最近聴いているアルバムやアーティストの話(久しぶりなのでかなり長め)
皆さんお疲れ様、そしてお久しぶりです。YAです。
DJ Premier 完全版の話は一体全体どうなったのかも分からず、結局DrakeとKendrick Lamarのbeefもろくに追わずに12月に突入してしまいました。
日本のUS Hip Hop村は相変わらず消防車が何台あっても鎮火しきれないほど燃えたぎっている様子。とある人物がSNSやYouTubeでUS Hip Hopのリリックや事情を紹介。"言葉のあや"と表現すればいいのか、その人の言葉遣いや表現とそれを見聞きする人の間で称賛・批判が入り混じってる状況。
この問題、時々起こってる気がします。
せっかく自分が気に入った音楽・アーティスト・曲と出会って好きなように気ままに楽しんでいたら、突然SNSに登場した"謎の敵"。
まるで自分の聴き方、楽しみ方を否定されたような(←実際は否定などしていなく、"こういう聴き方もあるよ"と指南していると思いますが)。
ただ、そう思ってしまう。そのアーティストが他のアーティストにボコボコにされて、それについて紹介する"謎の敵"。追い討ちをかけるかのように振りかざされる「その曲の中身・意味を理解しているのか。」
そこで待ってましたとばかりにやってくる、「"人それぞれ"好き勝手聴かせろ」の伝家の宝刀。
自分も過去に何回苦情?クレーム?嫌がらせ?が来たことか。
前書き以上。では、ここからはいつもの感じで。
1. GloRilla : GLORIOUS
Tennessee州の大都市Memphis出身。ここ最近ではNBAのMemphis Grizzliesで河村勇輝選手がプレーしていることでUS Hip Hopリスナー以外の日本人でも見聞きすることが多くなったこの都市から頭角を表してきた女性ラッパー(超有名物流企業Fedexの本社もこの都市にある)。
16歳からラップを始め、努力が結びついたのは2022年。そこからMixtapeを出したり色々な客演をこなしていく。(個人的な意見として)悲しいかな一部ではTikTokラッパーなんてレッテルを貼られているようだが、今年満を持してスタジオデビューアルバム GLORIOUSをリリース。
Memphisを盛り上げるため、90年代から地元で草の根運動を続けてきたYo Gottiが設立したCollective Music Group(CMG)に所属しているGloRilla。あまり子どもには見せたくないPVが多く、自分自身は「あぁ、また下半身をフリフリしてる"いつものやつ"か」と思ってこのアルバムを聴いてみたら、脳天を撃ち抜かれた。
アルバムに入っている1曲以外全てYo Gottiが全てプロデュースに参加している影響なのかは分からないが、2000年代に王朝を築いたDirty South Hip HopのTennesseeサウンドをここまでかと前半からぶち込んでくる。鳴り止まないトランペットと力強い女性をアピール、昔流行った「私はあなたみたいな男性に興味はないの」とM男を一蹴するリリック。自らを"Queen of Memphis"と宣言。「議論の余地はない、私がMemphisの女王」とこれからのMemphisシーンを背負う覚悟も感じさせる。ちょっとビートに乗り切れていないのが残念だけど、それ以上にビートがずるいのでそこは目を瞑る。
2. 38 Spesh : Mother & Gun
New YorkはRochester出身。2000年代後半、US Hip Hopオタク御用達のSirius XMにて、"Invasion" Mixtapeで有名なDJ Green Lanternに特集される中で知名度を上げていき、ほとんどファッション・酒・ドラッグディーリング・プロレスのことしかラップしないGriselda一派のBenny the ButcherやConway the Machine、New YorkはYonkersの首領、JadakissにQueensのStyles Pなど、US Mainstream Hip Hopを代表するアーティスト達と共演してきた遅咲きのラッパー(39歳)。
今回のピックアップは5曲目の"Had It Coming"。客演にMobb Deepの片割れであるHavocと実はコツコツとアルバムをリリースしまくっているLloyd Banksが登場。Lloyd BanksのHook(←日本でいうところのサビ)がかっこいい。「お前らは方舟を作ってろ、俺は(今)洪水を起こすところだ」と。
ノアの方舟の話。敵対する人間に対する間接的な口撃となる。
3. Grafh & 38 Spesh : God's Timing
先ほど紹介した38 SpeshとNew YorkはQueens出身のGrafhのアルバムをここで紹介。Grafhは2000年代初頭から細々と活動をしているラッパー。
このアルバム、個人的な年間アルバムベスト10に確実に入る傑作。
Wu-TangのメンバーであるMethod Manや、RocafellaファミリーのMemphis Bleek(←久々に見た)にDipsetのJim Jonesなどなど、もう2000年代のMainstreamを聴いていた人の青春を一気に取り戻すアルバム。
"Coolin'"という曲のリリックが非常に分かりやすく、自分が"学んだこと"と自分が"見聞きしたこと"で教訓を見出していく良曲。
4.Grubby Pawz & The Hidden Character
Massachusetts州East Boston出身のビートメーカーであるGrubby Pawzと、名前すらさっぱり分からないThe Hidden Character(←日本語で"匿名")のコラボアルバム。もうですね、本当にこのThe Hidden Characterの情報が不明なんですよね。日本でいう2ch・5chにあたる海外の掲示板であるRedditでもほとんど情報がなくて特に紹介できるものがない。
過去の客演を見ればEstee NackやAl. Divioといった東海岸のアンダーグランドでハスリングしている人たちが登場しているので、その辺と繋がりがあるのかなぁ…という憶測。
YouTubeで調べてもマスクでラップしてるものしか見れない。
5.Logic : Ultra 85
MarylandはRockville出身。幾度の「もうラップ界から引退する」を経て、今年もしっかりとアルバムをリリースしてくれる辺りに好感が持てるLogic。
過去に自殺防止の曲を発表したり(PVでは同性愛についての問題も絡める)、「Hip Hopは好きだが、憎きものでもある」だのメンヘラ感を曝け出したたり日本のアニメが好きな一面も持つ。一時期Xのアカウント名、"Akira"だったしね…
ここ数年の彼のアルバムは現実世界を離れSFの世界に飛び込んでいる。今回のアルバムもジャケットでロボットが登場。個人的な意見として、Logicのアルバムは毎回"上げて落として上げる"が非常にうまい。序盤でワクワクさせて、中盤でグダグダ、終盤でまた上げるという。
終盤のCity in the Starsのverseの畳み掛ける音韻は必聴。
6. Future & Metro Boomin : We Still Don't Trust You
US Mainstream Hip Hopど真ん中。Atlanta出身、気がつけば10年以上も最前線で活躍中。JeezyやGucci Mane、T.I.が開拓した"Trap"と言われる(音楽ジャンルとしての)Hip Hopのサブジャンルを継承するFuture。そして、引く手あまたの超売れっ子ビートメーカー、St. Louisで生まれAtlantaに移り住んだMetro Boomin待望のコラボアルバム(まぁ、前からやってるんだけど)。
We Don't Trust Youというアルバムの続編としての本作。
Metro Boominは本当に器用なビートメーカーだと思う。R&BからガチガチのTrapまでなんでもこなす。
前半はほぼほぼメロディアスなR&Bパート。Hip Hopパートは19曲目のIntroから。このイントロが痺れるというかいかにも"Hip Hopらしい"。ラジオパーソナリティーであり、 Power 105.1 の名物番組 The Breakfast ClubでDJ Envyと組むCharlamagne tha GodがFutureの評価をするイントロ。
近年の"ビッグ3"、つまるところの現在のHip Hopの王冠を被っているのは誰なのか、Kendrick LamarなのかJ. Coleなのか、Drakeなのか。
この業界はとにかくレジェンドだの1位だの最強を決めたがる面白い文化があるのです。
そんなイントロから繰り出される次曲"Nobody Knows My Struggle" = "誰も俺の苦悩を知らない"でMetro BoominとSouthsideの圧倒的Trapビートに乗って自らの成功ラップを展開する。
はい、意外とこういうのも聴きますという紹介でした。
7.Pounds 448 & Bohemia Lynch : If He Dies, He Dies
New YorkはRochester出身のPounds 448と、日本は静岡県、浜松のプロデューサーBohemia Lynch氏のコラボアルバム。Pounds 448の図太い声にBohemia Lynch氏のビートを体感せよ!
客演にはRome Streetzや最近注目され始めたRochester出身のBVNGSも参加。アメリカ東海岸の"今"を聴くことができる。
映画、Rocky 4の"悪役"、ソビエト連邦のDragoがアメリカのApolloを打ち負かしノックダウンを決めた後に発する"If He Dies, He Dies" = "死ぬなら、それまでだ"というDragoにタトゥーを散りばめたインパク大のアルバムジャケット。
このBohemia Lynch氏は過去にGriselda筆頭のWestside Gunnの名アルバム、Pray For ParisのLe Djolibaのプロデューサーでもある。
(何回かスペースで会話したことあるけど、今元気かなぁ…)
8. Denzel Curry : King Of The Mischievous South
Florida州、Miami出身のアーティスト。最近来日公演も果たしており、日本の映画やアニメにも精通する人物。
アルバムタイトルに"South"とあることからも一目瞭然、ビートがもうバチバチの南部ビートで個人的な好み。US Mainstreamの2 Chainz や ASAP Rocky、MemphisのレジェンドであるProject PatにJuicy Jも参加。
今回はMemphisのフローを多く取り入れたのかな?
9.Gucci Mane : Greatest Of All Trapper
(Gangsta Grillz Edition)
結婚してから肉体改造を行い、気づいたらムキムキになっていたGucci Mane。Alabama生まれでAtlanta育ち、自らをAtlantaの地区、Mr. Zone 6と名乗りJeezyとの血まみれのbeefを繰り広げながら全世界に"Trap"を広めた生き証人。当時のDirty South王朝を振り返ると、今回のアルバムでホストを務めるDJ Dramaに当時のノリに乗っていたTapemasters, incなど多くのDJがミックステープを出しに出しまくっていた時代。
*余談ですが、公式・非公式をカウントしなければLil Wayneのリリース数が圧倒的だと思います。頭おかしいくらいにリリースしまくってました。海賊版ばっかり日本で流れてたけど。
"全てのトラップ(アーティスト)の中で偉大な人物"と、堂々たる宣言を告げるタイトルに当時のミックステープ全盛期を彷彿とさせるDJ Dramaのシャウトが青春を蘇らせる(何度でもよ ←伝われ)。
10.J. Cole : Port Antonio
Kendrick Lamar、Drake、そしてJ. Cole。一体全体、誰が今US Mainstream Hip Hopの頂点なのか?という問いに多くの日本のヘッズ(?)が「そりゃKendrick Lamarでしょ」と議論の余地なく言いそうな昨今。
ここで一石を投じておきたい。やはりJ. Coleのラップは素晴らしく、そして美しいと。
サビで「誰も俺を止められない」と口撃的に聴こえるものも、彼Verse 2はDrakeを擁護するというか、まるで手助けするような謙虚全開のラップ。
事実、J. Coleは故郷である何もないど田舎North Carolinaの地元Fayettevilleでの凱旋ライブにDrakeとJay Zを呼んだ。Drakeを盟友とし、Jay ZをRoc Nationのボスとして招いたことでFayettevilleの住民の盛り上がりはとてつもなかった。そして後半でJ. Coleがこんな事をラップしている。
これなんだ。リリックや過去のライブでの共演を知っているとこういう一語一句で感動する。憎いのは、このビート、Jay Zの Dead President IIのサンプリングなんですよね。
せっかくなんで、ネイティブのリアクション動画もどうぞ。
とりあえずこのあたりでしょうか。
Rome StreetzやCommon、Willie The Kidの新譜も良かったのですが、今回はバランス良くまとめてみました。
暇だったら年内に過去にリリースされたけど、今でも聴いてる楽曲を紹介したいな。
以上。