顕微鏡下低位結紮術(精索静脈瘤手術)
私は泌尿器科医で男性不妊を専門にしています。
大学病院で働きながら、クリニック(東京など)でも治療を行い年間、約100例、精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術を行っています。
全国的にみてもかなりの数です。
精索静脈瘤については下記noteを見てください。https://note.com/moral_zephyr7803/n/n362837be9cfa
現在最も優れた手術は顕微鏡下低位結紮術です。
顕微鏡を使って、体の低い位置=足側で静脈瘤をやっつける手術です。
確実に静脈瘤を治療でき、再発率が低く、合併症が少ないです。
昔は高位といって体の高い位置(頭側)で切開していました。
しかし、切開が大きくなりがちで痛い。=全身麻酔、長い期間の入院が必要。
外精静脈という血管が処理できないため再発率が高い。
でも簡単。
という理由で稀にまだやっている病院もありますが、推奨しません。
腹腔鏡の手術もあります。一時期流行りました。
腹腔鏡は臍などに小さな穴を開けて、内視鏡で観察しながらマジックハンドみたいな長い器具で手術をします。
精索静脈瘤は左側が多いですが、右にもできることがあります。
両側の手術をするときには、時短でできるのでまだ採用している病院があります。
腹腔鏡も外精静脈の処理ができないため再発率が高く、リンパ管を損傷することが多いため陰嚢水腫(玉袋の中に風船みたいな水だまりができる)の発生率が高いです。あまり推奨しません。
現在最も優れた手術は顕微鏡下低位結紮術です。
体の低い位置=陰茎より1-2cm頭側に2cm程度の切開を行うケースが多いです。(切開の大きさは術者の技量による)
精巣につながる血管の束=精索(静脈瘤があるところ)を体の外に出してきて、顕微鏡を見ながら悪い静脈だけを処理します。
同じ手術の名前でも術者によって内容がかなり違うのが厄介です。
精索内にはリンパ管、神経、動脈、精管、静脈、筋肉などが含まれます。静脈以外は全て大切な構造物であり、全て温存する必要があります。
・リンパ管 老廃物を精巣から逃す。損傷すると陰嚢水腫(玉袋の中の水だまり)ができるリスク。0.2-0.8mm程度。
・動脈 精巣に血液を供給する。損傷すると精巣が萎縮するリスク。0.3-1mm程度。
・精管 精子の通り道。損傷すると精子が出て来なくなります。
・神経、筋肉 妊活においてどこまで関係するかは不明ですが、不要な損傷は避けるべき。
これらをどれだけ丁寧に温存=残して、悪い静脈だけを処理するかが大切です。
このためには、顕微鏡の倍率を上げて1本ずつ構造物を認識しながら=数えながら残すか処理するか(糸で縛ってきる)判断する必要があります。悪そうな構造物を何となくまとめて処理する一括結紮を行う術者もいますが推奨しません。
顕微鏡は横に置いてるだけで、ほぼ肉眼で手術しているケースも。
顕微鏡の性能が悪すぎる病院もあります。
また、静脈は結紮(意図で縛る)だけでは、緩んで再発する可能性があるため、2回結紮して間を切る必要があると考えています。
どれだけ丁寧でやるかによって手術時間が変わってきます。
2時間を超えていると技術が稚拙な印象があり、軽めの静脈瘤でも30分と聞くと、大雑把な手術なのかなと思います。
泌尿器科医は通常顕微鏡手術のトレーニングを受けないため、緻密な手術を習得するためには特殊なトレーニングが必要です。私自身は、学生時代から形成外科の研究室に通い、人工血管やマウスでの練習を繰り返して習得しました。また、学生実習ではアメリカの有名施設で顕微鏡手術のトレーニングを受けています。現在も日々、11-0という細い糸で人工血管の縫合を行っています。
このようなトレーニングを行っていない泌尿器科医が見よう見まねで行うと、思わぬ合併症や再発が起こってしまいます。
顕微鏡下低位結紮術は、高度な技量が必要ですが保険適応の手術です。
手間がかかる割に、保険点数が低いので自費診療でないと採算が合わない気もします。私は現在、大学では全身麻酔での保険、クリニックでは勤務先の都合に合わせて自費で行うこともあります。
保険の場合、日帰り局所麻酔なら4万円ぐらいの自己負担。
入院、全身麻酔なら高額療養費適応で10-20万円ぐらいの自己負担。
自費診療なら20-30万円ぐらいが相場。高いところで50万円ぐらい。
値段が高ければいいというものではないです。
私の場合、どこで手術をしても大体同じ内容(器具の違いはあるけど)で手術するよう心がけています。高い値段を取っている先生は確かに上手い傾向にある気もしますが、何とも言えません。
ただ手術をするだけでなく、手術前後の所見によって薬による治療を併用したり、人工授精、体外受精を推奨したりする必要があります。そのため、術後も定期的なフォローアップをしてくれる施設がいいと思います。ここには、女性不妊の知識も必須であり医師選びが難しいところです。
私もいつかOO法と名前をつけた方が、手術のクオリティーをアピールしやすいのかなと思ってはいます。