5. キューバでの展開(サンテリア、ルクミ)

2001年に書いた「アフリカン・アメリカンの宗教と音楽」の第5回目です。


キューバでも事情はブラジルと似ていた。

ヨルバ族を中心にした奴隷達によって、様々にアフリカ・ルーツの宗教がキリスト教と習合しながら展開され、神々はキリスト教の聖人に重ねられ、名前やリズムなどが一部変わった。

キューバではヨルバ族を「ルクミ」と呼ぶが、ヨルバ族に由来する宗教は一般に「サンテリア」もしくは「ルクミ」と呼ばれる。

他にもサンテリアの前身的存在の「エスピリートス」、フォン族に由来する「アララ」、ナイジェリア東部のイボ族やカメルーンに由来する「アバクア」などがある。

現在、キューバではサンテリアの信者は増えつつあり、観光ツアーに組み込まれるまでになっている。サンテリアに入信すると、人々は白い衣装に神々を示すネックレスをつける。

サンテリアでは、ヨルバの雷神シャンゴは「チャンゴ」に、湿った大地の女神イエモジャはブラジルでと同じく海の女神となって「イェマヤ」に、エシュは「エレグア」に、川女神オシュンは「オチュン」に、神託神イファ(オルンミラ)は「オルラ」、川の女神オヤは死の門の神・墓場の番人・嵐雨の女神になった。

サンテリアの音楽の演奏は、やはり大中小3つのバタ・ドラムを基本としている。


サンテリアの音楽が聴けるCDを紹介しよう。

まず、『Afro-Cuba: A Musical Anthology』(ROUNDER CD)はサンテリアだけでなく、アララ、アバクア、そしてコンゴ系の音楽、さらにルンバ、ハイチ系の音楽までが聴ける。

国立グループのCONJUNTO FOLKLORICO NACIONAL DE CUBAによる『Musica Yoruba』(BEMBE RECORDS)、GRUPO AFRO CUBAによる『African Roots』(SHANACHIE)、キューバ・ナンバーワン・ルンバ・グループLOS MUNEQUITOS DE MATANZASによる『Secret Yoruba Music Of Cuba』(QBADISC)などはいずれも素晴らしいサンテリアの演奏を聴かせてくれる。

他にも、KIP HANRAHANのAMERICAN CLAVEからもパーカッショニストMILTON CARDONAによるサンテリア・ミュージック『Bembe』をリリースしている。

次にキューバ系のストリート・ミュージックにおける宗教的なアプローチをいくつか紹介しよう。

1940年代からキューバのミュージシャン達はジャズ・ミュージシャン達とコラボレイトしたりしてアメリカでも活動し、「キューバップ」と呼ばれるアフロ・キューバン・ジャズ、ラテン・ジャズを生み出してきた。

その後、アフロ・キューバン・ジャズはNYでプエルトリカン達が中心になって生み出した「サルサ」にも大きな影響を与えた。DIZZY GILLESPIEがキューバ人のボンゴ奏者のチャノ・ポソの音楽を指して初めてキューバップという言葉を用いたという。

パーカッショニストのSABU MARTINESは、BLUE NOTEに57年にレコーディングした伝説的なアルバム『Palo Congo』で、キューバの宗教音楽(サンテリア?)を取り入れるなど、ほとんどアフリカ音楽のようなプリミティヴなサウンドを展開した。

また、パーカッショニストのMONGO SANTAMARIAは、69年にサンテリアのオバタラの讃歌を演奏した“Obatala”をレコーディングした。

この曲は当時は発表されなかったが、後にアフロ・キューバン色の濃い未発表曲集アルバム『Afro American Latin』(SONY)に収録されている。

50年代にはCELIA CRUZ、MERCEDES VALDESといったポピュラーのヴォーカリストをフィーチャーしたサンテリアのアルバム『Santero』がリリースされた。

キューバ・ミュージック(サルサ)の女王CELIA CRUZは、60年代には聖人に重ねられた神々への讃歌をテーマにした2枚のアルバム『オメナヘ・ア・ロス・サントス』もリリースしている。

最初にも書いたように、NYサルサ/ラテン・ジャズの巨人EDDIE PALMIERIは、78年にEPICからリリースした初のメジャー・アルバム『Lucumi, Macumba, Voodoo』では、そのタイトルからも分かるようにキューバ、ブラジル、ハイチのアフリカン・ルーツの宗教的・文化伝統を統合して連体することを訴えているのだろう。

このアルバムのジャケットにでは、イェマヤ、エレグア、チャンゴなど8人のサンテリアを代表する神々を象徴する8つのネックレス(もちろん神々を象徴する色をしている)をかけた女性の写真が使われている。

このアイディアを現在、音楽で実践し、キューバン・ジャズをパン・アフリカニズムの方向に導いているのがOMAR SOSAだ。

彼は祖霊や神々の演奏時をも含めた導きを信じて活動している。

例えば、『Spirit Of The Roots』(OTA)ではエレグアやオヤ、チャンゴ、イェマヤなどの神々がタイトルに並んでいる。


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