クラギ弾き語りマラソン(17曲目)

やっと最新の曲までたどりついた。

#17 milet「inside you」

歌初心者の感覚からするとmiletさんの歌唱力の高さは自分で歌ってみたあとで初めてわかる異次元のレベルの高さだと思った。随所でかかるこまかいビブラート、力みがないのに芯があってしっかり響く声質など挙げだせばキリがない。

そして歌詞をみるにこの人は意味よりも音に対して敏感であるか、重視している生粋のミュージシャン気質のアーティストなのではないかと思う。「Maybe you're Maybe your life's」とか「でも知らない誰も知らない」とかとかの微妙に音やリズムを変化させつつ似た構造のフレーズをくりかえし積み重ねて前進していくことで生まれるグルーブが歌詞によって生み出され、実際に歌ってみるとそのグルーブが口をとても気持ちよくしてくれる。平熱で上げていく、音楽的で非常にいぶし銀な歌だと思った。

自分の演奏に関しては、正直これもけっこう気に入っている。といっても改善すべき点はいくらでもあるので、気に入ってるのは私の演奏自体というよりはコンセプトやサウンドの設計図についてである。

少し話がそれるが2015年頃にトラップという新たなスタイルの音楽が流行った時、私はとても禁欲的でシブいスタイルだなと感じたのだが、その音にはクラシックギターの堅実ながら彩りのある響き、まろやかなようでいて輪郭がクッキリとしているユニークな音像が、打ち込みのビートを貴重とする昨今のポピュラーミュージックにマッチするのではないか?という可能性を考えていた。今回の「inside you」はトラップでこそないが余分な装飾の少ないストイックな曲であり、それをクラシックギターで弾くという実験をする意図が今回の選曲にはあった。そしてそれはかなり成功したと自分では思っている。21世紀にあってクラシックギターでポップスを弾き語りするというテーマにおいて深めていくべきスタイルの、独自性の高いカバー演奏にすることができたのではないかと思う。

あとは気合いである。オクターブ下げていることに劣等感をもたず、これは妥協ではなくれっきとした一つの演奏だということを自分で信じこんで歌ったのがこの動画である。といっても自分の歌で気に入らない点はいくらでもあるので聞き返すたびにストレスが溜まってはしまうのだが、Maybe you're right…のくだりの音色やグルーブ感をきちんと演出できていたり、自己流の表現を加えられたことは素直によかったと思いたい。最後のエッジボイスロングトーンはいB'zの稲葉さんインスパイア―ド。

もっとも失敗した点は高音域の音色をしっかりと作り込めなかったことである。肝心のサビで魅力的な声で歌えなかったらそれは歌謡曲として完全に欠陥品である。非常にもったいない。この曲は今後また腰をすえてしっかりチャレンジしなおしたい。上達へのプロセスとして良かった点を書き留めておくなら、発声の力みをかなりなくせたことである。息の量やのどの疲れに悩んだときはこの曲を歌うことで感覚を取り戻したい、そういう練習曲的なレパートリーにもなった。

最後にアーティストについてだが、2つの観点から歴代の女性アーティストとの関連性について気になっている。1つは美空ひばり。鼻にかかったような独特の、なんだか民謡っぽいと思わされる発声法が過去にどう日本の歌謡シーンで生まれ変遷していったのかが気になる。もう1つは小林明子をはじめとする、女性シンガーが歌う「かなわぬ恋」ソングの歌詞。inside youではいくつか引っかかった歌詞があったのだが、その代表は「もうきっと戻せないの?」である。戻れないの?でもなく、話せないの?でもなく。2人の関係性について当事者目線から離れた第3者的な力を持った存在の目線から発された不思議な言葉選びだと思った。といっても考えがまとまっていないのでこういうふわっとしたことしか言えないのだが、日本の歌の歌詞というものにすごく興味がわいた。

そんなふうにして今回の曲はいろいろ発見があったので挑戦してみて良かった。これで弾き語り開始から1か月ほどでカバーした曲の振り返りを書き終わったことになる。今日からまた新たな曲をやっていくことになるが非常に楽しみである。どうせやるならいい歌を歌いたい。誰かのためよりもまずは自分のため、自分が納得できる表現を探し出してみたいと思う。あ、でも音楽の前に今から仕事や・・・そうして現実へと引き戻されるコロナ禍の私生活であった。

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