使いました。
彼は世界は順次上位の存在から下位の存在が生み出されたのではなくて、すべては直接神によって創造されたと考えました。
ですが、すべての存在はその階層の能力に応じて神の似像となり、神を目指すのです。
また、その階層の能力に応じて他者を照らし(神を伝えて神に導き)ます。
そして、階層のすべては神の象徴であって、象徴を超えた表現できない神へと導きます。
また、偽ディオニシオスは中期プラトン主義のアルビノスの「否定の道/上昇の道/類比の道」をキリスト教化して、「否定神学/肯定神学/象徴神学」を位置付けました。
興味深いのは、肯定神学で神を表現する場合、プラトン主義同様、「善」、「存在」、「生命」、「知性」などがまず考えられるのですが、それぞれが3段階で考えられている点です。
つまり、例えば「先存在(存在以前の存在)/存在そのもの/存在するもの」という3段階があるのです。
偽ディオニシオスは「3」を聖数として、3分割を3重に考えて位階を考えました。
彼にとってこの「3」は「完成/照明/浄化」という性質を持っています。
3分割の最上部は「完成」、中央は「照明」、最下部は「浄化」という性格を持つのです。
これはプロティノスの「合一/観照/浄化」をキリスト教化したものです。
まず、被造物を新プラトン主義の「霊的直観/魂/感覚界」の3位階に対応して「天使/人間/事物」に分け、それぞれを「天使の位階/教会の位階/律法の位階」として考えました。
そして、それぞれの位階はさらに3×3の9段階に分けられます。
新約聖書には天使に関してはほとんど記述されていません。
キリスト教では4世紀に天使の崇拝が偶像崇拝として禁止されましたが、8世紀に東ローマ世界世界では大天使の崇拝だけが許されました。
偽ディオニシオスが「天上位階論」で天使論を体系化したのはちょうどその間の6世紀頃です。
彼が天使の階層を体系化したのは、異教のダイモン信仰に対抗するためでしょう。
偽ディオニシオス以前にすでに9種類の天使が数えられていました。
また、ルシファーの堕落(多分、アフリマンの堕天やシリアの明けの明星の神の堕落の神話がオリジナル)、堕天使と良い天使の2分、天使の知的性質などが論じられるようになっていました。
偽ディオニシオスは天使を肉体を持たない知的存在だと考えました。
天使は新プラトン主義のヌースが「有/生命/知性」に3分割されることに対応して、「存在/力(軍)/知性」の3つ階層(側面)に分けられます。
そして、おそらく新プラトン主義でそれぞれの階層が、「限定/非限定/混合」に3分割されることに対応して、さらに3分割されます。
偽ディオニシオスの天使の位階は上から順に以下の通りです。
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これらのうち座天使、主天使、力天使、能天使、権天使はパウロに、熾天使、智天使、大天使、天使は旧約聖書に由来します。
熾天使は「火を発する者」、智天使は「知恵を発する者」、座天使は「玉座」という意味を持ちます。
通常、熾天使は1(4)頭6翼で、智天使は4頭6(4)翼、座天使は多くの目を持った車輪の姿をしています。
メタトロン、サンダルフォンは熾天使です。
下の3位階の天使は戦士の姿をしています。
ミカエル、ガブリエル、ラファエル、オウリエルらは通常、大天使と考えられます。