手解き: リリック解読(初級)
今回は、Rapを構成する"中身"をどうやって理解していくのか、つまり【リリック解読】と私が勝手に言っているそれは、どのような方法で行われるのかの初級編と題して色々と書いていきたいと思います。
ですが、解読をする前/自分で解読を試みる大前提の話として、
英単語の意味を知っているか
は各読者によって様々かと思います。
英単語に関して、人によって書いて覚えるとか、じーっとその単語を見てるとか、かつての私のようにリリックに出て来る単語を片っ端から調べるなど覚え方はそれぞれあると思いますが、とりあえず話すのにも、書くのにも、何をするにも英単語を覚えなければ話にならない というのが私の持論です。
と書くと、「文法は二の次でいいのか」とか、「"生きた英語"(←これもよく分からないけど)が大切なんじゃないのか」なんて指摘を受ける事があるのですが、語彙力がないと"生きた英語"も使えないでしょ?
そして、もう一つ読者に理解して欲しいことがあります。それが、
ネイティブスピーカーも100%"中身"を理解していない
です。
ここでのネイティブスピーカーとは、英語を日常的に差し支えなく使う事が出来る。聞く、読む、話す、書く、という4技能を駆使している。この記事を読んでいる方々の多くは日本語の"ネイティブ"でしょう。日常的に日本語を使い、ここに書かれている日本語を差し支えなく読めるし、「ふむふむ」と理解する事が出来る。
少し語弊があると思うので説明させていただくと、世の中には様々な"英語"があります。日本語でよく◯◯弁とか方言があるようなニュアンスのものもそうです。子供と大人が話す言葉(ビジネスの時に使う言葉や、家で話す言葉、語尾の変化)も違って来ます。アフリカの人が話す英語は、アメリカで話すそれとアクセントも変わる事があるでしょう。私が話す事が出来る英語も、英語圏の人からしたら「なんか変なアクセントだな(まぁ何を言っているかは分かるけど)」となる事があるかもしれません。
その土地の歴史や、そこに関わっている人、場合によってはアーティストの仲間の名前が登場する場合があります。突然Stacy(というある人物名)が登場しても、それが誰かなんてアーティストの周りの連中しか知らない事があります。要するに、"身内の話"なんて、そこの身内でしか分かりません。そういう"中身"とは別に、各ラッパー達は独自のフローを構築したりトーンを工夫してRapをするのも面白いところです。
また、アメリカの人種的な部分に少し触れると、多くのアフリカンアメリカンの人々はEbonicsという言語を使用します。Ebonicsを辞書で調べると「黒人英語」とでてきます。アメリカに住んでいる多くの黒人が、アメリカのニュースや、中高生のリスニングテストなどで見聞きする英語ではなく、日常会話でEbonicsを使用する、そしてそれは実際Rapの中でも頻繁に登場する事があります。
日本以上に格差社会が広がりを見せているアメリカですが、Ebonicsを使用する事は、会社の面接などで不利とされることもあり、実際にEbonicsから"普通の"英語に発音を矯正するプログラムもあるほどです。
そうしたEbonicsをアメリカに住んでいる白人などは普段から話す事はありませんから、Rapを聴いていて「?」となる場合があります。
では、相変わらず冒頭が長くなってしまったので、リリック解読の手順について説明していきたいと思います。今回はあくまでも【初級】です。
1.曲のタイトルからある程度の中身を理解する
例えば、I get money というタイトルの曲があったとして、そこから中身を推測します。I get money = 俺は金を手に入れる が直訳になるので、なんとなく(←という感覚で結構です)"金"のRapをするんだな という具合です。
まずはここまでで大丈夫です。そこに各アーティストのスタイルというか、日頃のリリックの中身が分かってくると、「この人はまた俺は金持ちだってのを自慢するんだな」とか、「この人は金持ちになったけど、そこからまた皮肉を入れて何かしら大切なテーマをリスナーに届けたいんだろうな」なんて様々な考えが出来るようになります。
MVも大切な要素になる事があります。I get moneyで考えると、例えば↓を見てみましょう。
50 Centというアメリカで一世を風靡したアーティストのI get moneyという曲です。
MV冒頭から金を見せびらかし、高そうな車や女性を引き連れているのが分かります。こういう場合は「金持ち自慢の曲」という解釈でいいでしょう。
2. ある程度のリリックの和訳をする
リリック解読をする上で、最も重要になるのがこの部分になります。
曲タイトルから中身を予想し、それが本当にそうなのか/そのテーマになるのかという答え合せをしていきます。これをする大前提が英単語の理解力です。ストーリーテーリング(物語)のRapであれば、場合によっては時制(過去形とか、現在形とか、未来形とかです)に注目しなければいけない場合があるでしょう。また、別の場面では日本の大学受験で必要になってくる英語の文法が大切になってくるかもしれません。これは本当にリリックによります。Rapの"中身"は大体以下のどれかに分類されます。もちろん以下のリスト以外でも色々なテーマを扱う事がありますが、書いても書いてもきりがないので、ある程度を記載します。
Rapのテーマ
①金
どれだけの金を持っているか、自分がどうやって金持ちになった、金を失ったなど。
②性に関するもの/性欲
自分の周りにはこれだけの美女達がいて、その人達とどれだけの"行為"をしたか、するのか。単純にある女性と結婚した後に何があったのかなど。恋愛ものも含む。
*女性アーティストであれば、「私の周りにはこれだけの男性が」という場合もあります。
③地元
自分の住んでいる場所がどういう地域か。そこで何が起こったのか、起こっているのか。
④自分の話/気持ち
自分がどういう過去を辿ってきたのか、それによって何を得て、何を失ったのか。自分は今どのような事を考えてRapしているのか、生活しているのか。自分語り(自慢も含む)。
⑤説教
周りやリスナーに自分の言いたい事、教訓を伝える。
⑥歴史
ある土地や国の歴史。自分の歩んで来た道のりの可能性もあります。普通に第二次世界大戦の話をする場合もあります。
⑦時事問題/政治や体制(批判)
今現在起こっている、または起こったニュース/事件にスポットをあててのRap。または、政治家に対する非難。今現在の法律や社会体制/"システム"に対する自論。
⑧ドラッグ/薬物
その薬物の手に入れ方、それを自分や周りの人はどう売りさばいたのか、薬物中毒になってどうなったのか。
⑨酒
酒を呑むとどうなるのか、(ある銘柄の)酒はどれだけ高級なものかなど。
⑩車
自分はどのような車に乗っているのか。中古車から高級車に乗り換えたなど。
⑪人種差別
自分がどのような差別を警察から受けたのか、その差別を受けて何を理解したのか。社会的地位が低いとされる人種の現状など。
⑫殺人/死
友人が事件に巻き込まれて死んだ事によって、自分はどうやって生きていくのか。自分がいかに人を殺そうとしたのかなど。
⑬宗教
キリスト教を信仰しているアーティストであれば「イエスキリストが我々を救ってくれる」とか、イスラム教徒であれば現在のイスラム原理主義者と言われている人達への誤解、イスラムは本来「平和」を第一に考えるなど。
⑭"ディス"
ある特定のアーティストや団体への"ディス"/"口撃"。
⑮親族/親友/友人
周りの人達に何があったのか、それをどう乗り越えたか、今友人は何をしているのか、久しぶりに再会して何を感じたのか。
⑯銃/凶器
自分はどのような銃を持っていて、どのような時に使うのか。
⑰犯罪
周りの人がどのような犯罪に巻き込まれたのか、どのような犯罪を企てたのか。ギャングとの接点など。
⑱日々の生活
ラッパー/アーティストとしてどのような生活をしているのか。
大体これぐらいでしょうか。①〜⑱で被る部分があるような気も(書いていながら)するんですが、ポイントは2つです。
1つのテーマについてRapする事もあれば
1曲の中で様々なテーマを扱う事もある
そして、
Rapは自由に色んな事をテーマに出来る
決して恋愛ネタだけをRapするだけではない。決して自分の"悪自慢"をするだけでもありません。ラッパーによっては、自分のイメージも大切になる場合があるので(売れたいからね)、ひたすら"悪い"事をラップする人もいます。でも、そういうラッパーでも突然「おばあちゃん、俺の面倒を見てくれて本当にありがとう」なんて曲があったりするんです。
かれこれ10年以上US Hip Hopを聴いているんですが、本当に聴けば聴くほど新しい発見があるんですよね。めんどくさい分、楽しいです。
1で自分なりにその曲の中身を想像して、2である程度の答え合わせをする。場合によってはタイトルの意味がさっぱり分からなくて、リリックを読んで「このタイトルはそういう意味か」と分かる事もあります。7〜8割ぐらいの割合でここまでである程度のリリックの"中身"を理解する事が出来ます。
これ以上深い話はまた次回に。
Article by YA