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最近聴いているアルバムやアーティストの話. 2000年代ver(めちゃくちゃ長い)

DJ Premier 完全版の話は一体全体… おっと、前回と同じ前書きをするところだった

すみません、本当は2024年内に投稿したかったのですが、年末に体調を崩し実家に帰省してもバタバタして結局年を跨いでしまいました。
今年もMore Than Noiseをよろしくお願いします。
更新ペースはお察しください。

私はもう追いつけないです。
この業界の圧倒的"スピード感"

フォローもしてないのにXで流れてくる、Hip Hopアカウントが紹介しているアーティスト名なんてさっぱり分からない。そこでおすすめされる曲を聴いても全然好みじゃないのがほとんど。
あの界隈、なんであんなにPlayboi CartiとTyler, The Creatorが好きなんですか?
Kanye Westが日本にいる・いないがそんなに重要?
Xのアルゴリズムでたまたま表示されてるだけ???

では、老害に両足突っ込んだYAが青春を振り返り、「精神を安定させよう!!」とグダグダな感じで始めていきます。

今回の記事、途中途中で脱線するのはいつものことですが多分過去の投稿で一番長いんじゃないかな
興味ある方は時間がある時にゆっくり読んでみてください。

本当はこの記事で2000年代中心+新譜を紹介したかったんですが、流石に自分で読んでて疲れたので、この記事では2000年代のみ紹介します。新譜はまたの機会で。

なお、毎度のことですが博識あるHip Hop評論家やnoteでお金を貰って素晴らしい記事を書いているライターさん、You Tubeで色々と解説されているどこにそんな時間があるのか分からない方々のクオリティーには完全に劣りますのでご容赦ください。ではいきましょう。

*注意*ここから本当に長いです。

1. Lil Wayne : Tha Carter

この世には2種類の人間がいる
Lil Wayneを聴いて育ったか、それ以外か

Hip Hopと土地/地元の親和性: そもそもHip HopNew YorkBronx1520 Sedgwick Avenueで誕生した。
“通り(= Avenue)の名前”まで明記されているこの丁寧さ。
多くのラッパーがリリック内で出身地、さらにそこから踏み込んで通りの名前に言及。US Mainstream Hip Hopを聴き始めた人にとって「LAとかNew York、Texasは分かる… がっ!!!その地区のストリート名やレストランなんて知るか!」とリリックを理解しようとする中でぶつかる最大の壁の1つ: “その土地をどこまで知っているか”で挫折するかもしれない。

…がっ!!!心配無用。自分のような偏屈なリスナー以外はそんな通り名、細かい地区が突然登場しても怯まない。よっぽどそのアーティストの経歴オタクやその土地で生まれた人、行ったことがある人しか分からない。
いきなり"ハマの大怪獣" OZROSAURUSのMACCHO氏が"磯子中原"なんてぶっ込んできても神奈川県横浜市在住の人しか分からない(余談ですが、私の地元です)。
でも、「MACCHOのラップやっぱカッケー」ってなるよね。

南海電鉄や近鉄、環状線を利用している関西方面の人MSCの"ALERGY"を聴いて「西武新宿線」と出てきても"線"ってあるし、なんとなく東京の路線なんだくらい。
でも、「志人のラップ、どうなってんの?(脳処理不可)」ってなるよね。

いつものように脱線したが、アメリカ合衆国はとてつもなく広い国土を持つ。東海岸のPennsylvania州を東西に横断しようものなら車で5時間以上。New York州NYCPort Authority駅から、破竹の勢いを見せるGriseldaの拠点であるBuffaloまで長距離バス移動で8時間以上かかる。
驚くべきは、同じ州内
制度から何から異なるのでイコールではないにしても、アメリカの州=日本の各都道府県で無理やり考えるとイメージが湧く。
「今週末は表参道で買い物して、夜はコレド室町で串カツ食べて帰ろうか」と千葉県民が電車や車で東京に向かう時、8時間はかからないだろう。
何より、県を跨いでいる

アメリカ合衆国のほとんどの州が北海道より面積が広い
New Yorker(ここではNew York Cityに住んでいる人 と定義)であれば「今週末はBrooklynで適当にご飯食べて、夜は贅沢にnobuで寿司食って帰るか」は距離的には納得できる。
しかし、他州やNew York City以外に住んでいる人々にとって「今週末Manhattan行くかー!」などとは基本ならない。あったとしても何年かに1、2回ある人生における大イベントか会社の出張で飛び回っている社会人がほとんど。
同じ州だけで数時間、州を跨いでの移動は10時間以上。それだけ広い。
「だったら飛行機で移動すればよくね?」というツッコミは止めて下さい
国内線を利用する為の空港に行くのに車で2時間は普通にある。

多くのアメリカ人は自分が住んでいる街で日々生活を送り、休みの日は近郊のショッピングモールで現実世界を生きることになる
この"近郊"というのも車で40、50分は近い部類に入る
隣の州に行ったことはあるけど、もう1つ先の州なんてさっぱりなんてのはざら。

実体験として、自分がPennsylvania州のコミュニティーカレッジ(日本で言うところの短大)にいた時、Philadelphiaという全米屈指の大都市へのバスツアーが組まれた。ルームメイトだったMikeはそのコミュニティーカレッジから車で1時間ほど離れたところが実家。当時Mikeは23歳くらいだったか。そんな彼もツアーに参加するとのことで、自分も便乗。そこで「MikeはPennsylvania出身だから、何回も行ったことあるの? 」と聞くと、「生まれて3回くらいかなぁ。Allentownは近いからよく行くかも(←という都市…まぁ田舎です)」と。

アメリカ合衆国は国土が日本の約25倍あることもさることながら、それぞれの州も大きいので多くの人はほとんどの州を訪れることはない。州名が書かれていない真っ白な地図を見せて「この州はどこ?」なんて質問をすると
「うーん…ネブラスカ州?」
「違います。そこはユタ州です。ではここは?」
「アラスカ」
「ア、アラスカ!!??(別の国の上だぞ)」
なんて具合で自分が住んでいる国なのに、多くの州の場所を把握していないことがしばしば。1つ1つの州が国くらいに思ってもいい。
「お前そんなに偉そうに説明してるけどネブラスカ州の位置分かんのかよ?」と言われれば、すみません。「アメリカの真ん中あたり」が関の山。

しかし、自分が生まれ育った州やその街、日本で生活しているHip Hopリスナーはこれまであることを植え付けられてきた。

それが、

ラッパーの出身地

そのラッパーがリリック内でこれでもかと出身地をレペゼン(←個人的にニュアンスは少しずれてる気がするが、一応"代表"としておく)。
これまで様々な音源を聴いてきたリスナーは「このラッパーの出身地は◯◯」と脳内に植え付けられてきた。ラッパー達は基本的にその州の地元で育ち、売れる売れないは別問題として活動するしかない。しつこいが、アメリカは国土が広すぎる。
なんとか自分が地元を"代表"して全米に名を轟かせてやるというハングリー精神がHip Hopにはある(貧困からの脱却がメインだが)。

とどのつまり、US Hip Hopを聴いている大多数は空白のアメリカの地図を見せられ「ここはどこ?」なんて問題を出されても解答できるのは50%くらいであろう。アメリカのNBA、NFL、MLBなどスポーツ好きな人ならもう少しパーセンテージは上がるかも知れない。

しかし、これが「この人の出身は?」みたいな感じでラッパーの写真を用意されると「この人はTexas」、「Illinois州のChicagoだ」「もちろんNaSはNew York」、「Jay ZはNew YorkのBrooklyn」「Kendrick Lamar?California。もっと言おうか?LAのComptonだよ」「Boldy JamesはDetroit」という感じで洗脳されている。

誰か実験して欲しい。
このラッパーの出身は?という質問に対して正解後に「そこはアメリカのどこにあるでしょうか?」と空白の地図を出す企画。
Massachusetts州と思った場所がMaryland州とか普通にありそう。
アメリカ在住のYouTuberさん達、いかがですか?

では本題に。

Lil Wayneの出身は?

Louisiana州 New Orleans

Louisiana州最大都市 New Orleans。アメリカ南部に位置し、Mississippi川を擁するアメリカ国内の重要貿易地点。
残念ながら2025年新年早々、痛ましい事件が起こってしまったが。

Jazz発祥の地。この地区で最も古い歴史を持つFrench Quarterはフランスやスペイン占領下時の建物が多く残り、墓地も観光地になっている異質な都市(New Orleansの海抜が理由と言われている。気になる人は調べてみてね。過去ハリケーンで壊滅的被害を受けたのもこれが関係している)。
そして、YAが親父もろともカジノで爆死した場所でもある

No Limit RecordsMaster Pが全米に(Hip Hopとしての)"New Orleans"を広げ、「プロジェクト(団地)と貧困に苦しむ人々を救いたい」で始まったBirdmanを頭取とするCash Money Recordsの奮起。
そこから登場したLil WayneHot Boyzの中心人物。
「これLil Wayneだろ」と一発で分かる特徴的な声。
「お前いつ寝てるんだ?」とリスナーが心配になる2002年〜2008年間のミックステープ大量リリース。
「ロックンローラーになる」といきなり迷走し、別の意味でリスナーが心配になるなど話題性も豊富なLil界隈のレジェンド。

本名Dwayne Michael Carter Jr. から取ったアルバム: Tha Carter
ほぼ全ての曲をプロデュースしているMannie FreshもNew Orleans出身

Tha Carterシリーズの1弾目。「ここ(New Orleans)に戻ってきたぜ」とありがちのIntroから始まるが、これが強烈
とだけ書くと多くのHip Hop評論家と称される、さぞかし博識ある方々や日本のリスナーに怒られそうなので以下に少し詳細を。

Tha Block is Hot、Lights Out、500 Degreezのスタジオアルバムを経て2004年にリリースしたTha Carter。アルバムジャケットも最強(語彙力)。
Lil Wayneの背景はNew Orleans独特の街灯。Introの”Walk In”も、当然Mannie Freshがプロデュース。日本で日々生活している人には意味不明なリリックが炸裂。
抜粋すると

I hear you haters slanderin' me, I just hand 'em to P
Any drama, I pace it like Indiana
I take your grandma pacemaker and just hand her the piece
Not two fingers, I simultaneously pop two bangers
You do not want angus, USDA prime beef, you're dead meat

ヘイター達が俺に文句を言ってるが、それに"P"を渡す
こんな感じで、Indianaペース
お前の祖母のペースメーカーを取って"piece"を渡す
2本指じゃなくて、同時2発打ち込む
アンガス牛じゃなくて、USDAの最高牛、お前らは腐った肉だ

1行目の"P"が肝。
2行目のIndianaは"Indiana Pacers"というアメリカのプロバスケットボールリーグのNBAチーム名と、"Indianapolis 500"というアメリカのモータースポーツをかけている。
「Indiana Pacersのように敵を負かす」「Indianapolis 500のスポーツカーのようにお前を抜き去る」
3行目で1行目に文句を言う連中の祖母の中にあるぺースメーカーを取ってpieceを渡す。
4行目、そのpieceは多くの人が思う"piece" = "平和"のVサイン(二本指)ではなく、スラングでの"piece" = ""のことであり、それを"同時"に"2発"打ち込む。
5行目、アンガス牛(牛の品種)とUSDA(アメリカ農務省)お墨付きの牛肉で畜産関係を繋げ、結局文句言っている奴は腐った肉だと。
*しっかりとpieceとbeefで韻を踏んでいる。

少し飛ばして

I'm crucial, don't mean to spook you
But this is New Orleans, so my queens do voodoo, you know?

俺は本気だ、怖がらせる気はないが
ここはNew Orleans。俺のクイーンは"Voodoo"だぜ?

実際にオカルト好きやNew Orleansに住んだりFrench Quarterにあるブードュー教ミュージアムに訪れた人しかさっぱり分からないだろう。
ブードゥー教はアフリカの一部やここNew Orleansでも信仰されている民間信仰。New Orleansは多くの"多様性"を取り入れて発展してきた街。
ブードゥー教は多くの人にとってかなりオカルト感が強い信仰: 動物の生贄や呪術など。異質な墓も相まってアメリカでは死者の街と言われているが、その民間信仰名を入れるあたり、New Orleansのことを知らないと分からない。

余談だがNew Orleansの住宅地はこんな感じ(行ったことがあるので分かる。普段から女性がこんな感じのことはありません)↓ 

日本語での各曲のタイトルがダサすぎる。誰が思いついたんだろう。
ただアルバム自体はめっちゃいいので、是非。

「なぜお前はLil WayneのTha Carter紹介でこんなに"出身地"を語っているんだ」という読者向けに説明すると、2025年の世界最大のスポーツの"お祭り"Super Bowlの舞台がNew Orleansなんです
そこで誰がハーフタイムショーやるんだ?ってのが話題になり、今回は「確実にLil Wayneだ」という謎の声が多かった。
しかし、出演者はLos Angeles(以下LA)出身Kendrick Lamarと発表されてLil Wayneガチ勢だけではなく、幅広いUS Hip Hop界隈で炎上。
実際Lil WayneもホームタウンでのSuper Bowl出演に実質"落選"したことに「心底落ち込んだ」と言及。

そんな中でKendrickがサプライズでGNXをリリースし、ある曲でLil WayneのTha Carter III聴いたり、(Lil Wayneを真似して)ゴツいネックレスつけてたけど、結果としては(Kendrickが業界で無双しすぎて)Lil Wayneの気を損ねてしまったというようなリリックを披露。
本音なのか皮肉なのかは分からないが、これに多くのUS Hip Hopリスナーが飛びついた。こういうことに発展するのもHip Hopの面白さというか特徴というか。

ということで、多くのアメリカのHip Hopアーティストやそのリスナーは出身地や地元を意識してるという話でした。
これを意識するようになると色々なアーティスト同士の関係性が分かったりして知識が爆発的に広がります

2. Mike Jones : Who is Mike Jones?

Who is Mike Jones? (= Mike Jonesは誰なんだ?)「いや、お前だろ」とツッコミどころしかないアルバムタイトルを引っ提げて2005年に登場したMike JonesTexasのHip Hop文化であるChopped & Screwed のゆっくりで歪なビート+自分の携帯の番号を連呼するという意味不明なプロモーションで当時爆発的に流行った人物。
この頃のTexas州のHip Hopシーンは大都市HustonDallasのアーティストが基本的には一丸となって州全体を盛り上げていた印象がある。恐らくは2000年に亡くなり、先に触れたChopped & Screwedの生みの親であるDJ Screwの功績を残そうと結束したのが大きな要因であろう。何回も過去の記事で書いているが、そこからTexasやAtlanta、New OrleansなどのアーティストがUS Mainstreamに登場し"Dirty South/Southern Hip Hop"という一大ムーブメントがアメリカで巻き起こる。

4曲目のStill Tippin'Slim Thugの「GAMECUBE, Nintendo」は親の声より聴いた。

なお、過去にこのビートでJ. Coleがフリースタイルをしている(3:20辺りから)。

Mike Jonesが連呼するのは当時保有していた実際の携帯番号だったようで、リリース後に電話やらテキストメッセージが止まらなかったなんて話がある。1曲でも売れると会ったこともない遠い彼方の親戚からも連絡がひっきりなしにくるらしい。

日本でも神奈川県海老名出身のPizza Love氏が携帯番号を連呼したラップを過去に披露したことがある↓
MVのパチンコ屋の看板に時代を感じる(バジリスク絆かな?)。
ちなみに、YAは過去に五反田のとあるパチンコ屋で万枚を(以下省略)。

3.J. Cole : 2014 Forest Hills Drive

「自由になりたいか?」というIntroから始まり、1月28日というUS Hip Hop界のレジェンドRakimと同じ誕生日である"意義"を示し、自分の初体験を曝け出し(←曲としては多分童貞は捨ててない)、ドラッグディーラーと自分の環境の違いに気付き、海外に行って自分を振り返った結果、"自分の周りを愛せ"と訴える、屈指の名盤。このアルバム、ずっと聴いてます。
ちょくちょく他のアーティストをいじるあたりもJ. Coleらしいが、とにかくビートと言語が美しい。客演一切なし。

03' Adolescence から少し紹介。自分の貧乏さ、学生時代に人気になれず愚痴ばかり言っているJ. Coleに知人が説法し、こんな会話が登場する↓

I complimented how I see him out here getting his cash
And just asked, "What a nigga gotta do to get that?"
Put me on, he just laughed when he seen I was sure
 17 years breathing, his demeanor said more
He told me, "Nigga, you know how you sound right now?
If you wasn't my mans, I would think that you a clown right now
Listen, you everything I wanna be, that's why I fucks with you
So how you looking up to me when I look up to you?"
You 'bout to get a degree, I'm be stuck with two choices:
Either graduate to weight or selling number two
For what? A hundred bucks or two a week?
Do you think that you would know what do if you was me?
I got, four brothers, one mothers that don't love us
If they ain't want us, why the fuck they never wore rubbers?"

彼が現金を持っているのを褒めちぎった
聞いたんだ、「どうやってそんなに稼いでるんだ?」
そうしたら、彼は俺を笑ってる
17歳の彼が一呼吸置いてこう言った
「なぁ、お前は何を言ったか理解してるか?
仲間じゃなかったら、とんだ馬鹿野郎だ
俺はお前のようになりたいから一緒にいる
お前が俺を尊敬するなら俺はどうしろっていうんだ?
お前は大学に行くが、俺には二択しかない:
売人を卒業するか、あぶく銭を稼ぐか
どうだ?1週間に100、200ドルの稼ぎ
俺がお前だったら分かるだろ
4人の兄弟、母は1人で愛情をもらえない
なんで俺らを産んだと思う?」

North Carolina州Fayettevilleという何もない田舎からJ. ColeがNew YorkのSt. Jones Universityに行く直前の話だろう。
J. Coleは大学に行くことが出来るほどの優秀さと金銭面も問題ない環境を持ち合わせている(←アメリカでは凄いことなんです)。
しかし、J. Coleが遊んでいた知人は大学にも行けないしドラッグでしか稼げない。この違いを説法され、J. Coleは自分が置かれている環境に文句ばかり言っていたのを恥じる。本当にこのようなストーリーテーリングがうまい。

4. Lupe Fiasco : Tetsuo & Youth

大都市Chicagoのリリシスト: Lupe Fiasco。

Lupe Fiasco's Food & LiquorでUS Mainstream Hip Hopに登場しレーベルとのいざこざがありながら5枚目のスタジオアルバムTetsuo & Youthをリリースした。本アルバムは夏から始まり春で終わる

: Muralで9分弱Hook一切なしでのラップに聴いてるこっちが疲れる。
:Prisoner 1 & 2で 囚人と看守側それぞれの立場でのラップを披露。
決まり文句は「結局俺たちはどちらも囚人なんだ」と。
*囚人は文字通り囚われの身、看守は「政府に囚われた囚人」という設定。
: 多くの客演を登場させ「俺は金持ち」、「俺は強い」だの「女を抱いた」とほざいているラッパー達の闇を暴く、皮肉マシマシにボロクソにマイクリレーをするChopper
:ここでアルバムは終わる。

このアルバムは最後の"春"から聴いても良い
アルバムを後ろから聴くことで別のストーリー性を持たせてくれる。
自分の"再誕"や"東方三博士の礼拝"のタイトルが登場、徐々に元の世界に戻ってくるアルバムに様変わり。最後のMuralでやっと解放されたLupe Fiascoがひたすらにラップし、夏に戻る。


5. Jeezy : The Recession 

すっかりUS Mainstream Hip HopにおいてAtlantaの大御所になったYoung Jeezy改めJeezy
Mr. Snowman = 英語でいう"粉雪"はコカインのスラング。
それを模った(ドラッグディーラーを匂わす)あだ名。
Young Jeezy時代、売り出し中だった彼が販売した"雪だるま"のプリントT-Shirtは一部の学校で着用禁止の校則ができてしまうほどの影響力があった↓

The Recession(= 不景気/不況)というアルバムで最も話題になった曲がMy President feat. NaS。2008年、アメリカ大統領の候補者となったBarack Obamaへのエール的な内容。

パフォーマンスとして広島に来て演説したり、他国に爆撃を決行してもノーベル平和賞を受賞したとかは抜きにして、このMVは本当にずるい
"アメリカ"のオンパレード
それだけアメリカの有色人種、特にアフリカンアメリカンが望んでいた大統領というのがこのMVで解る。こういうの本当にアメリカずるいよなぁ…
色んな人種をぶっ込んでくるのもずるい。
NaSの「俺の大統領は黒人で、ハルクホーガンの腕のように強い(←白人ですよ?)」がいつまで経っても分からないけどそこは聴かなかったことにしよう。

My Presidentが注目されがちだが、その他当時のTrapビート全開。
数年前に流行ったChicagoのDrillを牽引した多くのアーティスト達もAtlantaのHip Hopを聴いて凄い影響を受けている。
もっと書くと、アメリカ国内のドラッグ流通の最重要拠点がAtlanta。
色々な都市との接点があるのだろう。
ドラッグとこの音楽の関係は切っても切れない。
そしてMagic Cityという(南部の)Hip Hopで流行る流行らないを左右する超有名ストリップクラブがあるMainstreamとしての最重要都市の位置付け。
そこで生き延びてきたJeezy。凄いです。

6. Fabolous : From Nothin' to Somethin'

Atlantic Records→Def Jamと契約を移してからの最初のアルバム"From Nothin' to Somethin'" =無から何かを見出す"というHip Hopらしいタイトル。

プロデューサーにはTimbalandJermaine DupriSwizz BeatzJust Blazeといった大御所を抱えリリースしたアルバム。

客演には今でもしっかりと活躍しているアーティストが盛り沢山。

過去のStreet DreamsやReal Talkを昇華させたフロー+Ne-YoT-PainLloydなどのR&Bシンガーが登場。ラッパーでは、RansomJay ZUncle MurdaPusha Tが参加。Def Jamの力を感じる。
ASAP Rockyの嫁であるRihannaも客演に参加。

Fabolousというラッパー、50 CentだのJa RuleFat Joeといった今でも見かけるアーティストが楽曲をリリースしまくっていた2000年代のNew York Mainstream Hip Hopにおいて、リリックだけを読めば口撃的なものもあれど表立ったトラブルやラッパー大好きのbeefがほとんど確認出来ないのが凄い(Ray Jくらい?)。
強面ではなくかなり童顔で体もだいぶ細い。
2000年代のMainstreamはとにかく"力強い男性"が流行っていた時代。
そんな中でR&Bシンガーから多くのラッパーまで本当に様々なビートでのらりくらりと若干ダルそうにラップする感じ。
しかも、NBAプレーヤーや映画を題材にした話など、リリック理解を頑張りたい人を殺しかかってくるいい意味で分かり辛いものから小学生でも歌えちゃいそうなHookまで万能にこなす。
それが今まで(最近ほとんどリリースしてないけど)生き残っている理由だろうか。

2000年代に流行ったビートってどういう感じなんだろう?と思ってこのページに辿り着いたごく僅かなUS Mainstream Hip Hopを好きになりかけている皆様、このアルバムで当時をイメージしてみてください。

Dear Fabolous, please kindly release new mixtape or studio album as soon as it's ready… と、どうせFabolousには届かないメッセージを残してこのパートは終了。

7. T.I. : Urban Legend

Clifford Joseph Harris Jr.、ステージネーム T.I. (またはT.I.P.)。
彼はJeezyGucci Mane同様に全米に"Trap"というワード、そしてHip HopのサブジャンルとしてのTrapを広げた1人。多くの中高生Hip Hopリスナーが知っているであろうMigosYoung ThugがMainstreamで活躍する少し前の物語。

1980、90年代とEast Coast/West CoastのHip Hopが全米で盛り上がりを見せていたUS Mainstream。その最中、アメリカ南部のTexas州HustonからGeto BoysGeorgia州AtlantaからはOutKastLudacrisが登場し、Hip Hopにおける南部戦線を拡大していく

90年代中盤から2000年代にかけてTennessee州Memphis、Lil Wayneのパートで少し触れたLouisiana州New Orleansのラッパー達も人気を博し、US Mainstream Hip Hop界で"Dirty South/Southern Hip Hop"という"王朝"を築く

ちなみに、過去のnote記事や他のHip Hopブログでもちょくちょく登場する"Dirty South"という言葉。別に他の区分(EastとかWest)みたく、"South"だけでいいのではないかという疑問はありませんか

そもそもの発起人というか、誰がそのフレーズを使ったのかという話だが、このサイトによるとGoodie MobDirty South feat. Big Boi & Cool Breezeが起源。コーラス部分でCool Breezeが"What you niggas know about the Dirty South?" = "お前らはDirty Southの何を知ってるんだ?"というフレーズから来ているらしい。
中高生Hip Hopリスナーからは「Goodie Mob?誰?」とか「Cool Breezeなんて知らん」と思う人が多いと思うが、Goodie Mob及びBig BoiとCool BreezeはDungeon Familyである!(ラッパーのFutureがいるグループというのを伝えたかった)

その後、Huston勢はメディアに大々的に取り上げられ、ChamillionaireRidin'がチャートを席巻、電話番号連呼のMike JonesPimp-CBun-BからなるUGKなど当時のMainstream Hip Hopには欠かせない人物たちがついに全米のお茶の間に登場していく。

そんなDirty South全盛期において、T.I.は自らを"King of The South"と称し躍動。この業界は本当に「俺が王様だ」だの「俺が一番だ」と言いたがる。
まぁ、まだ彼が育った南部に留まっているからかわいい方かもしれない。
LA出身のKendrick Lamarなんて過去に"俺がKing of New York"と言ってしまっているし…

1曲目のThe Kingから3曲目のU Don't Know Meまで、とにかく南部や他地区のアーティストを煽りに煽り「おいおい大丈夫か」と外野が心配するほどの口撃。
T.I.はUrban Legendリリース後あたりからTexas州Huston、Cloverland地区のフリースタイルラッパー Lil' Flipと揉めることになる。
しかし、次のアルバムでT.I.がボロクソに(直接的な言及はしてないけど)ディスりまくって本件は議論の余地なくT.I.の圧勝。
当時の血生臭い南部のラップを聴ける名盤、それがUrban Legendです。

8. The Game : The Documentary

West Coast Hip Hopの歴史を紐解くにはあまりにも時間が足りない。
先に記載したようにHip HopはEast CoastのNew York Cityで誕生し、これまで数多のアーティストが出現し気が付くと全世界に派生することになるが、やはり生誕の地が聖地として崇められてきた。
そんな中、大都市LAやSan Francisco を中心とするBay Areaで1980年代から徐々にWest Coast (西海岸)のアーティストが頭角を現し、US Mainstream Hip Hopにおける一大ムーブメントを築く事になるのは、The Notorious B.I.G.の記事で少し触れたと思う。
東西戦争を経て、多くのアーティストが州や東部・南部などを飛び越えて交流することになりインターネットの発展も相まって直接接触しなくてもそれぞれのヴァースを送り合うなどして全米や時には英国、カナダなどのアーティストと楽曲をリリースする時代に突入した。

例に倣うかのようにThe Gameは銃で撃たれ入院。その最中にクラシックと言われるHip Hopアルバムを何ヶ月も聴き、自らラッパーに成る道を選んだ。活動中、多くの有名プロデューサーに音源が渡る中でDr. Dreも注目し、彼が創設したAftermath Entertainmentと契約。
当時のAftermathはレジェンドのRakimIce CubeEminem50 Centなどを抱える大手。ポイントは、New YorkやLA、Detroitとアーティストの出身地や拠点が違うところ。
Dr. Dreはそこに目をつけThe Gameと50 Cent率いる(G-Unit)を繋げ、LAとNew Yorkのアメリカ横断Hip Hop制圧計画を企てた。
*G-Unitの中に南部のTennessee州出身、Young Buckがいたのも大きいと思われる。まさにアメリカ全土を総なめ。

満を持して2005年に今回紹介するThe Documentaryをリリースする。
18曲中で50 Centが3曲客演。その他、G-UnitメンバーのTony YayoやEminem、Nate Doggなど登場。この辺りはDr. Dreの手腕なのだろうか。

最近日本に入り浸っていると噂のあるKanye WestプロデュースのDream。
2001年に昏睡状態からの回復、その同年にDr. Dreがアルバムを出したという奇遇を冒頭でラップ。その後The Notorious B.I.G.の"Ready to Die"・Jay Zの"Reasonable Doubt"・Snoop Doggの"Doggystyle"が一緒になったようなアルバム(または曲)であることを主張しながら、寝ている時の"夢"と願望としての"夢"を交差させ、時折実体験を入れてラップしていくスタイル。
かなり固有名詞が多めで少しハードルが高いかもしれないが、当時のUS Hip Hopとか、雑誌を知っていると結構イメージしやすい。ちょくちょくリリック内に登場するシーンが具体化されてるのでMVも是非↓

このアルバムをリリース後、Dr. DreはThe Gameに夢中になりそれを見ていた50 Centが嫉妬→確執なんて話もあるが今でもちょくちょくアルバムをリリースしているWest Coastの大ベテラン。聴いたことがなかったら聴いてみてね。

こんな感じでしょうか。

実は、最近転職したのでこれまでのような土日休みでは無くなったんですけど、とりあえず数ヶ月に1回はこんな感じで更新しようと思います。

新譜記事を現在執筆中。
相変わらず色々と情報量がないものが続きますが、引き続きよろしくお願いします!

以上。

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YA_MTN
私に生きる希望をください。