まさかの天城越え 伊豆七滝下り旅【一人旅③前編】
久しぶりに旅記録の続きを書こう。
すっかり一人旅に味を占め始めた私が春先に手を出したのは、女子的ご褒美旅だった。伊豆稲取のちょっといいホテルを予約し、踊り子号の適当な自由席(今は亡き自由席。ついこのあいだ、全席指定席になりました。河津の窓口で自由席一枚おねがいします、と言ったら、「すいませんちょうど昨日から踊り子号は自由席が無くなりまして、全席指定席となりました」と言われたのは記憶に新しいです)で伊豆稲取にストンと到着、きらめく海を見て、ホテルのプランに含まれる海辺特有の旅館夕食を堪能し、温泉にゆっくり浸かる、下調べもせずあてどもないぶらり旅。をするはずだった。とんでもないミスを犯すまでは。
【一日目】
「次は~三島~三島~」
自分のイヤホンを流れるゲームの音の向こう側から微かに聞こえる、車掌さんの三島コール。私はこのコールを聞いても尚のんびりしていた。なぜなら伊豆に行くのに三島くらい通るだろう、近いし。と思っていたからである。
ちょうどゲームが一段落したころ、踊り子号が終点に到着した。
「ご乗車ありがとうござっした~終点修繕寺です~」
しゅぜんじ? なにそれ? ここどこ? きらめく海は? と私は軽くパニックに陥った。とりあえず降りるしかないので降りると、ラブライブ(たぶんラブライブだった)のコラボ車両が隣に停まっていたりしたがそれどころではない。ホームに立って周囲を見渡すと山しかなかった。山やない! 海が見たかったの!
改札で駅員さんに事情を説明する。伊豆稲取に行きたかったんですけど……と言うと、えっ! 間違えちゃったんですか! と言われて、とにかくいったん清算してくれる。稲取はですね〜、ここからだと遠いです〜と言われて軽く絶望する。それでも駅員さんは、「海の方に行くなら河津行きのバスが駅前から出てるのでそれに乗るのが一番早いと思いますねたぶん、あっもうすぐ出ますよ、うわーちょうどです、急いで!」と業務外の案内だろうにとても親切に教えてくれた。あの時の駅員さん本当にありがとうございました。何も調べずに踊り子号に乗ってしまってほんとすいませんした。ここらへんの私はとにかく必死なので、写真が何も残っていない。
ひとまず河津(河津ってどのへんやっけ……稲取と近いんやろか……)行きのバスに乗り、河津から稲取がごく近いことをスマホで調べて安心する。それと同時になぜ自分がこのようなミスを犯してしまったのかを調査する。
「踊り子号 修善寺 終点」 検索
踊り子号は、ひとつの列車を海行きと山行きに途中で切り離す特急らしい。しらなかった……海にしか行かないもんだと思ってた……これたぶん大多数の関東人には常識のやつだ……どおりで前方の車両(海行き)は人が多くて後方の車両(山行き)は人が少なかったわけだ。(後で分かったことだが、踊り子号の乗車ホームには、前後で切り離されて違うとこ行きます、という案内が一応書いてあります。でも間違いやすいから気を付けてね! みたいな大々的な案内はなかった。これはボーッとしてると間違うわけである。) ひとつ賢くなった。私は同じような被害に遭う人が一人でも減ることを祈ってこれを書いています。
これは特に調べたわけではなく想像ですが、踊り子号の自由席が無くなったのは、行き先の車両間違いを減らすためとかありますかね。
少し落ち着いたところで窓の外の森を眺める。バスは山のカーブをぎゅんぎゅん曲がりながら登っていくので、スマホを見てると少し気持ち悪い。緑を映して目に癒しを与える作業に没頭すること十数分。
ん?
もしかしてこれからわたし天城越えするんか? あなたと越えたい山ってこのあたりなの? しらんけど
うわー! 天城峠だ―! アカン、天城越えする……! こうなったらもうあなたを殺していいですかダンスを踊るしかない。
なかなかにテンションが上がりきったところで、グーグルマップを眺めていると、付近に「伊豆七滝」の文字を発見。もしかしてこのバスを途中で降りれば、かの有名な伊豆七滝を歩いて海の方に降りられるのか? いつか行くなら登りからかなと思ってたけど、下りという楽な道筋で行ける絶好の機会ではないのか? これは行くしかないのではないか? 今日はリュックサック一つだし? 七滝の入り口に近いバス停はどこかを検索して……
降りました。滝が私を呼んでいたんだ。バスは一時間に一本くらいしか来ないし、もう戻れないゾ♡ たぶんこの瞬間から、私の行き当たりばったり症候群的なのが始まったんだと思います。身体一つで山の中に取り残される感覚に、この時は全然慣れていなかったので、すごく心細かった。同時になんというか高揚感的な、馬鹿野郎お前俺は生きるぞお前的なアドレナリンが出るというか、そういう楽しさがありました。未だにこういう山道だとその種の心細さを感じます。でもそれが楽しい。とはいえ無謀なことはしないようにしています。どんなに山深くに行ったとしても、車道や遊歩道のような、必ず人に助けを求められる場所を歩くように心がけています。
入り口すごい廃墟感ある。ほんとに観光地か?
七滝はやはり、下流から登って来る人の方が圧倒的に多いらしく、たくさんの人とすれ違うものの、私と同じ方向に歩いている人は殆どいませんでした。
ウワッほんとに滝がいっぱいある!(あたりまえ体操)
えー! 海行くより涼しくていいじゃん! 滅茶苦茶癒されました。正直稲取に直で着いてなくてよかった。間違えて本当によかった、と私は私を褒め称えながら歩きました。すれ違う人々も、予想以上のマイナスイオン感にあてられているのか、大人が、特に大人がめっちゃ目をキラキラさせていた。みんな楽しそうやん。せやな、私も楽しい。伊豆七滝は、そこそこ短い区間の中に数多くの滝があって、遊歩道も整備されていて、吊り橋や絶景ポイントがいくつもあって、かといって歩き甲斐がないわけでもない。(結構ハードな凸凹と高低差がありました)とても満足度の高い遊歩道と言えるでしょう。また来たいと思える自然でした。
伊豆の踊子はここを通って峠を越えるんだなあ。文字で記憶するのと感覚で記憶するのとは全然違う。もう絶対忘れないと思う。
奥入瀬とまではいかないけど、ザ・渓流的なポイントもある。2時間くらいかけて登り口まで下りました。大満足。この時点で脚はパンパンです。なぜかというと、下り坂や下り階段では、滑らないように滅茶苦茶踏ん張らないといけなかったから。そして、当時ウォーキング初心者だった私は、この事実を思い知ることになります。
教訓:山道は上りより下りの方がきつい。
山の中に突然現れる廃墟だいすき侍
人里まで降りてこられました。人里の証(?)である焼き団子で、自身の肉体の無事を祝い乾杯します。おいしい。これが初めてのハイキング後の焼き団子でした。この経験を経てから私は、山歩きと焼き団子の組み合わせが段々と性癖になっていき、今ではすっかり、山を歩き終わった後、団子をくれ~団子をくれよ~と呻きながらウロウロする怪人と化します。
人里に着いたらあとは再びバスに乗ってまた河津を目指せばいいようです。上流でバスを降りた時に、運転手さんが「修繕寺→河津のバス乗車券(駅で買った)を持ってるなら、またどこからでも乗れるので、取っといてください~」と教えてくれていました。途中下車したとしても買いなおす必要はないです。珍しいシステムですが助かります。バスの時間まで結構あったので、トチ狂った私は足を延ばして更に下ってみた。
なんか有名なアレだ! 名前しらんけど
棒になったヨボヨボ脚を好奇心で動かして近くまで歩きます。もはや足の痛みを感じない。たぶんこのときは脳内に麻薬物質が出てたんだと思う。橋の円の真ん中は桜がたくさん植えられた公園になってて、春はここでお花見ができるようです。流石河津。でかすぎて真下からだと全体がスマホカメラに入りきらない。
ループ橋 覚えたぞ
滝に森に土木に、あまりにもお腹いっぱいです。でも物理的なお腹は空いています。バスに乗って河津駅に到着。もう夕方です。ほんとは旅館のチェックイン時間めがけて15時に稲取に着いて温泉入りまくるつもりだったのに、とんだアグレッシブ旅路になってしまった。
ウェミダー!
ていうか曇ってるやん。この曇りだとどうせきらめく青い海は見れなかったっぽいので、七滝で正解! とまた自分を褒めまくります。旅の間の自分アゲ↑大事。
無事宿の海鮮料理にありつけました。お疲れ様でした。ふくらはぎが棒のようです。本当に本当にお疲れ様でした。踊り子号ゆるさnありがとう。
二日目に続く。