魔術タロットの歴史4:革新と発展
「魔術タロットの歴史3:黄金の夜明け団」に続く、最後の投稿です。
本稿では、「黄金の夜明け団」やクロウリーのタロット理論を継承しながらも、斬新な改革を行った魔術師、及び、「黄金の夜明け団」を継承した新世代の魔術師、タロット魔術を発展させた魔術師の、歴史と内容についてまとめます。
タロットの神格を召喚するタロット・タリスマン魔術についても紹介します。
革新的なタロット理論
「黄金の夜明け団」のタロット理論に大きな変更を加えた二人の魔術師のタロット理論を紹介します。
> フラター・エイカド
・1922年
クロウリーのOTO、A∴A∴に所属していたフラター・エイカドが「QBL カバラの花嫁」を出版。
・1923年
「エジプト・リヴァイヴァルもしくはタロットの光に照らされた永遠の息子」を出版。
両書で、小径は、知恵の蛇がマルクトからテケルに向かって上昇することで作られたため、生命の樹の下から、アルファベットと大アルカナを対応させるべきだと主張した。
ただし、3つの母文字を生命の樹の中心柱に置くというルールが立てられた。
こうして、下記表の通りの対応となり、下からの順には例外的な部分がある。
上記表から分かる通り、大アルカナの名前と順番は「黄金の夜明け団」に従っていて、クロウリー流ではない。
また、「黄金の夜明け団」とは異なり、カフに火星、フェーに木星を対応させて入れ替えている。
フラター・エイカドが、小径と大アルカナの対応の順番を逆転させたことは、レヴィ以外の魔術タロットの伝統を翻したことになります。
クロウリーはこれを受け入れませんでした。
ですが、後のものほど強いというタロットが誕生した時のルールからすれば、こちらの方が相性が良いのかもしれません。
また、3母字を中央の柱の小径に対応させるのは、カバラの伝統にはないはずです。
> ウィリアム・G・グレイ
・1969年
ウィリアム・G・グレイが、「魔術儀礼の方法」を出版。
彼は、「黄金の夜明け団」の「アルファ・オメガ(A∴O∴)」のメンバーだったダイアン・フォーチュンが設立した「内光協会」の通信教育から出発し、後に「サングレアル・ソダリティ」を結成した人物。
この書では、キルヒャーが定式化した小径の順番を、純粋に上から下への原則に沿って、以下のように入れ替えることを提案する。
・1984年
「カバラの概念(邦訳は「カバラ魔術の実践」)」で、小径とアルファベットを英語で対応させ、生命の樹の上から順に対応させた。
この対応では、ヘブライ語のアルファベットにない母音AEIOUを除き、Thを加えている。
そして、そのアルファベットから始まり、小径の意味に適切な言葉を記した。
また、母音には元素などを対応させた。
そして、AEIOはマルクトとテケルに、Uはテケルのみに配置する。
また、大アルカナと小径、アルファベットとの従来の単純な順番による対応を否定し、小径がつなぐ両セフィロートの象徴から、それにふさわしい大アルカナの対応を独自に考え直した。
具体的な対応は、下記の通り。
その後の1988年には「サングリアル・タロット」を出版したが、内容未確認。
ウィリアム・G・グレイが、小径と大アルカナの関係を、番号とは無関係に、両セフィロートの象徴から考え直したことは、魔術タロット史上、最も本質的で野心的な試みかもしれません。
クリフォトのタロット
「クリフォト(殻)」は、生命の樹のセフィロートの反対物です。
セフィロート(の樹)が調和した力を表現しているのに対して、クリフォト(の樹)は不均衡な力、堕落した地上世界を表現します。
クリスチャン・カバラ(西洋魔術)においては、クリフォトは悪魔と結び付けられ、ゴールデンドーンでは「赤い竜」として表現されます。
クロウリーはキリスト教の善悪二元論を転倒したので、クリフォトは邪悪なものではなく、無意識領域の古層を表現します。
クロウリーは、セフィロートの22のパスに逆対応するクリフォトの22パスに関して、その霊の名前とシジルを記しました。
ケネス・グランドは、このクリフォトのパスを「セトのトンネル」と呼びました。
1988年、アメリカ人のアーティストであり心理学の学士号を持つリンダ・ファロリオは、「セトのトンネル」に基づいたタロット本「シャドー・タロット」を出版し、イラストを公開しました。
この小アルカナは、魔導書の「ゲーティア」を利用して作られました。
黄金の夜明け団系統の新世代
> ガレス・ナイト
・1984年
ガレス・ナイトが「ガレス・ナイト版タロット」発売。
彼は、「内光協会」から出発し、W・E・バトラーと通信教育の魔術講座「ヘリオス・コース」を運営し、その後「ガレス・ナイト・グループ」を結成した人物。
このカードは1963年にサンデル・リッテルが描いたもので、内容的には基本的には「黄金の夜明け団」、ウェイト版タロット継承している。
しかし、ガレスは、キリスト教、アーサー王象徴主義、トールキンの神話世界、女神信仰などにも傾倒し、発売当時は、すでにガレスの解釈はこのカードから離れていた。
彼はその後、1986年「イメージの宝庫」、1991 年「タロットの魔法の世界」とタロットに関する書籍を2冊出版し、また、1987 年にはタロット・リーディングの通信講座を開始している。
> ドロレス・アシュクロフト・ノーウィッキ
・1991年
ドロレス・アシュクロフト・ノーウィッキが、アンソニー・クラークに描かせた「光の従徒タロット」を発売。
彼女は、「内光協会」、「ヘリオス・コース」、バトラーの「光の従徒」に参加し、「光の従徒」を率いることになった人物。
ちなみに彼女は、1990年「インナー・ランドスケープ パスワーキングによる覚醒への旅」、1997年「輝ける小径 パスワーキングの実践(邦題)」、1999年「パスワーキング入門」、2011年「魂の旅路 パスワーキングの歴史と技法(邦題)」と、タロット・カードを利用するパス・ワーキングに関する書籍を4冊出版していて、この技法の探求を深めている。
> ゴッドフリー・ダウソン
・1977年
イギリス人イラストレーターのゴッドフリー・ダウソンが、モノクロのカード「ヘルメティック・タロット」を発売。
「黄金の夜明け団」の教義に基づいているが、クロウリーの影響もあり、また、天王星、海王星、冥王星も取り入れている。
大小アルカナには意味(秘密の称号)が記されている。
大アルカナには、対応する7惑星・12宮・3元素のサインが記されている。
エースを除く36枚のナンバー・カードには、7惑星と12宮(デカン)のサインの他に、72のシェムハメフォラッシュの天使の名前が記される。
カードに付属する解説(邦訳「黄金の夜明け団の秘教哲学」)は、スチュアート・R・カプランと共同で執筆した。
> シセロ夫妻
・2000年
チック・シセロ&サンドラ・タバサ・シセロの夫妻が、「ゴールデン・ドーン・マジカル・タロット」カードを出版。
彼らはこれを「儀式タロット」と呼んでいる。
夫妻は、イスラエル・リガルディーのアメリカの弟子で、アメリカで「黄金の夜明け団」の支部を復活させ、また、「自己参入」を提唱している。
このカードは、リガルディーの協力のもとに制作され、4世界とセフィロートのカラーを表現したものになっている。
また、詳細な解説が付いている。
「黄金の夜明け団」系のカード、解説書の中で、象徴の点からは最高の一つとされる。
「節制」のカードは用途によって使い分けるように2種類が含まれている。
また、「力」に描かれるライオンの尾はクンダリニーを表現する蛇になっていて身体の内的力を表現している。
ナンバー・カードには、7惑星、12宮(デカン)のサインが記されている。
・2006年
夫妻が「タロット・タリスマン タロット天使の召喚技術」を出版。
この書では、タロットをタリズマン(呪符)として利用する魔術を公開し、目的を実現するために対応するカードの力を召喚、聖別する魔術を体系的に説明している。
このタリスマン魔術は、「黄金の夜明け団」が行った入門儀礼やパス・ワーキングでのタロットの利用とは異なる、新しい形でのタロットの魔術利用法となる。
*この詳細に関しては、後述するパラグラフで取り上げます。
> ザレウスキー夫妻
・2005年
「黄金の夜明け団」のメンバーのリチャード・ドゥドゥシャス 、 デビッド・スレジンスキーが、『ザ・クラシック・ゴールデン・ドーン・タロット』を発売。
このタロットは、メイザース流の魔術を継承していたニュージーランドの結社「ウォーレ・ラ」に伝わっていたカードをもとにしたもので、コート・カードはウェストコット・ノートに準じている。
また、パット・ザレウスキー(後述)の助言も加わっている。
このカードは、購入者が自分で着色することを想定して、モノクロで作られていて、フロレンス・ファーの四色階表が収められている。
・2008年
クリス&パット・ザレウスキー夫妻が「マジカル・タロット・オブ・ゴールデン・ドーン」を出版。
夫妻は、「ウォーレ・ラ」出身の魔術師で、トート=ヘルメス・テンプルの設立者、イスラエル・リガルディーとも親交を持つ。
この書は百科事典的な書で、錬金術やゲマトリアによる解釈も特徴となっている。
そして、おそらく上記のものと思われる全カードのイラストを掲載している。
・2022年
夫妻が、上記カードを発売。
カラーを重視して制作されていて、例えば、小アルカナは各セフィロートの色を反映している。
タロット・タリスマン魔術
上記したシセロ夫妻が「タロット・タリスマン タロット天使の召喚技術」で公開したタロット・タリスマン魔術について簡単に紹介します。
「タリスマン」とは、魔術的な力を充填して聖別したものです。
護符とは違って、特定の力を発揮するものです。
タロット・タリスマンは、タロットの大・小アルカナ・カードに対応する力を召喚し、その力によって聖別・充填をして、人を成長させ、目的を実現させる魔術です。
「黄金の夜明け団」系の魔術は高等魔術なので、あくまでも人を成長させる方向の目的で使われなければならないはずです。
カードの属性、対応は、「黄金の夜明け団」の体系と基本的には同じです。
ですが、夫妻は、どのタロット・デッキを選ぶかによって、使用できる目的が変わると言います。
例えば、ゴールデン・ドーン・マジカル・タロット(シセロ夫妻版)は、逆境に打ち勝ち自由にする、トート・タロット(クロウリー版)は調和をもたらす、ユニヴァーサル・タロット(ウェイト版)は性の神聖さやエデンの園の意味を理解する、マルセイユ・タロットは実りある結婚を確実なものにすると。
カードに対応する召喚すべき神格は、術士の宗旨・趣味によって、様々に設定が可能です。
大アルカナの場合、大天使、天使、ヘブライ語の神名、各地の神話の神々、新プラトン主義の知性体などが対応します。
小アルカナの2から10のカードの場合、各カードに2人ずつの72のシェムハメフォラッシュの天使、その3文字からなる神名が対応します。
エースの場合は各スートの元素の霊が対応します。
コート・カードの場合は、次のようなセフィロートとの対応があります。
魔術実践では、まず、実現させるべき目的に合った、象徴を持つ、タリスマンとするカードを選びます。
儀式は次のような次第で行います。
1 追儺、浄化、聖別、開場
2 守護霊召喚
3 スプレットの視覚化、力の召喚
4 タリスマンの天使の召喚、目的の宣言、視覚化
5 閉場:諸霊の帰還
1,2、5は一般的な魔術の次第です。
3のスプレットは、三角形に配置した4枚で構成されます。
1頂点:実施者を象徴するカード:主にコート・カード
2右下:初動を刺激するカード:司祭など
3左下:継続を働きかけるカード:隠者
4中央:タリスマン(目的)のカード
それぞれのカードを視覚化(観相、ありありとイメージする)します。
4では、目的を表明し、ペンタクルや神名を使って大天使や神を召喚し、タリスマンに力を満たします。
カードとともに目標が実現した姿を視覚化してそれを宣言します。
*参考書
・ロナルド・デッカー、マイケル・ダメット「オカルトタロットの歴史」(国書刊行会)
・フラター・エイカド「QBL カバラの花嫁」(国書刊行会)
・ウィリウム・G・グレイ「カバラ魔術の実践 」(国書刊行会)
・ドロレス・アッシュクロフト=ノーウィッキ「輝ける小径 パスワーキングの実践 」(国書刊行会)
・チック・シセロ、サンドラ・タバサ・シセロ「タロット・タリスマン: タロット天使の召喚技法」(国書刊行会)
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