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魔術タロットの歴史2:レヴィと継承者

「魔術タロットの歴史1:遊戯タロット、占術タロット」に続く投稿です。

この投稿では、タロットが魔術用に使われるようになる前史をまとめます。
タロットの魔術化の重要な動きは、フランスで起こりました。



ユダヤ教のカバラ


・3C頃
アレキサンドリアで、ユダヤ神秘主義の書「セフィール・イエツラー(形成の書)」が書かれる。
この書には、1から10までのセフィロート(数)、及び、22のヘブライ語アルファベットの象徴体系が「智恵の32の秘密の径」として説かれる。

セフィロートは、6方向と中央に4元素(霊、空気、水、火)で立体に配置される。

アルファベットは、3つの母字は3元素(空気、水、火)に対応する。
7つの重複文字は6方向と中心、7惑星、及び、抽象的概念(生命・平和・知恵・富・優雅・種子・王権)に対応する。
12の単純文字は、12宮、及び、人間の行動・能力(言葉・思考・運動・視覚・聴覚・動作・性交・臭覚・睡眠・怒り・味覚・笑い)に対応する。

アルファベットの対応は下記の通り。

  文字   対応
=================
1 アレフ :空気
2 ベト  : 生命・土星
3 ギメル :平和・木星
4 ダレット:知恵:火星
5 へー  :言葉・白羊宮
6 ヴァヴ :思考・金牛宮
7 ザイン :運動・双子宮
8 ヘット :視覚・巨蟹宮
9 テット :聴力・獅子宮
10 ヨッド :動作・処女宮
11 カフ  :富・太陽
12 ラメッド:性交・天秤宮
13 メム  :水
14 ヌン  :臭覚・天蠍宮
15 サメフ :睡眠・人馬宮
16 アイン :憤怒・磨羯宮
17 フェー : 優雅・金星
18 ツァディ:味覚・宝瓶宮
19 クフ  :笑い・双魚宮
20 レーシュ:種子・水星
21 シン  :火
22 タヴ  :王権・月

これらの理論は、後に、魔術タロット理論に取り入れられることになります。
ですが、この時点で、セフィロートにもアルファベットにも、単純な階層性、意味的な順番があったわけではありません。

・12-14C
12Cにフランスのプロヴァンスで、カバラ(ユダヤ神秘主義)の書「バーヒル(光明の書)」が書かれる。
この書はセフィロートを神の光の流れとして描き、逆さ向きに成長した「生命の樹」と表現する。
そして、14C頃までに、スペインで現在のような「生命の樹」の形で表現されるようになる。

・16C頃
スペインのカバリストの間で、「生命の樹」のセフィロートをつなぐ「小径」が22のアルファベットに対応させられるようになる。

*これまで、「セフィール・イエツラー」が説く「径(パス)」と、セフィロートをつなぐ「小径(パス・ウェイ)」は、本来は別のものでした。

「小径」のセフィロートのつなぎ方のパターン、アルファベットとの対応パターンは多数ありました。
「小径」の上下の位置とアルファベットは順に対応せず、アルファベットの母文字を3つの水平線に、重複文字を7つの垂直線に、単純文字を12の斜線を対応させるというルールがありました。


1が多数派、2はイサク・ルーリア、3はエリヤフ・ベン・シュロモ


カバラとエジプトの結びつき


・1662-64年
フランスのアタナシウス・キルヒャーが、「エジプトのオイディプス」を出版。
この書で、今日の西洋魔術で使われる「小径」のセフィロートのつなぎ方のパターンを提案して、上から下へと順にアルファベットを対応させた。

*ただし、「小径」の順は、純粋に上から下ではなく、径(小径)番号で15⇔16(5⇔6)、17⇔18(7⇔8)、25⇔26(15⇔16)に入れ替えがある。

キルヒャーによる小径とアルファベットの対応

また、ヘブライ語のアルファベットの順番を、下記のように9階級の天使から恒星天、惑星天を経て物質に下降し、鉱物から人間にいたる存在の連鎖の階層と結びつけた。
アルファベットの象徴に新たな意味を対応させたことになり、後にエリファス・レヴィにも影響を与えた。

文字    存在の連鎖の階層
===============
アレフ :セラフィム
ベト  :ケルビム
ギメル :トロウンズ
ダレット:ドミニオンズ
へー  :パワーズ
ヴァヴ :ヴァーチューズ
ザイン :プリンシパリティーズ
ヘット :アークエンジェルズ
テット :エンジェルズ
ヨッド :英雄
カフ  :第一動天・恒星天
ラメッド:土星
メム  :木星・火星
ヌン  :太陽・金星
サメフ :水星
アイン :月
フェー :魂・霊
ツァダイ:物質・4元素
クォフ :鉱物
レーシュ:植物
シン  :動物
タヴ  :マクロコスモス(人間)

アルファベットの対応は、「セフィール・イエツラー」とはかなり異なりますが、このように、キルヒャーが、アルファベットを基本的に生命の樹の上から対応づけたことは、アルファベットの順番を、1-18までは、高位の存在から下位の存在へと下降し、その後は、人間に向けて進化・上昇するような、創造の物語としたということになります。


・1781年
フランスのクール・ド・ジュブランが、著作「原始世界」でタロットの古代エジプト起源と、以下のような解釈を主張。

大アルカナは、21から遡って、天地創造の物語を描いている。
大アルカナは、エジプトとヘブライのアルファベットに対応する。
スートはエジプトの4つの身分(王族・貴族・軍人、聖職者、農民、商人)を表す。

この書の主張が、後のタロットの魔術化のきっかけになった。


このような、本来のタロットとは無関係な解釈が行われたのは、フランスで、タロットの遊び方やテーマが忘れ去られていたからと、当時、フランスでエジプト・ブームがあったからでしょう。


エリファス・レヴィ


・1854年
エリファス・レヴィが「高等魔術の教理と祭儀」を出版する。
レヴィは、タロットが、原初の伝統の魔術であるヘルメス文書の奥義のカバラを表現すると主張。
これがタロットの魔術化の初の理論的な試みとなった。

レヴィは、ジュブランとは逆の発想で、大アルカナを1から順にヘブライ語のアルファベットに対応させたが、「愚者」(番号なし)を20番と21番の間に置いて21番目のアルファベットのシンに対応させた。
これは、アタナシウス・キルヒャーがシンに「動物」を対応させたことに由来し、レヴィが「愚者」を動物的人間と考えたため。

  文字    大アルカナ  意味
============================
1 アレフ :1 奇術師 :存在、精神、人間、あるいは神
2 ベト  :2 女教皇 :神と人間の家、聖域、法則、グノーシス
3 ギメル :3 女帝 :言葉、充溢、多産、自然
4 ダレット:4 皇帝 :門、統治、秘儀伝授、力
5 へー  :5 教皇 :指図、証明、教育、法則
6 ヴァヴ :6 恋人 :束縛、鍵、男根、錯綜
7 ザイン :7 戦車 :武器、剣、ケルビムの炎の剣
8 ヘット :8 正義 :天秤、魅惑と反発、生命、畏縮
9 テット :9 隠者 :善、悪への嫌悪、道徳、叡智
10 ヨッド :10 運命の輪 :原理、発現、称賛、男性的栄誉
11 カフ  :11 力 :掴み取ろうとしている手
12 ラメッド:12 吊るされた男 :模範、教育、懲戒
13 メム  :13 死神 :木星と火星の空、支配と権力、再生
14 ヌン  :14 節制 :太陽の空、気候、季節、運動
15 サメフ :15 悪魔 :水星の空、隠秘学、魔術、商業
16 アイン :16 砕けた塔 :月の空、変質、破壊、変化
17 フェー :17 星 :霊の空、思考の表明、観念、不死性
18 ツァダイ:18 月 :諸要素、目に見える世界、映し出す光
19 クォフ :19 太陽 :合成物、頭、頂上、大空の君
20 レーシュ:20 審判 :成長力、大地の生殖力、永遠の生命
21 シン  :  愚者 :感覚作用、肉体、永遠の生命
22 タヴ  :21 世界 :小宇宙、全体をまとめた要約

*大アルカナの名称は仮

レヴィは、大アルカナに関して、以下のように書いている。
「奇術師」の頭の回りには普遍的精神の象徴である無限マークがあり、テーブル上と手に4スート(杖、杯、剣、ペンタクル)がある。
「女皇帝」には教皇冠にいはイシスの角をつけている。
「女帝」は「黙示録」の中の太陽を身にまとった女性と同じ。
「教皇」はヘルメスとソロモンの円柱の間に座り、ひざまづく2人の聖職者の頭とで五芒星を作っている。
「恋人」は、人間が悪徳と美徳にはさまれ、頭上の太陽が愛で悪徳を脅している。
「戦車」は2匹のスフィンクスが戦車を引き、戦車にはインドのリンガム(男根)が描かれている。
「隠者」の絵はカプチン会修道士のように見えるが、本当の名称は「慎重」。
「運命の輪」は、左側には下降するティフォン、右側には上昇するヘルマヌビス、上方には均衡を保つスフィンクスが描かれ、それぞれが物質、心(知性)、グノーシス(高次の心)を表現する。
「吊るされた男」は、両手が逆向き三角形、両足が十字架の形で、錬金術の「大作業」を表す。
「節制」は天使が生命の霊薬を構成するエキスを注いでいる。
「悪魔」は汎神的属性を備えた聖堂騎士団のバフォメット。
「砕けた塔」はバベルの塔から王のニムロデが突き落とされている。
「審判」で生き返ったのは男女・子供の「三つ組」。
「愚者」は悪徳がつまった袋を背負い、トラに噛みつかれても護ろうともしない狂人。
「世界」はテケル(王冠)を表し、真ん中の女性は真理。

また、レヴィは、「戦車(ヘルメスの戦車)」と「運命の輪」、そして、「悪魔(安息日のヤギ)を描いていて、その後のタロットの図案に影響を与えた。

レヴィによるイラスト

また、ナンバー・カードをセフィロートに対応させた 。
そして、コート・カードを人間の4段階(夫、婦、若者、幼児)に対応させた。

また、スートを聖四文字(テトラグラマトン)、4元素などを対応させ、「金貨」に「ペンタクル(五芒星形)」を結びつけた。

・棒 :ヨッド:火
・杯 :へー :水
・剣 :ヴァヴ:空気
・金貨:へー :地

レヴィは、 正しいタロット・カード作ろうとしたがなしえなかったため、後のオカルティストがこの目的を継承することになる。

ちなみに、レヴィはエテイヤについては、「タロット(トートの書)を通俗魔術とジプシーの女占い師の領域にもう一度突き落としてしまった」と批判している。


レヴィは、大アルカナを、ジュブランに反して、1から順に対応させたことは、1からの大アルカナを、生命の樹を下降する物語と考えたことになります。
タロットが遊戯用カードとして誕生した時の大アルカナは、後の方が強いというルールで作られていますので、大きな流れで言えば、この対応には無理があるはずです。


レヴィの後継者たち


> スタニスラス・ド・ガイタ

・1889年
薔薇十字カバラ団の設立者のスタニスラス・ド・ガイタが、レヴィの意志を継承し、オスワルト・ウィルトとともにタロット・カード「カバラ的タロットの22枚のアルカナ」(大アルカナのみ)を出版。

ヘブライのアルファベットを記載し、レヴィに従って「愚者」は番号はないままに20番と21番の間に置いて21番目の文字シンに対応させた。

図案はマルセイユ版をもとにしているが、レヴィに従って、「奇術師」テーブル上と手に4スートの道具、帽子には無限マークを、「戦車」と「運命の輪」にスフィンクスなどを描く。
これらの図案は、その後もいくつものタロットに継承された。

・1891-97年
ガイタはタロットを論じた「創世の蛇」シリーズ全3巻を出版した。


> パピュス

・1889年
薔薇十字カバラ団の創設メンバーで、「マルティニスト会」の創設者、「黄金の夜明け」のメンバーでもあったパピュス(ジェラルド・アンコース)が、書籍「ボヘミアン・タロット」を出版。

それぞれのカードに対して、神・人間・自然に対応する3つの解釈を説く。
チャールズ・バーレットによる「秘儀参入のタロット」に基づいて、大アルカナが物質次元から霊的次元へと至る物語であると解釈する。

また、レヴィの「偉大なる神秘の鍵」に従って、「セフェル・イェツラー(光輝の書)」に基づくアルファベットの解釈を採用したが、3元素の対応は採用しなかった。

レヴィに由来するTARO十字をもとにした「コズミック・ホイール」と、パピュス独自の数秘術(神智学的加算・減算)を使って、タロットの解釈をした。
だが、非常に難解かつ、その理論の意味がよく分からないものになってしまった。

また、初めて「大アルカナ」、「小アルカナ」という呼び名を使った。

・1909年
パピュスは、書籍「タロット占術」と、オリジナルのタロット・カードを出版。
当時、大アルカナのみによる占いが流行っていたことを批判して78枚による占いを主張した。
レヴィを元にしているものの、エテイヤの影響も受けている。

パピュスのタロット


> オスワルト・ウィルト

・1926年
オスワルト・ウィルトがオカルト・タロットの百科事典的書籍「中世絵師たちのタロット」を、新しいタロット・カードとともに出版。

大アルカナを円形に置き、「愚者」を1と21をつなぐ位置に置く。
また、大アルカナを以下のように4つに分類した。

・2-5:能動的理論
・7-10:能動的実践
・13-16:受動的理論
・18-21:受動的実践
・その他:移行

ウィルトのタロット


*参考書
・伊藤龍一「タロット大全」(紀伊國屋書店)
・ロナルド・デッカー、マイケル・ダメット「オカルトタロットの歴史」(国書刊行会)
・エリファス・レヴィ「高等魔術の教理と祭儀 教理編・祭儀編」(人文書院)




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